4-9
――
『……よしっ、通じたッ!!』
「え? え? なにが……?」
ほんの数十秒前。
しばらくの間自分に語りかけてこないラゼットを不安に思っていたユウであったが、突然戻ってきたように聞こえる声に驚く。
ラゼは慌てたような口調でまくし立てた。
『ヨアと通じたんだよ!! よしっ、今からオレの言う通りにしろ、ユウ!!』
「へ? よ、ヨアと……通じた? だってお前の声って俺にしか聞こえないし、そもそも通じるって……なにが?? なにするの??」
『呑気に説明してる暇なんてねーだろ!! いいか!! 今からヨアに《リンクカード》を投げてもらう!! そいつを受け取って、シルブレスに入れるぞ!! 右手を上に上げろ!!』
「リンク……なに?? ……と、とりあえず、取ればいいんだよな……!」
『次のゼンの攻撃がいつくるか分からねぇ!! いいか、取りこぼしたらここでカードを探す手段なんかねぇぞ……!! 絶対成功させろよ!!』
「わ……ワケわかんな過ぎるけど……とにかく言う通りにすればいいんだな!?」
半分パニックで泣きそうになりながら、ユウは言われた通り右手を上に上げる。
暗闇で何も見えない中、自分の手にくる感覚を信じ、集中する。 そして……僅かに聞こえる、風を切る音。
『きたっ!!』
「!!」
ラゼの声と同時に、ユウはそれを親指と人差し指でキャッチした。
二本の指の間には、厚い金属のようなもので出来たカードが挟まれている。
「しゃあああっ……!! い、一発成功ぉぉっ……!!」
『喜んでる場合じゃねぇ!! いいか、次はオレの尻尾のレバーを右に倒せ!』
「! わかった……!」
カードを持った手で、慌ててレバーを右に倒すユウ。
すると、ガコッという小さな音と共に黒いスロットルが引き出された。
『そいつにそのカードを入れて、シルブレスにしまえ!! そんでイヴァレックスに変身する要領でもう一度、レバーを本体に戻して、倒す!! やれ!!』
「お……お、おうッ……!!」
なにかを考えている暇はない。ゼンの攻撃が、今にも迫ってきている。
カードを入れ、スロットルを指でシルブレスにしまい、レバーを戻し、再び倒す。
初めて行うその動作だったが、危機感と緊張で集中したユウは、一度で正確にそれを行えた。
そしてそれは―― 新たな力を呼び込む。
『―― 幻視穿界!! シルバーフレーム…… イヴァレックス!! ファントムフォーム!! 』
「……!!」
紫色に輝くシルブレス。
そして、ブレスレットから放たれた同色の光は、自分を包み込む。
イヴァレックスの赤いラインの入った装甲は全て、紫のラインへと変じる。
全身の装甲はやや小ぶりで細くシャープなものへと変じていき、ベースの鎧は保ちつつもややコートのような装備になっていく。
そして、何より――。
イヴァレックスの左眼に、ファントム・アイと同じようなオレンジのスコープが装着される。
それは獣のような赤色の装甲のイヴァレックスに、鷹のような羽のコートが特徴的な紫色のファントム・アイが重なり、同化したようであった。
「……!! な……な…… えええええええっ!?」
『成功だ! イヴァレックス、ファントムフォームの……誕生だ! 今、その《眼》は、お前のものだぜ!』
自分の身体の感覚や、感触。そしてなにより…… 変化した視界に戸惑いながらあちこちを触るイヴァレックス。
それと同時に―― ユウには、視る事が出来た。
自分に迫る、ノクス・ストリクスの二本の短剣に。
「うわぁぁっ!?」
「……ッ!? な、ニ……!?」
上体を仰け反り、リンボーダンスのように自分の首元に迫っていた斬撃を避けるユウ。それに驚き、再び距離をとって暗闇に隠れるゼン。
「なゼ……なゼ、避けることガ、できタ……!?」
自分の動きが見えていないと行えないような回避行動に驚き、暗闇の中で距離をとるノクス・ストリクス。
しかし、ユウには、見えていたのだ。
左眼の橙色のスコープレンズが回転し、相手のその輪郭を捉えていた。
「み……見える……! はっきりじゃないけど、あいつの動きが、分かるぞ……!」
明瞭な視界、というわけではない。
ただ、先ほどとは明らかに違う景色だった。
黒く濃い煙の動きが視覚を通じて理解でき、その煙の動きから相手がどのあたりにいるのかが分かる。
相手の位置が分かれば、その装甲の輪郭のようなものが浮かぶように見え、集中すればその動きも追っていけるのだ。
これが―― ヨアの異能。ホワイトフレーム《ファントム・アイ》の見る景色なのだと、ユウは理解した。
『関心してる暇はねーぞ! ユウ、今度はこっちから攻める番だ!』
ラゼの声にハッ、と我に返り、ユウは手に持った剣を再び握り直そうとする。
しかし――。
「え? あ、あれ……? なんだ、コレ!?」
その形は、普段握っているノヴァヴレードの形ではなかった。
刀身が展開し、折り畳まれて内部からは銃身のようなものが露出している。
グリップ部分も、内部からグリップが下に引き出されており、そこにトリガーが存在する。
いつの間にかそれは、剣からコンパクトなショットガンのような武器に変形していた。
『フォームが変われば武器も変わる! ヨアのフレーム能力を最大限に引き出す武器にな! 《ノヴァレイカー》、派手にぶっ放せ!』
「……!! よっ、しゃああッ!!」」
グリップを握り、トリガーに指をかける。
スコープを通し、集中して相手の姿を索敵する。
剣を使った激しい動きの攻撃から、銃を使った狙い澄ました――静の攻撃。
暗闇の中で動揺する自分の敵、ノクス・ストリクスの姿をイヴァレックスは捉え――。
ドォン!! 破裂するような銃声と共に、光弾が勢いよく発射される。
「!! グえ!!」
自らが出した暗闇の中。
まさか自分に攻撃が加えられるわけがない。
そのゼンに対し、狙い澄ましたノヴァレイカーの銃撃が着弾し、ノクス・ストリクスは派手に地面に吹き飛ばされる。
「当たった……ッ!!」
「グ、う、ウ……なゼ……ッ!! なゼェェェッツ!!」
フラフラと立ち上がったかと思うと、ノクス・ストリクスはフェイントをかけるのを止め、直線的にイヴァレックスに向けて突進を仕掛けてくる。
自分の攻撃が避けられ、そして攻撃を受けてしまったフラストレーションで完全にキレてしまったらしい。
しかし、それはイヴァレックスにとっては思うつぼであった。
ドォン!! ドォン!!
「グあ!! うグあああッ!?」
肩口に光弾を受け、慌てて横に回避行動をとったゼンに、もう一撃。
姿が見えていなければ当たるわけのない銃撃が、次々と当たるのだ。
「す……すげ……!」
『いい感じだぜ! その調子で、決めちまうぜユウ!』
ファントム・アイの視界をものにしていくユウ。
完全に相手が見えるわけではない。
周囲の動き、黒煙の微妙な揺れ、空気の振動、そして……直感。
全てを総合的に判断し、相手の姿を《捉える》。
そしてそこに、相手の動きの特性を組み合わせて《狙撃する》。
イヴァレックス・ファントムフォームのその感覚を、ユウは身体に覚え、そして理解していっていた。
――




