6-3
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「さ……三匹……!?」
イヴァレックスは困惑しながら後退る。
黒い鴉の仮面、黒い蓑で全身を覆った妖怪のような見た目のモンスターは、木から地面に降り立ったかと思うといつの間にか三匹に増えていたのだ。
瞬きをする間に起きたその事態に、自分の目をこするしかないユウ。
(ただでさえ速すぎて斬れない相手が、三匹も……!?ど……どうすりゃいいんだ、これ……!)
『落ち着け、ユウ!ひとまず相手の出方を見るんだ!』
「ラゼ……!っても……!速すぎてそれも見るどころか……」
『だから落ち着けっつーの!アイツら、こっちを攻撃する気配が全然ないだろ!?』
「あ……」
言われてみれば、そうだ。
自分が後退して距離をとったせいで気付かなかったが、三匹の【クロガラス】達はこちらを攻撃する様子がない。
武器らしいものを手に持っている風にも見えず、格闘戦で構えをとりこちらに接近してくる感じにも見えないのだ。
「……【久遠晶】を手に入れたければ【知恵を絞れ】……だっけ。とりあえず、話を聞くしかないみたいだね」
ファントム・アイに変じたヨアはふう、と一息つくと右手の拳銃を肩に当ててリラックスした体勢をとる。
「そうだそうだ。まずは試練を受け入れよ」
「さすれば久遠の結晶はそなたらの元へと集まる」
「知恵が足りればの話じゃがなぁ、ケケケッ」
同じ声色と同じ調子の三匹の言葉に困惑しつつ、ユウも肩の力を抜いてクロガラス達の方を見た。
「試練に挑め、とか言っていたっけ。ボク達はどうすればいいのさ」
ヨアが一歩前に出て聞くと、クロガラス達は蓑の中に手を隠した。
武器を取り出すのかと一瞬警戒をする二人だが……すぐにその警戒は解かれる。
「……!?それが……久遠晶……!?」
「い……いくつあるんだよ……ッ!?」
三匹のクロガラス達が蓑から取り出した、拳大の白色に光る球体。
それを、なんと三匹は両手に持っていたのだ。
計6つ。
光り輝く宝玉を見せびらかすように、クロガラス達は手を前に突き出している。
「旋毛の森の試練。それはこの久遠晶を【12時間以内に探し出すこと】」
「お主らはこの6つの久遠晶のうち【4つ以上】を見つけ出さなければならぬ」
「12時間経ち3つ以下の久遠晶しか見つけられぬ場合は……そなたらは、石となりこの旋毛の森で永遠の時を過ごすこととなる」
手を前に突き出したポーズのまま微動だにしないクロガラス達。
しかし説明を聞いたユウは首を傾げながら聞いた。
「探し出す……?探し出すもなにも、今お前らが手に持ってるじゃないか。どうするんだよ」
それを聞いたクロガラス達は――。
「知れたこと」
「こうするのだ」
「はァッ!!」
深く腰を下ろしたかと思うと、大きく背伸びをするように跳躍をする。
数メートル上空まで飛翔し、空中にピタッ、と止まったかと思うと――。
「な……ッ!」
クロガラス達は、手に持った宝玉を次々と投げ始めた。
狙いは斜め上。東西南北、あらゆる方角に高く、遠く投げられたそれは木々の間をすり抜けてあっという間にユウとヨアの視界から消えてしまう。
「……なるほどね。今投げたアレを12時間以内に探し出せ、と。探せなくちゃ石になってゲームオーバーね……。朧月商会に騙されたかなこれは」
諦めたように肩をすくめて溜息交じりに言うファントム・アイのヨア。
一方のイヴァレックスのユウは辺りをキョロキョロと見回すも、先ほどの光を放っていた球体は森の中に隠れ全く見えなくなってしまっていた。
三匹のクロガラスは再び地面に降り立ち、蓑の中に手を隠して直立不動のまま仮面の中の瞳をこちらに向ける。
「6つの久遠晶は【確実に旋毛の森の中にある】。それを探し出すのがこの試練だ」
「木の葉の上、小川の水の中、落ち葉の山の下……あらゆる場所を探すが良い」
「【知恵を絞れば】久遠晶はそなたらの前に姿を現すであろう……。それでは」
再び、三匹のクロガラスは腰を深く落とす。
しかし今度は、上への跳躍ではなく、そのまま横へと駆け出した。
「さらばだ!」
「我らは森と共におる!」
「久遠晶を見つけたのならば、再び相まみえるであろう!」
そして、まさしく風のように、三匹は忽然と姿を消した。
静寂が、ユウとヨアの周囲を包む。
不気味な三匹であっても、喧しいほどのその言葉が消えれば後に残るのは森の静けさだけであった。
「こ……こんな広い森で、あんな小さい球見つけろっていうのかよ。無理ゲーじゃないか……!?」
猫背になってやる気なく辺りを見回すユウに、すっかり闘志というものは消えている様子であった。
「なあ、ヨア。なにか作戦とか……。……ヨア?」
一方のヨアはファントム・アイのまま普段考え事をする時と同じように、人差し指を仮面の口元に当てている。
そのヨアにユウは近づきながらもう一度声をかけた。
「どうしたんだよヨア。なんか良い案でも考えてんのか?」
「……。……いや。ただ、なんとなく……この試練がどういうものなのかな、って」
「どういうものもなにも、あいつらがぶん投げた久遠晶とかいう球を見つけ出す試練、なんだろ?それを12時間以内にこの森で4つ以上……。めんどくさいし無理っぽいしぃぃ……」
「……うん」
頭を抱えてしゃがみ込むユウが眼中にないように、ヨアは直立不動のまま考え事を続けていた。
「……だから、どうしたんだよヨア」
「……あのクロガラス達さ。なんで姿を消したんだと思う?」
「え?」
「試練をボク達に伝えて、すぐにこの場から立ち去った。……なんでだと思う?」
「そりゃ……試練は俺達だけで頑張れ、ワシ達は手助けはせんぞ、的な考えで隠れたんじゃないの?」
「……。久遠晶を4つ以上、か。ま、出来なくもないけどね」
「……え?」
ヨアのその言葉にユウは顔を上げた。
「ボクの能力をユウに貸してあげてるんだからさ。二人がかりならなんとかなるんじゃない?」
「……え、あ……」
『なるほどなーっ!【ファントム・アイ】の視界能力なら、広範囲をくまなく探せるから普通に探すより効率がめちゃくちゃいいってことか!』
ユウがなにかを察する前に、ラゼットが二人の脳内で興奮気味に叫ぶ。
「そういうこと。ボクのファントム・アイは動体視力だけじゃなくて、広範囲を索敵したりすることもできる。探しものなんかにも便利だし、あれだけ光を放っている物体なら見逃さないよ。相当遠くにあっても方角さえ合っていれば感じ取れるはずだ」
「な……なるほどっ!ヨアはそのまま探して、俺はファントム・フォームにフォームチェンジして手分けして探せばいいわけだなっ!!」
「そういうこと」
「よっしゃー!!なんだよ、楽勝じゃんっ!!」
先ほどまでの不安が消え、喜びのあまりジャンプをするユウ。
しかしそれとは対称的に、ヨアは口元の人差し指を離さなかった。
(……もっとも【探しものがあれば】の話だけれどね……)
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