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「な、なんだよ、コレ……!!」
驚き。そして、恐怖の感情を隠せないまま、ユウはその光景に後退りをする。
石像の人々の表情は、一様に【恐怖】。
男女問わず、まるで逃げ出すような格好をしたまま絶望の顔を浮かべた石像が数十体、森の中に放置されている光景は異様でしかなかった。
「……。石だ、紛れもなく。でもなんで森の中に?」
怖がるユウとは逆に、ヨアは石像群の方へと近づいていき、一体一体をまじまじと観察していく。
コンコン、と肩や腕の部分を叩いたり質感を探ってみたりするが、それが間違いなく石であることが分かると、ヨアは口元に人差し指を当てて考え込む。
「ち、彫刻家のプレイヤーがここで芸術活動してた、とか……?」
「ボスモンスターがいるようなダンジョンでそれは考えられないよ。むしろ……その魔物の仕業とみたほうが自然なんじゃないかな」
「……じゃあ、これって……?」
「ああ。……石化させられたプレイヤー達、と考える方が自然だね」
ヨアのその言葉にユウはもう一歩後退った。
「だ……だとしたら、この人達はずっとここに閉じ込められて現実世界にも戻れない、とか……?」
「いや。多分これは【抜け殻】みたいなものなんだと思う。石化という状態異常になり、ログアウト。再度ログインしたとしてもこの状態のままだからニューレアルのゲームプレイが出来なくなって……ログインすることを諦めて放置、って感じだね。流石に、現実世界にまでこのゲームの影響が出ちゃいけないからね、運営としては」
「……そうか……。なら、ちょっとは良かったかな……」
胸を撫で下ろすユウの肩で、ラゼが声をかけてきた。
「おい、ユウ、ヨア。そこになにか書いてあるぜ」
ラゼの声にユウとヨアはその視線を追う。
石像群から少し離れたところに、木で出来た看板のようなものが立っているのが見えた。
そこに近づいていくと…… 黒の墨で書いたような筆文字が記されている。
『旋毛の森に必要なものは、知恵。知恵無きものは絶望し、石となる』
「……どうやら、間違いないみたいだ。これは皆プレイヤーの残骸だよ」
「マジか……」
「まったく、なにがフレーム使いなら楽勝でクリアできるダンジョンなんだよ……。何人かはギアブレスを腕に着けている、フレーム使いだ。それがボスにやられて石化させられてるっていうんだから笑えるよね」
「……全然笑えないんですけど……」
前髪を掻き上げて溜息交じりに呆れたというよう感じのヨアに、弱めのツッコミを入れるユウ。
――その時。
「……ッ!?」
「! な、ッ……!?」
一陣の風が、ユウとヨアに吹く。
その風は、自然に起きた風ではない。
なにかが高速で二人の前を横切り、それが巻き起こした風であった。
「ケケケケケッ!!」
甲高い笑い声が、森中に木霊するように響く。
それは木々の間を跳躍するように駆けて、ユウとヨアの周りを遊ぶように回る。
人の目ではその正体が輪郭すら掴めないような高速のそれは、ひたすら笑い声をあげながら回り続ける。
「ユウッ!! 変身するよ!!」
「お……おう!! ラゼ、頼むッ!!」
「なんだよコイツは……ッ!! やっちまおうぜ、ユウ、ヨア!!」
光体になったラゼはシルブレスに変じ、ユウの腕に巻き付く。
ヨアは腕のギアブレスに触れ、相手の姿を目で追いながら構える。
「装醒ッ!!」
「白醒ッ!!」
イヴァレックス、ファントム・アイに姿を変える二人。
装甲を身に纏い、隙間なくユウは剣を、ヨアは銃を手に取り構えた。
「ユウ! 気をつけて!コイツ、並のスピードじゃない……!」
「分かってるよ!ヨアこそ、銃撃じゃ対応しづらいだろ、気をつけろよッ!」
縦横無尽に周囲を走り回る何かに視線を巡らせる二人。
イヴァレックスは身体能力に優れ、ファントム・アイは動体視力に優れる。
それぞれにお互いを補うように相手を警戒するが…… 走り回るそれは、変わらず二人を弄びながら走り回っていた。
「ケケケケケケーーッ!!」
「く……!! この……ッ!!」
「ユウ!」
耐えきれなくなったユウが、闇雲に前に突進した。
影のように現れてはどこかに消えるそれに向け走り、剣を振り下ろす。
しかし当然のようにそれは空を切り、刃は地面に突き刺さった。
「くそッ!!」
「ケケケッ!!遅い遅い!!それじゃあ一日かかってもワシは斬れんなぁ」
甲高い声は初めて、笑い声ではなく人語を話した。
そしてそれは、姿を現す。
ユウとヨアの頭上。
背の高い木の上に一瞬で飛び乗り、二人を見下ろしながら……仮面の下の表情は笑みを浮かべているのが分かった。
「看板を見ただろうッ! 知恵なき者はいずれ、石となりこの森で永遠を過ごすことになるのだぁ!」
その仮面は黒一色で、カラスを象ったようなクチバシを持っていた。
背格好は人間そのものであるが、全身を黒く染めた蓑で覆い隠し、素肌は一切見えない。
足に履いているのは足袋と下駄で、まるで昔話の天狗や妖怪のような出で立ちにユウはゾッとする。
仮面の下からくぐもった甲高い声が漏れるようにこちらに向けられる。
「この旋毛の森の試練を無事に突破したくば、力ではなく知恵を絞ることだ。 この宝玉……【久遠晶】が欲しくばなぁ!」
仮面の怪物は蓑から出た手袋をした腕で、その宝玉を高らかに天にかざした。
「あ、あれが……!」
「だとすれば、あいつがこの森のボスモンスターってことだね。……さっさと倒したいところだけど……」
怪物に銃を向けるヨアであるが、怪物が発した言葉が気がかりでトリガーにかけた指を引けずにいる。
【力ではなく知恵を絞ること】
仮に銃撃を行ったとしても、あのスピードに銃を当てられる確証がヨアにはなく、ユウもまた同じく、木の上の怪物に攻撃を当てる自信がなく立ち往生をしていた。
「……ケケケッ。賢明だなぁ、人間。まずは、この森の掟に従うこと。ワシを殺して久遠晶を奪うなど、到底人の身では出来はせんのだ」
攻撃の意思を解いたと見なした怪物は、木の上から飛び降りユウとヨアの前に着地した。
かなりの高さから飛び降りたはずであるのに、まるで羽が下りたかのようにふわり、と音もなくそれは地面に降り立つ。
「ワシの名は【クロガラス】。この宝玉の、そしてこの森の番人よ。さあ、ワシの試練を受け、見事、久遠晶を手にしてみよ!……人間!」
そして、そのアヤカシは――。
「さあさあ!」
「挑んでみせよ、人間!」
背後から現れた全く同じ見た目、同じ装いの二匹を加え、三匹となった。
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