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悠久創世譚 エデンコード  作者: ろうでい
第一話 誕生
8/9

1-7


――


「初心者丸出しだな、お前」



「……え?」


 低い、男性の声。

 その声の主を探して悠は辺りを見回す。


 すると、大きな岩の上に腰掛けた男が、腕組みをしながらニヤニヤとこちらを見下ろしているのを見つけた。


 オレンジ髪のその男は、軽鎧のような服装と、腰には鞘に収めた剣を身につけている。

 ここがメタバース世界だからであろうか、日本人の悠にはやや外国人のような外見に見えるが口から出ている言葉が日本語な事に違和感を覚えてしまう。

 髪色と同じオレンジの瞳を悠の方に向けながら、口元を歪ませて男は言葉を続ける。


「NPCに話しかけてやりとりしてるのが、初心者丸出しだって話だよ。面白ぇから、しばらく見させてもらってたぜ」


「あ……あなたは、プレイヤー、ですか……?」


「ああ」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべて、オレンジ髪の男は大岩から軽やかに飛び降りる。

 悠の前に立ちはだかると、仁王立ちをしながら腕組みをし、いやらしい笑みを浮かべながら悠の目をじっと見つめていた。


「見たところ、まだログインして一日……いや、まだ数時間って感じだな。プレイヤーネームは?」


「え?」


「プレイヤーネームだよ。ログイン前に設定しただろうが」


 ……そんな事、設定するプロセスがあったか?


 違和感を覚えつつも、ひょっとしたら自分が見落としたり聞き逃していたりしただけだと思い、悠はとりあえず自分の名前を名乗る事にした。


「あ……悠、です。一ノ瀬、悠……」


「現実世界の名前言ってどーすんだよ、アホ。プレイヤーネームだってんだろ」


「あ、え……。……ゆ、ユウ……かな?」


「……マジで頭おかしいな」


 初対面とは思えぬ罵声を浴びながらも、悠は目の前にいる自分以外の【プレイヤー】という初めて見る存在への緊張で言葉を受け入れる事しかできなかった。


 自分以外の、ダイヴギアでこの世界に入ってきている人間。

 一体現実世界のどんな人が。ニューレアルでは、どんな事をして過ごしてきたのか。

 溢れ出る興味が、緊張となって相手に上手く言葉をかけられないでいた。


「相当ガキだろ、お前。……ま、ニューレアルで現実世界の話するのも野暮ってもんだがな。流石にこっちが恥ずかしくなるレベルの過ごし方してるからよ」


「ど、どういう……」


「プレイヤーネームは現実と同じ名前にする。ウロウロしているだけで何をすればいいか分からないって動き。挙げ句の果てに、NPCとコミュニケーションとったりな。コミュ障のガキのソロプレイって感じで笑えるんだよ」


「う……」


 そこまで言われては流石に苛立ちの感情も悠に湧いてくるが……それを相手に向ける度胸がない。


 ……そういえば、ラゼはどこにいったのだろうか?こういう時に相手に言い返してくれそうな口の悪さは持っているのに。

 団子屋の親父の時もそうだったが、誰かと対面するとラゼはどこかに消えてしまうのだろうか。


「ユウ、だっけか。オメーじゃニューレアルは楽しめねぇから、さっさとログアウトしてダイヴギアを売り払う方がいいぜ。買取先によっちゃ小遣いなんて桁じゃねぇ金になるからよ」


「……そ、そんな事は、しないけど……」


「目障りだからよ。ま、俺はたまたまルフィルドに用があってきたんだが……普段はギルドの方にいるから、もう見る事もねぇか。ガキに【修羅陣】はキツすぎるしな」


「! ……しゅら、じん……」


 さっきルフィルドでアリシアのアナウンスで聞いたギルド。

 四大ギルドの内の一つ、【修羅陣】。このオレンジ髪の嫌な男は、そのメンバーだということか。


 男は嫌味な笑みを絶やさず、自分の顔の前に自分の右手を出すと、くっつけていた親指と人差し指を、スマホの画面を拡大するような動きで離す。

 すると、空間に小さな画面のようなものが出てきて、それを男は目で追った。


「バトルレベル1……。ま、当然だな。攻撃力もスピードも初期値……いや、それ以下だなこりゃ。はははは」


「……」


「俺のプレイヤーネームは【クロウ】。戦闘ギルド【修羅陣】のギルドメンバー……戦士だ。初心者のオメーに言っても分からないだろうが、バトルレベルは14。ギルドでも期待のホープとして一目を置かれている」


 クロウ、と名乗った男は勝ち誇ったような表情で顎を上げ、悠を見下ろす。


「どうだ。なんなら、俺とバトルでもしてみるか?ニューレアルでの闘いがどんなもんだか、思い知らせてやるよ」


「……いえ、結構、です……」


「遠慮すんなよ。ここはバーチャル世界……命がなくなる事なんかねぇんだ。ただ、ちぃとばかし痛みが電気信号として脳に伝わるだけなんだぜ」


「……」


「ははは。ま、現実世界でもケンカなんかしたことがねぇお坊ちゃんなんだろうな。じゃあ折角だからよぉ、どんな風に痛みが走るのか、分からせてやろうか」


 そう言いながら、クロウは右の拳を弓矢の矢を引くように、自分の顔の後ろに引いていく。

 その動きが意味するもの。そしてその照準が自分に向いていること。目の前の男が自分より大きな身体をしていること。

 恐怖が、ユウの身体を縮こまらせる。



 ああ、この世界も、現実と同じか。


 結局は、なにかで誰かと張り合って、勝てそうなものにそれをひけらかせて悦に入るんだ。


 なにが、夢の装置だ。なにが、新しい世界だ。


 ここにいるプレイヤーなんて、結局こんな――。



 ユウの思考が絶望に似た感情に支配されそうになった時。



「う、うわあああああああああッ!!」



 遠くから聞こえた、男の叫び声にクロウの動きが止まる。


 

「……! この声……!」


 ユウは、その叫び声に聞き覚えがあった。


 先ほどまで会話をしていた相手。穏やかで優しくて、威勢のある先ほどの声からは考えられない恐怖の悲鳴。



「団子屋の、親父さん……!!」



「……あ? あっ! て、てめぇ、待……!!」


 その声の主に、何が起きて叫びを上げているのか。


 それが知りたくて、ユウの恐怖心はかき消え、目の前の男を突き飛ばすようにして声のした方向へと駆けていった。



――


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