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「……それで、改めて目的地に着く前に聞いておきたいんだけどさ」
時間は、馬車に乗って移動をしている二人と一匹に戻る。
目的地は商業ギルド【朧月商会】の本拠地であると、ヨアは言った。
クラヴィス率いる【ヴァレクト・システム】が最も手を出しづらい場所。かつ、そこに行けばノルムの村へユウが赴かなくても済む方法が見つかるのだという。
そのヨアの言葉を信じ、馬車に揺られること一日。
とはいえ、ユウとヨアの二人は馬車に乗ってすぐにログアウトをし現実世界へ。ほぼ一日を経て再びニューレアルにログインをし、同じ馬車内で合流をしたという流れである。
そこには、一日中馬車に揺られてふてくされていたラゼットがいた、というわけだ。
聞いておきたいことがある、と言ったのはヨア・ゲーアハルトだ。
彼は青と橙の綺麗なオッドアイで、ユウとラゼットを交互に見て、質問をした。
「えーと……なんて言ったっけ。その変な犬みたいなモンスターは」
「だーーれが変な犬だっ。導獣型ナビゲーションユニットのラゼットだ! 覚えておけよな」
「……ああ、そうそう。その、導獣? って……なに?」
威嚇するように牙を剥く真似をするラゼットにもヨアは動じず、椅子に座ったまま膝に肘をついて尋ねる。
その言葉を意外に思ったのは、ユウであった。
「え? ヨア、知らない? 俺てっきり、この世界ではその辺にいるもんだと……」
「聞いたことがないよ。ユウはいつ捕まえたの? どうやって手懐けたのかも分からないし……そもそも、なんで?」
「……。えーと、ニューレアルに来てすぐにラゼが出てきて、それで勝手についてきた、かな」
ニューレアルに来てから間もなくのことを、テント張りの天井を見て思い出しながらポツポツと話すユウ。
その言葉にヨアは首を傾げるばかりだった。
「ラゼット、だっけ。キミはなんなの? 一応ボク、ギルドの諜報部隊の幹部として情報収集は怠っていなかったはずだけれど……聞いたことがないよ。導獣、なんてさ」
ラゼットを不審そうな眼で睨むように見るヨア。
しかしラゼは、その視線を躱すように馬車の外の景色に目線を移し、呟くように言う。
「きぎょーひみつ」
「……。ユウのことはまだ信頼しているんだけどさ。ボクとしては、コイツがどっかのスパイじゃないかって疑ってるんだよね」
じとーっとした眼と呆れた顔で、ヨアはユウに会話を向けた。
「ははは……。で、でもまあ、ほら……。ラゼのおかげで、俺はゼンのフレームに勝てたわけだし。少なくとも完全に敵ってわけじゃあ……」
「そこも謎じゃん。なんで今までボクに声はおろか、姿すら見えなかったラゼットの声が急に聞こえたのか。それで、ボクのギアブレスからあんな意味の分からないカードが出てきて、まるでその使い方を最初から知っているようにボクに指示が出来たのか。それで……なんでユウのシルバーフレームが、ボクの能力をまるでコピーするように変身できたのか。……質問しているこっちが疲れるくらい、謎が多すぎるよ」
腕組みをして再びラゼットに視線を戻すヨアであったが、ラゼットは依然、視線を背けたままだ。
しかし、少しばつが悪くなったのか、そのままラゼットは小さな声で独り言のように答え始める。
「ヨアが、ユウと【共鳴】したからだよ。だからオレの姿が見えるようになって【リンクカード】がギアブレスから取り出されたんだ。それでイヴァレックスがヨアのフレームのフォームになれた、ってコトだよ」
「…………少しも理解できないんだけど」
「あの瞬間。クラヴィスにユウが怒鳴っていた時、ヨアはユウに「そうだそうだー」とか「同じ気持ちだー」とか思ったんだろ? それが【共鳴】だ。んで、その気持ちが一定以上に強く起きると、イヴァレックスにヨアのギアブレスが呼応する。それで出てきたのがあのカード……【リンクカード】だ。つまり、ヨアのリンクカードが出現したのは、ユウのシルバーフレームの能力ってことだよ」
