4-11
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『プレイヤー保護機構が作動しました。対象プレイヤー、ゼン、リリィ・ホワベリーを強制ログアウト。再接続可能時刻は十二時間後です』
(……これで、ボクの奥の手は全部、リリィに見られちゃったか。……次に戦う時は、勝ち目がないね、本当に)
ヨアは重々しく溜息をついた。
アリシアのアナウンスがどこからか聞こえたかと思うと、東側エリアの黒煙が段々と晴れていく。
まるで扇風機で吹き飛ばしたかのように煙がどこかへと吹き飛んでいき、数秒もすれば完全に西側エリアと同様に無機質な訓練場の姿が露わになった。
それが確認出来たユウのイヴァレックスは西を、ヨアのファントム・アイは東を向いてお互いの無事を見ようとする。
「……え? あれ? ユウ、その姿……」
「……! あれ、スコープだけじゃない!? カラーリングもヨアのフレームと同じになってるんだ、これ……!」
ヨアはユウの姿がイヴァレックスとファントム・アイを混ぜたような姿になっている事に驚くが、黒煙の中で自分の姿がはっきり確認できていなかったユウも殆ど同じ気持ちだった。
「妙なカードがボクのギアブレスから出てきてそれをユウに向かって投げたんだけど……そんなことになるの……? あんたのフレーム一体どういう構造なの……。聞いたことないんだけど、フレームの性質が変わるなんて……!」
「お、俺だって分からないよ。ラゼにこうしろって言われたからやってみただけで、まさかファントム・アイと同じ能力が使えるなんて……」
「ラゼ?」
「……あ。いや、えーと……」
首を傾げるヨアに、どう説明しようか戸惑うユウ。
そんな二人のやりとりに割って入るように、二人の脳内に大声が聞こえる。
『ばかやろー!! 今はそんなことで呑気に会話してる暇ねーだろっ!! さっさと脱出しろ、さっさと!!』
「! こ、この声……。さっき、カードが出てきた時に聞こえてきた……!?」
「え……よ、ヨアも聞こえるのかよ? ラゼの声……」
「うん……。……っと、まぁ……。確かに、ゆっくり色々と確認している暇はなさそうだね」
ヨアはそう言って、正面の管制塔を見上げる。
ユウもヨアの視線を辿ると、そこには腕組みをして無表情でこちらを見下ろしている……クラヴィス・ヴァレクトがいた。
「あ……。や、やばいな、確かに……。増援でも来られたら……」
「……だね。まあ、今から要請をしたって地下の一番深いところにあるこの場所に増援部隊がくるのは数分かかるさ。さっさと逃げ出しちゃおうよ、ユウ」
「……ああ!」
二人はお互いを見合って頷き、そして持っているそれぞれの銃を…… 管制塔の下。大きな鉄扉に向けて構える。
ドォン!! ドォン!! ドォン!!
同威力の銃の数発の光弾が、立て続けに鉄の扉に衝撃を与える。
観音開きの扉が押しつぶされ、変形し、そして次第に強引にこじ開けられていった。
やがて人が通れるくらいの隙間が出来ると、ヨアはギアブレスの歯車部分を回転させる。
ファントム・アイの装甲が光と共に消え、そこに紫髪の青年が姿を現した。どうやら、フレームの変身を解除したようだ。
「え?」
その行動に驚いたユウであったが、ひとまずは脱出経路は確保できた。
訓練場を分断する鉄柵は未だに存在しているが、正面の鉄扉には東西それぞれから侵入できる隙間が先ほどの銃撃で出来ている。
だが、この後の脱出を考えると変身は解かないほうがいいのでは…… とユウは考えたが、なにか考えがあるのだろうか。
なんとなく、ユウもヨアと同じように変身を解いた。
シルブレスの尻尾レバーをラゼット本体に戻すと、ファントム・アイと同じようにイヴァレックスの装甲もかき消え、人間の姿に戻る。
「あ、ごめん。別にボクだけでいいのに」
「いや、急に変身解くから。……どうしたんだよ、ヨア? 早く逃げないと……」
「あー、うん。でもさ……どうしても、最後にしたいことがあって」
「……?」
そういうヨアの表情は、なんだか少年のようなイタズラっぽい笑みを浮かべている。
鉄柵越しにヨアに近づくと、ひそひそと二言三言囁かれるユウ。
「あー……」とその言葉を理解すると、思わずユウもヨアと同じような子どもっぽい笑顔になる。
