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(……残り5時間。頃合いかな)
旋毛の森の中。
何処かも分からない木々の中を歩き続けるヨア、そしてその後に続くユウ。
変身は依然として解除しており、途方もなく広がる緑をあちこち見回りながら歩く二人だったが、表情はどこか穏やかでもあった。
ヨアは左手首につけた腕時計で現在時刻を確認すると、森の中から空を見上げる。
ニューレアル内でも勿論、時間に合わせて昼夜は変化する。
森に入った時にはのぼっていた太陽も、反対方向へ沈み始めた時間帯。森の中の暗闇も少しだけ色濃くなってきたような雰囲気を帯びてきている。
そんな中、ヨアは思い切り深呼吸をすると……。
「あーー、ダメだーー。もうボク達はこの森で石になるしかないんだーー」
間延びした大声で、まるで遠くにいる誰かに言うようにヨアは言うとその場に座り込んだ。
芝居がかった声に、なんとも落ち着いたような表情。誰がどう見てもそれは本心ではなかったが、ヨアは気にせず続けた。
「ユウ、もうあきらめようよーー。今からでも遅くない、この森から脱出しようーー」
「な、なに言ってるんだよ、ヨア~~。まだ諦めるには早いぜ~~」
「もうだめなんだあーー。もうおしまいだぁぁーー」
ヨアに負けず劣らず棒読みの演技で慌てるユウに更に棒読みを重ねるヨア。
その場に座り込んで上空を見上げるヨアの肩を揺するユウ。
そんな二人の声が、誰もいない森の中に奇妙なほど響く。
――すると。
森の中を、突風が吹き抜ける。
(……きたっ)
ビュウ、と一際大きな風が吹き、周りの枯れ葉や小石を巻き上げた。
その風に思わず一瞬目を閉じた二人。
目を開けたその先に現れたのは……。
三匹の黒蓑を纏った、黒い仮面。クロガラス達だった。
「なんと情けない人間共!」
「この程度で根を上げた者はいままでいなかったぞ!」
「こうも人は堕落をしたか!」
三匹は仮面の下から口々に、怒ったような罵声をユウとヨアに投げつけた。
三匹は横一列に並び、ユウとヨアとは数mの距離を保っているが、最初に現れた時よりは明らかに距離が近い。
どうやら、二人の情けない姿を見て慌てて飛び出してきたといった様子だ。
そんなクロガラス達をヨアは横目で見ると、ふっ、と自嘲気味な笑みを浮かべる。
「もう無理なんだよーー。だからボク達はこの森から脱出するんだーー」
「愚かな!そんなことが許されるわけがなかろう!」
「久遠晶を探さずして諦めるなど、とんだ愚者よ!」
「さあ、立て人間!もう一度久遠晶を探すのだ!!」
まくし立てるクロガラス達の様子を横目で見て、ヨアは口元を綻ばせた。
(……やっぱり、困るみたいだね。ここから出られるのは。でもまあ、そうしようとしたプレイヤーも少なからずいたはずだ。そいつらも石になっているということは……)
そして、それを確認すると……大声でヨアは言った。
「ユウ! 今だ!」
「!?」
『―― 銀輝永煌!! シルバーフレーム…… イヴァレックス !!』
それは、ヨアの叫び声と同時に森に響いたラゼの声だった。
クロガラス達がヨアに注視している間、いつの間にかその背後に回ったユウは……三体のうちの中央、一体のクロガラスに向けて跳躍しながら、イヴァレックスに変身する。
「なッ……!!??」
「おりゃああああああーーーッ!!」
そして、変身を終えると同時に右手に持ったノヴァブレードを――
思い切りクロガラスに向けて振り下ろした!
