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「……ここが……!」
「ああ。ここが始まりの街。ルフィルドだ」
一ノ瀬悠は、街の入り口らしき場所に立っていた。
壁のような仕切りこそないが、土からレンガ造りの地面に変わっていることが、そこが一つの街となっている証である。
ルフィルドは、なだらかな丘陵地帯の上に築かれた街。
赤茶色のレンガで舗装された大通りを中心に、木造と石造りを組み合わせた建物が規則正しく並んでいる。
建物の屋根は赤や橙の瓦で統一されており、煙突から白い煙がゆったりと空へ昇る家々が幾つもある。
道沿いには赤や青、黄色といった色鮮やかな花壇や街路樹が植えられ街全体が自然と調和したような温かな雰囲気に包まれていた。
遠くには風車がゆっくりと回り、そのさらに奥には青々とした草原が広がる。
始まりの街。
ルフィルドは、冒険へ旅立つ者を優しく迎え入れるような空気を悠に与えていた。
自分がニューレアルに入った時に居た場所から、およそ30分。
肩に乗った、自分をナビゲーションシステムだと名乗った謎の生物……ラゼットに導かれるままに辿り着いたのが、この場所であった。
行き交う人々。
耳に届く沢山の人の笑い声や話し声。
目で、耳で、肌で感じる、人々の活気。
改めて、ここがメタバース空間とは思えない景色がそこに広がっていた。
「でも、初見殺しだよなぁ……。あの場所から大分歩いてようやく始まりの街に到着って……」
「ま、この世界に慣れさせるためなんじゃねーの?オレサマのおかげで無事に辿り着いたんだからいいじゃねーか」
「チュートリアルのわりにはモンスターと戦闘とかそういうのもなかったし……はぁ、コレ、疲れもリアルに感じるんだな。足ちょっと痛いよもう……」
歩いているうちに、ラゼットとの会話も慣れたものになってきた。
というか、最初から随分と馴れ馴れしい態度のこのナビのおかげで、気持ちが随分と軽くなってきている。この世界に来た時に感じていたワクワクや不安、緊張が解け、いい意味ではリラックスして、悪い意味では愚痴っぽくなってきていた。
「まあ、その都度オレが解説してやるよ。安心しろ悠。オメーみたいなヒヨッ子でもこのニューレアルで問題なく過ごせるようにはしてやっから」
「……じゃあ、まずはこの街でどこに行けばいいの?」
ルフィルド。
この街に入ってただ真っ直ぐに進んでいく。
レンガの街道を歩いていけば、次第に視界の左右には人家や店のような建物が更に増えていっていた。
焼き立てのパンの香りを漂わせるパン屋。
中世の武器や防具のような金物が所狭しと並ぶ鍛冶屋。
色とりどりの果物や見たことのない野菜。そして干物のような加工物を山のように積み上げた露店。
店主たちの威勢の良い呼び声が飛び交い、人々の笑い声と混ざり合って街に活気を与えている。
馬車の車輪が石畳を転がる音に、どこかで鳴り響く鐘の音。
背中に大きな荷物を背負った行商人のような格好の男性がすれ違い、文字通り井戸らしき石造りの建造物の周りで会議をする数人の女性が視界に映る。前を進む悠の横を、鬼ごっこをしているであろう数人の子ども達が笑い声を上げながら通り過ぎていった。
中世のような町並みに、そこに暮らす活気のある人々。
賑わいと活気が、この街にはあった。
「ラゼット、この人達も俺と同じようにプレイヤーなの?」
「いや、違うな。ルフィルドに留まっているようなヤツの大抵は、NPC……ようするに、ニューレアル側が用意した架空のキャラクターだ」
「プレイヤーかNPCかの見分け方ってないの?」
「ない。そこで見分けがつくようならリアルな世界とは言えないだろ? 現実世界により近づくため、ここに暮らすキャラクターは皆同等に見せかけているんだよ」
「ははぁ、なるほど……」
「NPCとは言っても、決められた行動を繰り返しとっているような奴らじゃないぜ。実際にこの街……ルフィルドで生計を立てて暮らしている。結婚をして子どもがいるヤツもいれば、商売をしてメシを食っているヤツもいるんだ。プレイヤーかどうかなんて、見分ける必要もないくらいに生きているんだよ」
「……そうか……」
行き交う人々。
談笑する人々。
その人々の表情。声。息づかい。
それらが全てNPC……人の作り出しているものではない事を、悠は未だ信じられないでいた。
この世界では、プレイヤーもNPCも区別はない。ただの、一つの命としてこの世界を作る一員となっているのであろう。
ルフィルドの街は、そのニューレアルの世界を象徴的に表しているのであった。
「……ラゼットも、NPC……というか、AIみたいな生き物なの?」
悠は、自分の肩に悠然と乗っかり喋る謎の獣の方を向いて、話しかけた。
ラゼットはくりくりとした大きな黒目を瞬きさせ、耳を少し振る。
「だな。オレはこの空間にだけ存在している生き物であって、現実世界には存在しねー。つまりは、ここにいるNPCと同じ存在だ。役割は、オメーのアシスタントだけどな」
「……そう、なんだ……」
「……?なんだよ」
肩に乗るラゼットの方をじっ、と見つめている悠は、少し微笑んだような表情を見せた。
「変わらないんだね。この世界だと、プレイヤーもNPCも」
「あ?」
「こうやって、話ができて、肩に乗っかってる感覚も感じられる。人もAIもNPCも、ニューレアルの中じゃ差はないんだな、って。なんか嬉しくってさ」
「……。な、なんで嬉しいんだよ……」
「友達ができた、って感じで。よろしくな、ラゼット」
「……」
人間ではない、顔つきは動物のソレに近いものではあるが……。
人の言葉を話せる導獣の表情が、みるみるうちに「照れ」の感情を帯びていくのは、なんとなく分かってしまいそうになる。
それを隠すようにラゼットはぷい、とそっぽを向いて、さっきより少し高い声で喋る。
「さ、さぁ! この辺はいいだろ!? そろそろ街の中心に向かうぜ! ぐずぐずしてねーで進めよなぁ!?」
「はいはい、ナビゲーションよろしく、ラゼ」
一人の少年と一匹の小さな獣は、街の中心へと続く大通りを歩いていった。
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