6-1
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「ここが……」
「旋毛の森……」
馬車から降りたユウ、そしてヨアは、目の前に広がる木々の群れを見つめて呟いた。
空は晴天。
しかし、眼前に広がる木々は太陽の光を遮り、日中だというのにその森林の内部は夜のように暗い。
自分達が今いる街道から、まるで切り取られたような別世界。
それが左右を見回しても、広がり続けているのだ。
「この森の広がりは、まさしく旋毛。広大、そして渦のように木々が広がり、中に入ったものの方向感覚を狂わせます。一度入ったら最後、永久にここから出られずにゲームを諦めたプレイヤーも多いのだとか」
先に外に出た二人の後ろ。
メイド服を着たジュリエッタは優雅に馬車から降りると、手をスカートの前で組んで微笑んで言う。
「……じゃ……じゃあ、どうすればいいの……?何か迷わないで済む方法とかあったり……?」
「……経験、でしょうか?冒険者たるもの、そうならないための方法は幾つも用意してここに挑まれますわ」
「……ヨア……」
無策で来た、と言わんばかりに情けない顔でヨアの方を向くユウ。
そんな様子をジト目で見て、少し溜息をついてヨアは背負ったバッグから幾つかの道具を取り出した。
「どこでも貼れるマジックアイテム……魔蛍光シール。これを木に貼り付けながら進んで迷わないようにしながら進むよ。あとは方位磁針と、狼煙用の発煙筒。もしはぐれたらこれで居場所を教えて。これだけ背の高い木だと煙も見えづらいけど……ボクの能力を分けてあげてるんだから、見えるはずだよね?ユウ」
「……あ、そっか!!いざとなったらファントムフォームになれば……!!」
「そういうこと。……それでも、はぐれないようにだけは気をつけてね。何があるか分からないんだから」
「ははは、オッケー!いやー、心配して損したー!ファントム・アイの能力さえあれば迷いの森なんか怖くないもんなー!」
先ほどまでの情けない表情をガラリと変え、高笑いするユウ。
腰に手を当ててもう一度溜息をついてから、ヨアはジュリエッタの方へと向く。
「ジュリさん。この森のダンジョン難易度……【B】ということで聞いていましたが……間違いはありませんか?」
「……ええ。フレーム使いであれば、楽勝でクリアできるダンジョンのはずですわ」
にっこりと笑顔で応えるジュリエッタ。
それに応えず、ヨアは真顔のまま質問を続けた。
「……ボスモンスターを討伐し、そのボスが所持する【宝玉】を手に入れて朧月商会に献上する。それが今回のクエストでしたね?」
「その通りです」
「なにか情報はないんですか?森の中のどのモンスターがボスかなんて、ボク達には分かりません。森のどこにいる、どんな姿形のモンスターなのか、少しでも情報をいただきたいのですが……」
「……ご心配には及びませんわ。この森に、【そのモンスター】以外の敵は、存在しません。そして……森に入り奥へ進みさえすれば、自然とそれは、姿を現しますわ」
「え?」
まるで、全てを知っているような口ぶりのジュリエッタに、ヨアは不信感を覚える。
殆ど情報をもらっていない中で急に出されたその情報に困惑するヨアに、ユウは自信たっぷりに腕組みをして言う。
「なーんだ!じゃあ楽勝じゃん、ヨア!入って進みさえすればボスは出てきて、そいつを倒して帰ってくればいい。俺とヨアのフレームなら、余裕でクリアできるだろ」
「…………」
すっかり楽観視をしているユウの言葉は耳に入っていないように、ヨアは口元に人差し指を当てて考え込んでいる。
そんな二人に、ジュリは変わらずにこやかに言った。
「それでは、道案内はここまで……私は、ここでお待ちしておりますわ。お二人の無事を祈っております」
「ああ!期待してくれていいぜ、ジュリさん!」
「……最後に、一つ」
ヨアは口元に当てていた人差し指を立てて、ジュリを見つめる。
「このクエスト……ジュリさんは、クリアできるんですか?強い、と聞いていましたが……」
「……。さあ、どうでしょう?ただ……ヴィネット様は、【このクエストにはヨア様とユウ様の二人が適任】……そう判断して、これをお任せしたのです。私よりも、ずっと……。ですから、是非お二人の力を存分に振るってきてください。……期待しておりますわ」
ジュリのその言葉が、旋毛の森の暗闇の中に溶けていくように二人は感じた。
――
「結局この森に関する情報はほとんどなかったのかよ、ヨア」
ジュリエッタと別れ、旋毛の森に足を踏み入れて30分。
ユウの肩から顔を出したラゼットは隣を歩くヨアと会話を続けていた。
「うん。不思議なくらいにね。分かったのは、大体のこの森の広さと、とにかく迷いやすいからツールを幾つも用意していった方がいいってだけ。用心するに越したことはないってさ」
ヨアはそう言いながら、携帯したマジックアイテムのシールを目の前の木に貼り付ける。
親指大の丸いシールの粘着力は強く、対象の物にしっかりと貼り付く。
貼り付いたそのシールはランプの灯りのように光を放ち、24時間光り続けて消滅するという優れものだ。
これを行く先々に貼り付けていき、入ってきたルートを見失わないようにするという方法をとっていた。
「……なーんかキナくさいぜ。わざわざ、初対面のオレ達に押しつけるクエストにしちゃあ謎が多すぎる。あのガキ、罠にはめようってんじゃないだろーな」
「だとしても、ボク達にこのクエストを拒否する選択肢はとれないさ。行き場所なんてないんだしとにかく進むしかないよ」
「……はー。おいユウ、臨戦態勢だぞ。いざとなりゃ全力でやれよ」
「え?なにが??」
ユウはヨアとラゼの会話を話半分で聞きながら、行く先々の木々にシールを貼り付けていた。
脳天気に聞き返すその様子に、ラゼは深い溜息をつく。
「まぁ、オメーは深く考えない担当でいればそれでいいか……。しっかり身体使って働け働け」
「な、なんだよ……。俺だって一応、考えてるんだよ。どうやってこんな広い森でボスモンスターと遭遇するのか、とか……」
「……ジュリさんは森を進めば自然と姿を現す、って言っていたね。本当なのかな……」
ヨアは辺りに視線を巡らせながら、考え事をするように歩を進めた。
「信じるしかないだろ。森の奥に進む、帰り道を確保する。俺達に出来ることはそれしか――」
ユウはヨアの一歩先へと走っていき、目の前の木にシールを貼り付けようとした。
――が、その時。
「……ッ!? よ……ヨアッ!」
「……え?どうしたの?ユウ」
手を伸ばした大木の裏。
なにかを見つけ、顔面蒼白になるユウの元にヨアは駆け寄った。
「……なんだ、こりゃあ……!!」
ユウの肩に乗ったラゼ。そして、ヨアも、その光景を目にした。
木々の間を縫うように置かれた、人。
いや、人ではない。
まるで、人をそのまま石化させたような、あまりにもリアルな石像が数十体、そこには乱立していた。
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