「ぐ、ぎゃあああああ……ッ!!」
あまりの不意打ちに回避行動もとれず、その斬撃で身体を両断されるクロガラス。
血が噴き出るわけでもなく、その身体は光に包まれ、空気に溶けるように消滅していった。
「な、にぃぃぃッ!?」
「卑怯なッ……!?こ、この、人間がッ……!」
事態を飲み込んだ残り二体のクロガラスは二手に分かれ、イヴァレックスからバックステップで距離をとる。
以前に見せた素早い動きを再び取り戻したような二体の動きであったが、イヴァレックスはそれを追撃しようとはせずにその場に立ちヨアの方向を見ている。
何故ならば……。
「……あッ!」
「し、しまッ……!!」
ユウが倒した一体のクロガラス。
その消滅した身体から出現した……一つの球体。
久遠晶が、コロコロとヨアの方へと転がっていったからだ。
「へへへ、やっぱり、ヨアの言った通りだったな……!卑怯なのはどっちなんだよ、ったく……!」
イヴァレックスに変じたユウは腕組みをして勝ち誇ったように言うと、左右に分かれた二体のクロガラスをそれぞれ指さした。
一方でヨアは、転がってきた久遠晶をつま先で受け止めると屈んでそれを手にとり、眼前に持ってきて勝ち誇った笑みを浮かべる。
「予想通り。きみ達3匹のクロガラスでそれぞれ1つずつ、久遠晶を持っていたってわけだ。森のあちこちに放り投げた後にきみ達がすぐ、ボク達の前から姿を消した理由はこれだね?」
「ぐ……!」
「ぐ、ぐぐ……!」
反論できずにその場で震えることしか出来ないクロガラスに、ヨアは続ける。
「【旋毛の森に必要なものは、知恵。知恵無きものは絶望し、石となる】【力ではなく知恵を絞ること】【6つの久遠晶は確実に旋毛の森の中にある】……。これらの言葉は全て、きみ達クロガラスが久遠晶を隠し持っているという事実を隠す布石さ。ただでさえ素早いきみ達に攻撃を仕掛けるのは無駄、広い森のどこかに必ず6つの久遠晶は存在し、クロガラスに戦闘を仕掛けるのは知恵ではなく力で立ち向かっているので間違っている……という誤認をさせるためのね」
「6つのうち4つっていうゲームルールも絶妙だよなぁ。森の中で3つは見つけられても、クリアに必要なもう1つはお前らクロガラスを倒さないとどう足掻いても手に入らないワケだしさぁ」
「きみ達はそうやって、【久遠晶探しゲーム】にプレイヤーを注力させて【クロガラス退治】から目を背けさせていたのさ。そして12時間を過ごしてしまったプレイヤーはきみ達と戦うことなく石にされる……。わかっちゃえば単純な罠だけど、クロガラスのスピードにそもそも対応できなけれそもそもクリアが出来ないクエストだしね……」
ヨアは溜息をついて、久遠晶を自分のバッグの中にしまう。
「森から脱出しようとしたプレイヤーも、キミ達が戦闘を仕掛ければいい。そのスピードであれば楽にプレイヤーを強制ログアウトに出来て……それで、制限時間。石化してしまうというわけさ」
ヨアの説明が終わった。
クロガラス達はそれを確認し、肩を揺すって笑い始め、交互に言葉を発し始める。
「く……クク……。仕掛けが分かったからとて、どうだと言うのだ……!」
「不意打ちで我ら一体は倒せても、もう二度と同じ手は食わぬぞ……!」
「二度と貴様らの前に姿は現さぬ……!我らのスピード……貴様らは追いつくどころか、見ることもできぬ……!」
「クク……無駄な時を過ごし、この森で石になるが良い……。貴様らは久遠晶を必ず手に入れないといけないのだろう……?」
勝ち誇ったようなクロガラスの声色。
しかしヨアは、同じように勝ち誇った顔を二体のクロガラスに見せ……そして告げた。
「……残念だったね。ボクの力はさ……きみ達くらいの速さなら、しっかり見えちゃうんだよ。……ボクの眼……」
そして自身のギアブレスに触れ、歯車型のボタンを押す。
「……ファントム・アイならねッ!!」
歯車を回転させ、ヨアは光と共に装甲を身に纏った。
「 白醒 !!」
『 アイ・オブ・インサイト ! ホワイトフレーム…… ファントム・アイ !』
その眼に輝かしく光る、スコープと共に。
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