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悠久創世譚 エデンコード  作者: ろうでい
第一話 誕生
7/11

1-6


――


「それで、街の外にまた出てみたってワケか。単純だなー、お前も」


 そういえば、団子屋の親父と話をしている時には何故か姿を見せていなかったラゼがひょっこりと悠の肩に乗っかって声をかけてきた。


「うわっ。お、お前、どこいってたんだよ」


「オレはナビゲーション専用だからな。悠が他の行動をしている時には姿は基本的に消しておく主義なんだ」


「主義、って……。じゃあラゼは、俺以外のキャラとは基本的に関わらないってコト?」


「そういうコトだな」


 ケラケラとラゼは笑いながら悠の肩から降り、近場にあった岩場の岩に乗る。

 そして悠を正面に見据えて、問いかけた。


「んで、どうよ。ちょっとはこの世界のコト、分かってきたか?」



 始まりの街、ルフィルドをあらかた散策した後、再び悠は外へと繰り出している。

 

 初めてこの世界に入った時に立っていた、果てしない大地。

 緑の草原と、青い空。

 所々に岩が転がっていたり大きな木が生えているくらいで、背後にあるルフィルドの街以外になにかがある気配はない。

 丘陵地帯に存在するルフィルドは見下ろすような形となり、少し歩いてきただけでも遠くに感じるような錯覚をする。


 地平線が見えるほど広大な世界。

 このバーチャル世界がどこまでリアルを表現しているのかは分からないが、少なくとも今、悠の視界に映る景色は遮蔽物がない分現実よりも広大に見える。


「とりあえず……なにをすればいいのか分からないっていう事が分かった」


「はっ、そんなコトだろーと思ったよ」


「とりあえずお金を稼ぐのがいいのかな、とか思ったけど……。別にVR世界なワケだから衣食住には困らないし。他の人達ともっとコミュニケーションとるべきなのかな、とも思ったけど俺あんまりそういうの得意じゃないし……」


 基本的に、一ノ瀬悠は人と関わるのが苦手である。

 

 思春期は通り過ぎているつもりではあったが、こんなリアルな世界で見知らぬ人達とほいほい会話を繰り広げようとするコミュ能力は持ち合わせていない。

 団子屋の親父のように気さくに話しかけてくれる人ばかりならば良いのだが、生憎この世界はあんな人達ばかりではない。


 基本的にこの世界は、自分で開拓していくのだ。


 世界を知り、何が出来るのかを知り、何をしたいのかを決める。


 ……なんだか、現実世界ではないのに現実以上に自己決定が必要な世界なのだというコトに若干の嫌気がさし、ダイヴギアをセットした自分を後悔しつつある。


 そもそも、なんで俺の所にダイヴギアが……?


 悠の頭に、再びその疑問が湧き出しそうになったところで、ラゼの声がそれを遮る。


「じゃあまあ、とにかく色々歩いてみるワケだな」


「……あ、うん。そうするよ……。とりあえず街の外になにがあるのかもう一回知りたかったし……」


 キョロキョロと再び悠は辺りの景色を見回す。


 モンスター、なんて単語を何度か聞いていたので外にはそういう類いのものがいるかと思ったが、モンスターはおろかキャラクターすら自分の視界には見えない。


「ねえラゼ。モンスター、っていうのはその辺にいるわけじゃないの?」


「この辺りにその類いはいねぇな。あれは特に闘いが好きなプレイヤーが好んで戦闘に入れるように、例えば森の奥地だとか洞窟の中だとかに配置されていて、こういうどのプレイヤーも通るような場所にはいねぇのさ」


「あ、そうなんだ……。なるほど、この世界で闘ったりする事が好きじゃないプレイヤーへの配慮なんだね」


「そうだな。ま、出会いたきゃ怪しげな場所へ行けば出会えるぜ。もっとも、この世界じゃ痛覚もリンクしているんだってコトを忘れんなよ、悠」


「うげ……」


 つまり、世にも恐ろしいモンスターに出会い、そのモンスターに噛みつかれた時にはその痛みも感じるというわけで……。その事実に悠は身震いをした。

 現実と同じ感覚を共有している自分。そして現実世界でもケンカなんていう行為をした事はない自分に、モンスターなどというものと出会う選択肢は今のところあり得ない、と悠は誓った。


 その時、ルフィルドの街から誰かが荷車を引いてこちらに向かってくるのが見えた。


 この世界で唯一見知ったその姿に、思わず悠は声をかける。


「あれ、団子屋の親父さん?」


「おう、さっきの坊主じゃねぇか。どうした、こんな外に出ちまって」


 先ほどまではエプロンを着けていたが今はそれを外し、動きやすそうなシャツとジーパン姿。現実世界であればジム通いをしているマッチョなオジサンのイメージである。

 もっとも、頭のねじりハチマキはトレードマークのようで外してはいないが。

 団子屋の親父は大きな荷車を引いて、悠のいる方向へと近づいてきた。


「親父さんこそ、どうしたの?その荷車」


「ああ。今日は店じまいをしてな。団子に使う上新粉やら味噌やらが切れちまったからな、別の街まで買い出しだ」


「え、ルフィルドじゃ揃わないの?それ」


「ここはどちらかと言うとプレイヤーが集まったり泊まったりする観光地のような場所でな。ワシの扱うようなニッチな代物は、商業都市まで買い出しに行かないと手に入らないんだよ」


「そうなんだ……」


 バーチャル世界でも、そこは一から作り出さないと団子は作れないと知り、そして思えば世界中からログインするプレイヤーがいるこの世界で【団子】という食品がニッチな代物だという事もなんとなく悠は察した。


「一月に一度の買い出しだ。ま、楽しみみたいなもんだな。坊主も一緒に来るか?」


「あ、いや、俺金ないし……」


「はっはっは、そうか。ま、ワシはいつもルフィルドで団子屋をしているからな。気が向いたら地図でも書いてやるから、いつでも来な」


「ありがとう、親父さん」


「なんならウチでアルバイトでもするか?大金は期待はしてもらっちゃ困るが、それなりの金はしっかり出すぜ」


「え……ホント!?」


「ああ。しばらくは買い出しに出て戻らないから、それが終わったら良いぜ。どうするかしっかり考えて、それでも良いのならな」


「あ……うん!」


 団子屋の親父は気さくに笑いながら悠に後ろで手を振り、荷車を引いて通り過ぎていった。



 NPCも、プレイヤーも、この世界で間違いなく【生きている】。

 悠はそれを改めて感じた。


 そして自分も、この世界で生きていく。


 それを楽しむ方法を、しっかり探していこうと心に決めながら、親父の背中をしばらく見送っていた。


――



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― 新着の感想 ―
ここまで読みました! まさか団子屋のオヤジが主人公にとって大きな存在になるのか…… 嫌いじゃない!!!! あまり意識しないNPC引いてはモブの活躍は昔から目頭が熱くなります (まだ冒頭なのに) ちゃ…
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