16-12 悪魔さん、贄も儀式もクソ雑でごめんなさい
城咲さんに借りたストレートパンツは、ギリ入った。
入るには入ったけど、ウエストきっつい! ボタン留めらんない! 城咲さん、あの体に本当に私と同じ内臓入ってるの? 内臓も細いの? 細くて巨乳とかズルすぎる!
城咲さんには、ボルドーカラーのワイドパンツを選んで裾を膝まで捲り上げてもらった。
何とも間抜けなカッコになっちゃったけど、城咲さんに有瀬くんっぽくしてくれって言われたんだもん。そんなことお願いされても、有瀬くんの私服なんてスウェットと夏のやっつけ一分早着替え姿しか知らないんだもん。
だったら、やっつけの時っぽくするしかないじゃない。
「いや、これは……」
「ちょっと引くわね……」
支度を終えてリビングに戻った私と城咲さんは、揃って体ごと顔を強張らせた。
「ねえねえ、どう!? 似合う!? 似合うー!?」
私のセーラー服を着た志貴さんがテンション高らかに迫ってきた。
袖もつんつるてんだけど、私でさえ短かったスカートがもうほんとパンツ見えるギリになってますけど大丈夫ですか? 旦那様的な意味でコンプライアンスに引っかかりませんか? 私、巻き込まれ事故で死にたくのうござりますよ?
夫による殺傷効果を高めるために、パンツも履いてないってオチだけは勘弁してね?
「とっとと撮影するぞ。消灯は一時だ。一時間の延長を許してやったんだから、絶対に時間内に収めろ。絶対だ、いいな」
「眠い。早く寝たい」
白布を被った父と黒布を纏った息子がそれぞれに言う。
どっちも身体的に志貴さんの布くらいしか着れそうなものなかったんだろうけど、それにしたって雑。雑すぎる。
何という静かなカオスだ……エセすぎるJCを生贄に、何ぞ怪しい儀式でもやってたのかな? 召喚された悪魔が可哀想だから、やめてあげてほしい。
「チョー似合ッテマスネー。良かったら、志貴さんに差し上げましょうか?」
「それはさすがに申し訳ないよー。たまに借りるくらいにしとくよー」
借りるんかい。
一体何に使うのよ……と聞くのはやめておいた。何となくろくでもない答えが返ってきそうな予感がしたので。
「い、いいんじゃない? その……色とか形、とか?」
目を逸らして斜め下を見ながら、城咲さんも感想を口にする。これまた雑な褒め言葉だけど、今に限っては致し方ないと思う。
「ありがとー! 那由多ちゃんと明日香はオソロで留佳のコスプレなんだ。可愛いねえ、本家を超えたかもしれないね!」
「はあ!? 超えるわけがないでしょう!? 留佳の方が百倍も億倍も可愛いわよ! 生みの母だからって、留佳をバカにしたら許さないわよ!?」
虚ろだった城咲さんが、憤然と志貴さんに掴みかかる。
おおー、ドーリー美少女が怒りで生命力を得てモーギュー美少女に変化した! なかなかドラマティックな瞬間に立ち会えたよ!
てか志貴さん、明らかに面白がってんね。わざと煽ったよね。
「オイ明日香、いい加減にしとけ。留佳も可愛い、お前も可愛い、志貴も可愛い……那由多も……可愛い……でいいだろうが。カメラのセッティングもできてるんだ、とっとと撮るぞ」
猛牛化した城咲さんを難なく抑え込んで、真央さんが諌める。
ちょっと、何で私のところだけ間が空いたのよ? 一人で室内の顔面偏差値下げてるからか? どうせ私なんて、美しい花々に囲まれた蟻の死骸だよ!
「那由多、可愛い可愛い。いいこいいこ」
唇を噛んで悔し涙を堪えていたら、有瀬くんが私の頭を掴んでわしわし揺らした。
ナデナデのつもりらしいけど、大分違うからね。ヨシヨシもヘッタクソだったよね。また教えてあげるから、早く覚えようね。
何故か城咲さん、志貴さん、真央さんの三人がこちらを見て戦慄したような表情を浮かべた気がしたけれど、一瞬だったから見間違いかもしれない。
真央さんに急かされてタイマーセットしたカメラの前に立つと、皆と一緒に私も適当なポーズを取って写った。
「じゃ、今夜はこれにてかいさーん! 着替えて歯磨きして寝よー!」
志貴さんのこだわりで何回もやり直しをして、やっと撮影会は終了した。
壁に掛かった時計を見れば、既に0時半過ぎ。思ったより時間は食ったけど、これなら真央さんの設定した活動可能制限時間に間に合いそうだ。
ここで、ほっとしたのがいけなかった。
そして城咲さんに借りたパンツの丈が長かったから、内側にこっそり折り返していたんだけど、それが緩んで落ちてきていることに気付いてなかった。
「うきょっ!」
おかげで裾を踏んでバランスを崩した。猿みたいな奇声を発しながら、私はそれでも転ぶまいという本能でそばにあったものを掴んだ。溺れる者は藁をも掴むってやつだ。
悪気があったわけじゃない。断じて悪意はなかった! 本当なの、信じて!
「あ」
「お」
びたんとフローリングに叩き付けられた私の耳に、二種類の短い声が届く。
「え」
身を起こして見ると、片手に白布、もう片手に黒布がある。ま、まさか……。
死ぬほど顔を上げたくない。
しかし責任持って、己のやらかしたことを確認せねばならない。
二つの相反する気持ちが鬩ぎ合ってギコギコになった首をゆっくり上げれば、果たしてそこには想像通りの惨事が広がっていた。
彫刻みたいに洗練された肉体を惜しげもなく晒した二人が、こちらを見下ろしている。
室内の明るいLED照明が、二人の姿をまざまざと照らし出していた――パンダさん柄のトランクスの方は見事に鍛え抜き磨き上げられた筋肉を凶器のように鈍く輝かせ、黒のボクサーパンツの方は細身ながら筋肉質で、バランス良く整った肢体は陰影まで美しく、内側から輝いてるようにすら見える。
「あ……え、と」
「…………て、め、え、は、有瀬の名を持つ奴を脱がす趣味でもあんのか……?」
パンダさん柄トランクスが、怒気と殺意をこれでもかと込めた低い声で問う。
その瞬間、呆然と見惚れていた私は我に返り、慌てて顔を伏せて土下座の姿勢になった。
「ぎゃあああああ! ごめんなさああああい!! すみませえええええん!!」
私が絶叫すると同時に、背後から城咲さんと志貴さんの放つけたたましい笑い声が轟いた。
もうほんと、叶うなら消えたい……申し訳な死しそう……。