そして。
「「 べー 」」
管制塔の、上。
クラヴィス・ヴァレクトに向けて、素顔のフレーム使い二人は……。
片目の下を人差し指で下げて、舌を思い切り出した表情をクラヴィスに見せつけ、そして訓練場から走って逃げ出すのであった。
――
「…………」
管制塔内。
クラヴィスは、増援部隊を派遣してはいなかった。
ヨアとユウ。二人の様子をただ、怒るでも笑うでもなく、無表情で見つめていた。
そのクラヴィスの背後で、ふと声がかけられる。
「……よろしいのですか? 彼の存在がエデンコードに近づく鍵になるというのが貴方の見解では」
管制塔内部にいたのは、クラヴィスだけではなかった。
いつからそこにいたのだろうか。
クラヴィスの背後、訓練場からは見えない位置で彼の背中に声をかけていたのは……。
ニューレアルの広報インターフェイス。ナビゲーションAI。
白銀の髪に色白の肌の美しい白のスーツ姿の女性…… アリシアだった。
「……。ええ。元々、リリィくんとゼンくん……。二人が敗北することがあれば、逃がす予定でした。尋問をしても口を割りそうにありませんでしたからね。泳がせるつもりです」
「成程。そのための手駒もあると?」
「追跡尾行も我々のギルドの仕事のうちです。じきに、尻尾を掴んでみせますよ」
「期待しています。……しかし、貴方の片腕も失うことになるとは、痛手だったのではないですか」
「…………」
アリシアからは、クラヴィスの表情は見えない。
少しの沈黙をする彼を無感情で見続けるアリシア。やがて、訓練場を見下ろし続けるクラヴィスが、言葉を漏らす。
「構いません。……逆に、団員にはチャンスになるでしょう。リリィくんと、ゼンくん……それに続く実力を備えた精鋭部隊。抜けた穴に誰が飛び込めるか……奮起してくれる口実になります」
「自信がおありなのですね。自分の組織に」
「私の片腕になるという栄光を掴むためであれば、どんなことでもする団員は沢山いますよ。……かつて、ヨアくんがそうだったようにね」
「……そうですか。……しかし」
アリシアは少し言葉に間を置いた後。
ほんの少しだけ笑みを浮かべて、言った。
「まるで子どものように楽しそうでしたね。あの二人は」
「…………」
「それでは、失礼いたします。こちらの方でも何か分かりましたら共有をいたします、クラヴィス様。……では」
一歩後退するアリシア。
照明の当たらない影に行くと、その姿はいつの間にか消えていた。
それを見ず、ただただ訓練場を見るクラヴィス。
ユウ。そして、ヨア。二人がいなくなり人がいなくなった訓練場。
クラヴィス・ヴァレクトは……。
目の前にある管制塔の強化ガラスを思い切り右手で殴る。
弾丸でも壊れないガラスに、ヒビが入る。
クラヴィスの右拳はまるでめり込むようにガラスに触れたまま、動かさない。
痛みも当然走るはずであるが……。
クラヴィスは、憤怒の表情をガラスの前に向けていた。
そして、その憤怒の中に、狂気の笑みも添えられていた。
「私を侮辱したことををぉ、必ず後悔させてやるぞ……!! ヨアぁぁ……ユウ……!! く、ククク……。クク……」
――
「いいのかよ、ヨア。俺と一緒に逃げちゃって」
「……ああ。別に、いいよ。もうやっちゃったことだしさ」
「そ、そんな感じなのかよ? だって、このギルドはお前にとって……」
「あー、もういいから。過去は振り返らない、って決めたの。……ほら、もうすぐ出口だよ、ユウ」
「あ……ああ!」
「とりあえず、さ。楽しんでいこうよ! 世界は……広いんだからさ!」
一ノ瀬悠と、ヨア・ゲーアハルト。
二人の少年は長い通路を抜け、光が溢れる外の世界へと、駆けていった。
――
《次回予告》
ニューレアル治安維持ギルド【ヴァレクト・システム】を脱出した一ノ瀬ユウとラゼット、そしてヨア・ゲーアハルト。
二人と一匹は追っ手から逃れるために新たな地、商業ギルド【朧月商会】の本拠地へと向かう。
高き塔の頂上。現れるのは、見目麗しいメイドと一人の少女。
ギルドマスターを名乗るその少女に、ヨアが持ちかける【商談】とはなにか。
そして、その先にある条件とは。
次回 悠久創世譚エデンコード 第五話【夜に霞む月】
――世界がまた、創造されていく。




