16-6 エイリアンにハグされてるプレデターは騙されやすいからエイリアンにハグされてる
折り返し地点となるイベント広場は、この田舎の地方都市にこんなに人がいたのかと驚くほどの超人混みだった。
立て看板によると、プロレイヤーさんをゲストに呼んだコスプレコンテストが開催されているらしい。そのレイヤーさんのファンも押し寄せてるようで、満員電車みたいな状態になっている。
コンテストを観覧するかと尋ねられたけれどご遠慮して、我々は到着してすぐに踵を返して来た道を戻り始めた。
「それじゃ、帰る前に写真撮影しようか! 向こうの撮影スペースで家族写真を撮るのが、ウチの恒例行事なんだよ!」
志貴さんが言うに、イベント広場からやや離れた場所にある公園に撮影用のスペースが設けられていて、今日の日付が入った看板も用意されているんだそうな。
大切な家族写真に私なんかが映って大丈夫なんだろうか……と心配だったけど、真央さんも構わないと言ってくれたので、僭越ながら今年はお邪魔させていただくことにした。
どうせ存在感ないから、一緒に写ったところで透明みたいなもんだろうし。
「おっ、ちょうど空いてる! すみませぇん、撮影お願いできますかあー!?」
公園に辿り着くと、志貴さんは目に付いた人に声をかけてあっという間に段取りを組んでしまった。
すごい行動力だなぁ……殺意しか放たない夫とお菓子食うばっかの息子と長年生活してきただけあるよ。生来の性格もあるんだろうけど、この二人に任せたら何年待っても家族写真撮影できないよね。
撮影してくれた仮装グループの一人に感謝を述べると、志貴さんは交代で相手にも撮影を申し出た。
「俺らは撮ったから大丈夫っすよー。それより俺らと一緒に撮りませんか?」
すると志貴さんにデジカメを返した魔法使いコスのお兄さんが、思わぬ要望を口にした。
お兄さんの連れと思われる、大学生と社会人の中間くらいといった残る三人も頷く。
「何かバラエティ豊かで、面白いなーって公園入ってきた時から気になってて。ウチら、面白そうな人達に声かけて一緒に撮影させてもらってるんです。いろんな人達のいろんなコスプレ見るのは楽しいけど、それで終わっちゃうの寂しいから記念にしたくて」
ミニスカポリスのお姉さんが笑う。
うわ、足きれーい! 脚痩せストレッチとお手入れの方法、教わりたーい!
「あたし達は大学のサークル仲間なんです。皆さんはどういったご関係ですか?」
猫耳カチューシャに猫尻尾がついたミニドレスのお姉さんが尋ねてくる。
ひゃあ、この衣装、超可愛いー! 似合わないってわかってるけど、一度でいいから着てみたーい!
「私達は家族だよー! 両親と息子と娘ちゃん達って構成だよー!」
志貴さんが意気揚々と答える。
え、まじ? 城咲さんはともかく、私まで家族枠に組み込むの? 無理ない?
……って素顔晒してるの、私だけだったわ。私以外、皆して仮面舞踏会だったわ。
「へえ、家族で参加してるんですか。仲良しなんですねー。え……? えっと、あの、完成度、高いっすね?」
メイド服を着たイロモノ枠らしいお兄さんの声が上擦る。今になって、ヤバいのがいることに気付いたらしい。
「……それはどうもありがとう。オイ、お前ら、人の嫁に近付きすぎだ。離れろ。撮影は構わねえが、嫁に触れたら許さねえぞ」
レプリカのチェーンソーが唸りを上げて稼働開始するかと思うほど、真央さんは全身から濃密な殺意を蕩け出させていた。
こっわ……お嫁さん大好きすぎやん。
近付いただけでこんだけキレるとか、もはや病みの域やん。
いや、志貴さん、ゲラゲラ笑ってないでフォローして……このままじゃあなたの旦那、コスプレ超えてリアルで殺人鬼になりそうだよ。
「ごめんねえ、これ私の旦那。身も心も殺人鬼になりきっちゃってるみたい! コスプレの鑑だね! じゃー自慢の我が子達、君達も自己紹介しちゃって!」
うわぁ、志貴さん無理すぎる言い訳と無茶振りで逃れたよ。
皆様あんまり納得してなさそうだけど、下手に突っ込んで命を危険に晒すよりは、そういうことにして受け流すのが賢い選択だよね……。
「息子だ。実は吸血鬼だ」
唯一本物の実子である有瀬くんが自己紹介すると、さらに場の空気が冷えた気がした。
ああ、皆様の目が深海を泳いでる……。
わかる、わかるよ……どこが吸血鬼なのか、説明聞いた私も理解に苦しむもん。でも、敢えてのわかんないとこが吸血鬼っぽいらしいよ。知らんけど。
恐らく声をかけたことを後悔し始めているであろう大学生グループの心中お察ししつつ、私は偽家族仲間の城咲さんにこそっと尋ねた。
「城咲さん、誕生日いつ?」
「四月三日よ。黄泉の日で覚えてるわ」
何だよ、その覚え方……。
ということは、有瀬くんよりほぼ一年早く生まれてるんだ。なるほど、それもあって母性本能くすぐられてるってとこありそうよね。
「だったら城咲さんが長女だね。てことで自己紹介よろ」
「はあ? バカじゃないの? イヤよ、バカバカしい。まさか柊さんまで志貴の悪ノリに付き合う気? こんな大嘘ついたら、閻魔さんに舌抜かれるわよ?」
「これはコスプレの一部だから嘘にならないよ。城咲さん、プレデター着てるけどプレデターじゃないでしょ?」
「ああ……そう言われればそうね。わかったわ、私が長女で柊さんが次女なのね。任せてちょうだい」
気乗りしない様子から一転、城咲さんはノリノリになって私の手を取った。
やっぱこの人、騙されやすいよね。こうもチョロいと心配になるよ……。




