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「……わぁ……。ここが……!」
馬車を下りたユウの眼前に広がる光景。
天候は快晴。VR世界とは思えぬ、突き抜けていくような青い空と浮かぶ白い雲の美しさ。
その天の下に、数え切れないほどの大勢の人と、建物があった。
例えるのであれば、どこかの祭りで賑わう街。
平屋の小さな店から、二階、三階建ての大きな店。ボロボロのテントを張った露店から、茣蓙に品物を並べただけの簡素な露店まである。
簡素な作りの建物が多く、現実世界のコンクリートのような壁の四角形の店舗が一直線に左右に並び、それが道を作っているようにユウには見えた。その間を埋めるように、露店が並んでいるのである。
つまりは、どこまで行っても店、店、店。
そしてその品物を求める客、客、客。
それが、商業ギルド【朧月商会】の膝元……【ライズマーケットシティ】の姿であった。
「ふう……。いつ来てもここは騒がしいなぁ。正直、あんまり好きじゃないんだよね」
馬車屋に運賃の金を支払ったヨアが、唖然としながら街の様子を見つめ続けるユウの隣に歩み寄ってきた。
人混みに嫌気がさしたような顔で、羽織っていた黒のコートはいつの間にか脱いでおり、紺色のポロシャツと茶褐色のスラックスというラフな格好に着替えていた。
「あれ? ヨア、服装……」
「いつまでもヴァレクト・システムの制服着ているわけにはいかないでしょ。ただでさえ、あの団員服着ているとプレイヤーに警戒されるんだから。……ところで、あのモンスタ……じゃなかった、ラゼットは?」
「……あ。ああ、いないな、そういえば……」
まるで現実世界でも見かけるような服装ではあるが、現実にはそうはいない髪色とオッドアイに加え容姿端麗なヨアにしばし呆然とそれを見るユウ。
そして気付けばいつものように、肩に乗っていたラゼットは姿を消していた。だがその理由は、ユウにも検討がついている。
「人混みだといつもいなくなるんだよ、アイツ。まあ、そもそもラゼットの話じゃ、ヨアみたいに俺と【共鳴】していないとアイツの姿も普通のプレイヤーやNPCには見えないらしいから、隠れる意味なんてないのにな」
「……。そういえば、そういう話だったね。……うーん」
「……どうしたんだ?」
「改めて、奇妙な話だと思ってさ。この世界では見えない存在が、ユウと共鳴をして見えるようになる。じゃあユウとラゼットの関係性はなにか……。隠し事が多すぎるよ、やっぱり……」
顎に手を当てたままブツブツと独り言を呟き、歩を進めていくヨアに慌てて着いていくユウ。
ルフィルドやノルムの村とは全く異質の賑わいをライズマーケットシティは見せていた。
露店だけではなく、建物を構える店まで、全て通行人に見えるように机を道に出して商品を展示するようにしている。
そこに並んでいるものは、多種多様。
現実世界でも見たことのあるような果物や野菜、簡素な屋台料理などもあれば、現実世界では見られないような色合いの食べ物や、果ては奇妙な生き物の丸焼きが串に刺さっている屋台まである。
食物だけではない。
革製品のような衣類や、剣や銃などの武器、鎧や盾などの装備や見たことのない表紙の本など……。
ニューレアルにある、あらゆる物資がここに集っているのではないかと思われる店の数と、品々。
その一つ一つに目移ししながら進んでいくユウだったが、人混みの中を先へ先へ進んでいってしまうヨアを見失わないように注意をしているせいで思うように視界両サイドの店を見て回れなかった。
「な、なぁー! ヨアー! ちょっとくらい観光させてくれよー! ここ来るの初めてなんだからさぁー!」
「……。キミ、ボク達の状況分かってる? ヴァレクト・システムから追っ手が来ていてもおかしくないんだよ。ノルムの村じゃなくてここにボク達がいるのはあいつらにも想定外だろうけれど、それでもヴァレクト・システムの調査力と人員の多さを侮っちゃいけない。特にここはプレイヤーとNPCがごっちゃになっているから、通報――」
溜息をついて愚痴っぽくそう言いながら、じとーっとした目をユウに向けようとしたヨア。
しかし、後ろについてきているであろうユウの姿は、そこになかった。
「……え?」
まさか、既に追っ手が……!?
