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「……!?」
広い草原。
地形がやや丘のようになっており、叫び声の主が先ほどの位置から見えなかったが……少し走って下ると、すぐにその光景は目に入った。
土に尻もちをつき、腰が抜けたのか動けないでいるのは先ほどまでユウと会話をしていた団子屋の主人だ。
そして、その僅か数m先。
ゆっくりと、ゆっくりと……団子屋の主人のほうへ、追い詰めるように近づいていく四本足の【獣】がいた。
「グルルルルルゥ……!!」
いや……それは果たして、獣と呼んでいい生物なのだろうか。
その理由。
一つは、あんな大きさの虎のような生物をユウは見たことがなかった。
四足歩行で、歩き方は虎やライオンそのもの。しかしその身体の大きさはヒグマを更に一回り大きくしたように巨大で、大きなワゴン車のようなサイズ感がある。
もう一つは、あんな毛の生え方や色をした生物もユウは見たことがなかった。
熊よりも更に長毛で、風に靡くように美しく一本一本の毛が伸びている。それは美しい灰色であり、太陽光に照らされて光っているようにも見えた。
そして……なによりも。
赤く大きな目の真ん中に……更に巨大な縦に伸びる瞳が、もう一つ。
三つの赤い目で、その巨大な生物は目の前にいる団子屋の主人を見据え、一歩一歩近づいていく。
ハンターのように、警戒をしているのか。それとも……目の前にいる相手を、追い詰め、楽しんでいるのか。
「ひ、ひいいいッ……!!」
団子屋の主人は、恐怖でそこに座り込んだまま身動きをとることができない。
本能的に瞳を強く閉じて、頭を守るように抱えてその生物が迫りくる事に対して、逃げ出す事ができないようだった。
「な……あ、アイツ……!! なんで、こんなところに……!?」
ユウを追いかけてきたクロウは、遅れてその光景を見て愕然とする。
「モンスター……!! しかもありゃ、ボスクラスの……ッ!! ば、バトルレベル30以上は必要な獣型のモンスターだぜ……!? な、なんでこんな街に近い草原に……!?」
クロウは、先ほどまでの威勢をすっかり失っている。
がくがくと震えながら、一歩、一歩と後ずさりをし、その場を離れようとしていた。
「お、おい、逃げるぞ……! 今はあのNPCの方へ意識が逸れている……! 今のうちに……!!」
「逃げるって……! あの親父さんはどうするんですか!? あなた、ギルドに所属している戦士だって……!!」
「馬鹿野郎……ッ!! ありゃあ俺らが手出しできるような相手じゃねぇんだ……!! フレーム使いじゃなきゃ、あんな化け物……!!」
「フレーム、使い……?」
クロウの言っていた言葉が引っ掛かったが、今はそれどころではない。
早くこの状況を何とかしなければ。
しかし、クロウの言葉の通りであれば自分が無策で助けに入ったところでどうにもならないのではないか。
……しかし。ユウの頭に更なる恐怖がよぎる。
「こんなルフィルドの街に近い場所にあんな化け物がいたら……!」
仮に注意を逸らして団子屋の親父と逃げ出せたとしても。
あの化け物はそれを追って、先ほどまでいたルフィルドの街の方へと行ってしまうのではないか。
そんな事になれば……!
「る……ルフィルドにいるのはNPCの住人や商人や初心者の雑魚プレイヤーだらけだ! そいつらを囮にすれば、ここを離れられる……ッ! ひとまずルフィルドに逃げるぜ……!!」
「……ッ!!」
クロウの言葉に、怒りにも似た感情がユウに沸き上がった。
さっきまで彼に感じていた恐怖は、消えている。
そして、その感情は……。
「あ……!? ば、ばかやろおおおッ……!!」
作戦や考えなど無視して、目の前の巨大な獣へ突進していくという無謀な行為へとユウを走らせてしまっていた。
「ひぃぃッ……!! く、くそぉ、動け……!!」
団子屋の主人は目の前の恐怖に座り込んで身動きをとることができない。
その間にも大型の獣型モンスターは一歩、また一歩と近づいていき、その鋭い爪と牙を見せびらかすようにしている。
追い詰めてるような行動は、威嚇のためというよりも、余裕をもって目の前の標的を仕留めることができる、という余裕からきている様子だった。
「グガァァァッ……!! アアアアアーーーッ!!」
そして、目と鼻の先。
獣は丸太のような太い腕を上に掲げ、爪を相手に向けて振り下ろそうと――
「うああああああーーーーーッ!!」
全速力で走ってきたユウは、獣モンスターに思い切り体当たりをぶちかました。
「ギィィッ!?」
三本足で立つモンスターは大きくバランスを崩し、転倒するように草むらに倒れ込む。
「うあッ……!! ぐ、いっ、てぇ……!!」
モンスターの身体は柔らかくふわふわしているようなものではなく、まるで大木に体当たりをしたような硬さがあり、痛みがユウの全身に広がる。
痛み。
この世界に身体を置いて、初めて味わう、感覚。
それは現実と同じように、身体を萎縮させ、学習をするように痛みに対しての怯えがくる。
ズキン、という痛みが体当たりをした肩から脳へ伝わり、頭痛のような感覚が襲ってくる。
間違いなくそれは、現実と同じ痛みであった。
「こ……こんなにリアルに痛い必要あるの? このゲーム……!!」
ゲームの制作者を呪いながらも、ユウは団子屋の主人の方へと駆け寄った。
「親父さん! 立てる!?」
「あ、ああ……? 坊主……! おめぇ、どうして……!!」
「いいから! すぐにここから逃げよう!!」
ユウは親父に肩を貸して立ち上がらせようとする。
……しかし、そんな暇はないようだった。
「グウウウウウ……!」
目の前に現れた新たな【人間】に、モンスターはその敵意を剥き出しにしながら起き上がっていた。
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