「え、そうなの!?」
驚いたのは本人であるユウの方であったが、気にせずラゼットは解説を続け、ヨアはそれを黙って聞いている。
「別に、リンクカードがヨアのギアブレスから出てきても、ヨアの【ファントム・アイ】の能力が失われたってワケじゃねー。リンクカードは、ヨアの能力の【コピーデータ】みたいなもんだ。あれをイヴァレックスがシルブレスに装填することで、その能力を読み込んで発動出来るってワケだよ。それに相応しいフォームと、武器でな」
「……それで、イヴァレックス・ファントムフォーム、ってわけね」
「そういうことだ。ま、今話せるのはこのくらいかな。つまりは、ユウがヨアのリンクカードをなくしたりしない限り、イヴァレックスはいつでもファントム・アイの能力を使えるようになったってことだ。……ま、とはいえ完璧じゃねーけどな。あくまで一部で、ヨアの視界能力の……半分くらいの性能、ってトコだ。それでもイヴァレックスよりは格段に眼がよくなるし、武器が銃になって遠距離攻撃も使える。イヴァレックスの身体能力もある程度活きたままな」
「……ふーん……。なるほどね」
「へー……」
ヨアだけではなく、ユウも関心したように目を丸くして頷いていた。
しかし、ヨアの視線は厳しくラゼットに向けられ、一段と真剣な声色で質問が投げられた。
「それじゃあ、ラゼット。最後の質問。 ……なんで、【今話せるのはこのくらい】なの? なんでボクだけじゃなく、キミが変身をさせているユウにまでイヴァレックスやキミ自身のことを隠す必要があるの」
「…………」
「これは、信頼関係の問題だ。ボクはヴァレクト・システムを裏切った。ユウは、捕縛されたヴァレクト・システムを脱走した。……ラゼットのその隠し事が、危険な状態にあるボク達にとって更なる危険になる可能性がある。……それでも、話せないの?」
「…………」
ラゼットは、ユウの肩に乗ったまま視線を馬車の外に向けたままでヨアと目を合わせようとしなかった。
しかし、少し間を置いて……ゆっくりとラゼットは、目をヨアのオッドアイに向ける。
「オレが言わないのは……ユウのためだ。他の誰でもない、ユウ自身のために、だ。……それを明かそうとするなら、いくらお前でも敵として見なすぜ、ヨア」
「……なるほどね。つまり、キミの隠していることとボクの目的が相反する場合は容赦なく敵対するっていう認識でいいのかな」
「そういうことだ」
冷酷なほど冷静に、瞬きすらせずラゼットを見続けるヨア。
怒りすら露わにするように、大きな獣の瞳を向けるラゼット。
二人は言葉を交わすのを止めると、ただその視線のやりとりを沈黙と共に続けた。
「あ……えーと、あのー……その……」
当事者である一ノ瀬悠は、その沈黙に耐えきれない様子で視線を泳がせながら冷や汗をかくことしかできなかった。
「……ふ。分かったよ。今は、とりあえずやめにしておこう、ラゼット。裏切り者のボクがこれ以上敵を作りたくないしね」
溜息をつきながら肩の力を抜き、微笑みを見せるヨア。どうやら、安心を相手に与えようとしている様子だった。
「あー。同じだ。味方は作りたいが、敵は作りたくねー。オレ達もヨアの力を借りているところだからな。そうしてくれると助かるぜ、へへへ」
牙を見せて皮肉っぽく不敵な笑みを見せるラゼット。一人の青年と一匹の獣は、ひとまずはお互いの腹の探り合いを止め、素直な笑顔を見せ合っていた。
「あー……えー……あ、あははは……はは……」
どうすることも出来ず、ただただ情けない愛想笑いをすることしかできない、ユウを置き去りにしながら。
その時、馬の手綱を握っていた馬車運転手の初老の男性NPCが、振り向いて二人に声をかけてきた。
「お客さん。見えてきましたぜ。朧月商会の本拠地……【ライズマーケットシティ】に、到着でさぁ」
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