そう思って慌ててユウの姿を探して視界を広げるヨアであったが……。
その姿は、すぐ傍にあった。
「うわーっ、マジでうめぇぇぇ……っ!! やっぱダイヴギアってすげえなぁぁ……。味マジで本物! 現実世界じゃメロンなんて高価なもん滅多に食えないのに……。し、しあわせぇぇぇ……っ」
「そうだろそうだろ? へへへ、特売で1カット20レード。現実じゃできねぇ、メロンだけで腹一杯になるなんてコトがこの世界で出来るんだぜ兄ちゃん」
「ニューレアルさいこおおおっ……!! あ、こ、このフルーツなに? 見たことない色してるけど」
「ああ、コイツはニューレアルにしかない果物さ。お目が高いねぇ。コイツの甘さを知ったらやみつき間違いなしだぜぇ?」
「マジでー!? か、買うっ。えーと、ノルムで貰った小遣い、まだあるかな……」
「…………」
ヨアは、真顔で幸せいっぱいで串にささったカットフルーツを頬張るユウと、言葉巧みにそれを誘導する店主の親父を見続けた。
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「いたいっ、ヨアっ、い、いたいーーっ!! み、耳っ、耳引っ張らないでぇぇぇ……!!」
「やだ。反省するまでやめない」
「じまずーーーっ! 反省じまずからやべでーーーっ!!」
ユウの耳の外側を人差し指と親指で強めに摘まみながら、ヨアは怒りマークを頭に浮かばせて早足で歩いていった。
店と店の間にある裏路地のような場所に入り込んでいき、辺りに人気がなくなってきたのを見計らうとヨアはおしおきを止めた。
「ふうー……い、ってぇぇぇ……。あー、痛かったぁぁ……」
「……反省の言葉は?」
「…………。ごめんなさい、もうしません」
腕組みをしてにっこりと微笑みながら目だけは笑わずユウを睨み付けるヨアの威圧感に、ユウは土の地面に頭をつけて反省を示した。
「……ふう。あのね……これから行く場所へは、特に注意をして移動しなければいけないんだよ。正規ではない、【裏ルート】を通っていくからね」
「……これから、行く場所?」
「朧月商会の本拠地、って言ったでしょ。ボクは、そのギルドに直接交渉をしようと思っているんだよ。ボク達の身の安全と、ノルムの村の警護をお願いしにさ」
「お願い……? だ、誰にだよ。そういう、何でも屋みたいなことを請け負う商人に交渉するとか、そういう話じゃないのか?」
「そんな個人的な事業をやっている商人なんかがボク達の安全の保証なんかできないでしょ。フレーム使いより強い存在なんて、この世界じゃいないんだから」
「……じゃあ、誰に……?」
「ここまで言えば分かるでしょ」
ヨアはそう言って、上空を指さす。
いや、正確にはそれは、上空ではなかった。
大通りから外れた裏路地。
先ほどまでの賑わいから離れ、店と民家がひしめき合って周囲が見えない閉塞感がある通り。
太陽の光もあまり届かずに影が多くを占める湿気がある場所だ。
そんな場所からでも……それはユウの視界に映った。
空に伸びるように建つ、タワーのような建造物。
この平屋と屋台、露店だらけのライズマーケットシティでそのタワーは一際巨大に、威圧感があるように佇んでいる。
そこを、ヨアは指さしているのだ。
「商業ギルド【朧月商会】の本拠地。【月楼閣】さ」
「え……」
「ボクとユウはあそこの最上階にいる、朧月商会ギルドマスター……【ヴィネット】に、直接交渉に行くんだよ。これから」
「…………マジ?」
「大マジ」
ユウは、その巨大なタワー……月楼閣を見上げて口をあんぐりと開けて。
ヨアは、そこに行くのをまるで楽しみにしているように、笑顔を見せていた。
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