16-7 パパとママとお姉ちゃんがスッポンを退治してくれました
「ハーイ! 私は長女! こっちが次女! 似てないけれど姉妹よ!」
城咲さんの勢い任せの自己紹介に、私は脱力した。
あんた、マスクしてること忘れてない?
プレデターマスク似の平凡JKなんざいてたまるか! いくら中身が平凡でも、外見が非凡すぎるでしょ!? マスク取ったらさらに似てないのは否定できないけどさ!
「イエーイ! 次女でーす! JCのカッコしてるけどJKだよ!」
とにかく城咲さんのノリを活かして、私も元気に自己紹介しといた。自分、空気読める子なんで。
普通の子が普通のJKらしく普通にバカっぽくイベント楽しんでる感を示したことで、大学生の皆様もご安心なされたようだ。微妙な空気も緩和され、ほのぼの感が戻ってきた。
ほらね、バカと平凡は使いようなのよ。
「娘ちゃん達は仲良しなんだねー」
「お姉さんもJK? 一緒の高校通ってたりするの?」
おかげでミニスカポリスと猫ドレスの二人のお姉さんが寄ってきて、親しげに話しかけてくれた。
お、チャンス。お近付きになって仲良くなって美脚の秘訣、聞いちゃお!
「えへへー、そうなんですよー。ランチもいつも一緒なんです。授業終わったら待ち合わせて」
と、受け答えを始めた、その時だった。
「ぎぃあああ!? 何何何何何!?」
突然、左首にとんでもない激痛が走り、私は絶叫した。慌てて振り向くと、マスク越しの有瀬くんの目と私の涙目が至近距離で合う。
な、何が起こった……?
「俺だって仲良しだ」
そう言うと、有瀬くんはまた私の首に顔を埋めた。
そこで私は、やっと痛みの理由を知った。
こ、こいつ、噛みやがった!?
ていうか、現在進行系で噛んでる噛んでる噛んでる!
「いぎゃあああ! やめでやめでやめで! ギブギブギブギブギブ! うええええーん! お姉ちゃあん、助けてええええ!」
泣き叫びながら、私は手を握ったままの城咲さんに助けを求めた。
「お、お姉ちゃん……?」
が、城咲さんは軽くプレデターマスクの首を傾げただけでちっとも動いてくれない。
ダメだ、このままじゃ焼肉屋のオッサンみたいに食い千切られる!
「ママあああ! ママ、ママ、何とかして! 死んじゃう死んじゃう!」
「ママ……?」
志貴さんもぽかんとするばかりで助けに来てくれない。
こうなったら……最後の手段だ!
「パパ! パパなら止められるでしょ!? お願いパパ、助けて! もう生意気言わないから! ごめんなさいするからーー!!」
真央さんもしばし固まっていた。
が、必死の叫びがついに届いたらしい。すぐにチェーンソーを放り出してこちらに駆け寄り、有瀬くんの頭を鷲掴みにした。
しかしそれでも、有瀬くんの顎の力は弱まらない。
「死ぬ死ぬ死ぬ! 無理無理無理!」
「オイ留佳、離せ! 那由多を殺したらてめぇも殺すぞ!?」
真央さんが全身の力と渾身の殺意を込めて、有瀬くんの頭を押し戻そうとする。
「コラてめぇ、まじふざけんなよ、留佳! 可愛い息子だろうが、可愛い娘をいじめたら許さねぇからな!」
真央さんに触発されたのか、志貴さんも有瀬くんの背後に回って羽交い締めにする。
「妹を離しなさい、留佳! 痛がってるでしょ! 泣いてるでしょ! 可哀想でしょ! 待っててね、お姉ちゃんが今助けるから!」
城咲さんも私の手を引いて抱き寄せ、有瀬くんを蹴り剥がそうとする。
「いだいいだいいだいいだい! ごぁぁあ、変なとこに歯ぁ入った! 隙間、何かの隙間! そこはアカンそこは痛いそこはまじ死ぬ!」
「留佳! いい加減やめねえか! そろそろパパも怒るぞ!?」
「那由多ちゃん、死ぬな生きろ! ママがこっちに引き戻してやるから!」
「明日香お姉ちゃんもついてるわ! どうか気を確かに持って!」
いやもうその設定、いらないから!
真央さんまでさらっと乗ってんじゃないよ!
何でもいいから、早くこの自称吸血鬼の心臓に杭打って! 日光浴びせて! ニンニクと十字架に埋めて!
三人がかりでスッポン化した有瀬くんが引っ剥がされると、大学生グループは既にいなくなっていた。
そりゃ逃げますよね。完全にヤバい奴らだと思われましたよね。思われたも何も、私以外は全員ヤバい奴らなんだけどさ……。




