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「……ユウ……」
ユウとクラヴィスのやりとりを聞いていたヨアは、左拳を握り締めた。
「本当に、失礼なヤツだね……。僕が代わりに殺してあげたいけれど、あっちはゼンに任せてるし。あーあ」
リリィはレイピアを振りながら、不愉快そうに首を左右に曲げている。
ゼンと同じく戦闘を一時中断していた二人であったが、パピリオ・アピスソードは再びヨアに向けて歩み出し、戦闘を再開させようとしている。
しかしヨアに、恐怖はなかった。
自分にはなかったなにかが、心の中に灯り始めていたからだ。
その心の声が、口から溢れ出ていた。
「ボクは……ボクの守りたいものは……ボク自身だったんだ」
「……は?」
「立場や、地位じゃない。ボクがボクであり続けて、そのボクを信じてくれる人がいて……初めてボクはヨア・ゲーアハルトとして……生きていけるんだ……ッ!!」
「先輩、どうしちゃったのさ。まさかアイツに感化でもされたの?」
小馬鹿にするようなリリィの言葉にもヨアは声を止めない。その声は、次第に大きくなる。
「それを、証明する! ボクは、このギルドを抜けて、ボクの信念のために行動してみせる! ……人を守るために……! 自分自身を信じ切るために!」
右手の銃を、目の前にいるパピリオ・アピスソードに突きつけたファントム・アイ。
その様子にリリィは足を止めて、レイピアを構える。
(……この銃を撃つことに、悩みはしない。この弾丸が……闇を打ち払えると、信じるんだ。歩む一歩が、闇を抜け出す光になると……!)
「……ふうん。……でも、気持ちだけじゃあ、僕には勝てないよ先輩。それに僕にだって信念はある。……クラヴィス様を愚弄した君達を絶対に許さないっていう信念がさ」
「分かっているよ。だから、それを乗り越えるんだ。そうして初めてボクはこのギルドを抜けて、ボク自身になる。……今、この瞬間からね」
「……言ってくれるじゃん」
今にもこちらに攻撃を仕掛けてきそうなパピリオ・アピスソード。
だがファントム・アイは後退しない。その動きを見据えて、一歩前に踏み出す。
(リリィの言う通りだ。出会って僅かな君にここまで感化されるなんて……どうかしている。でも……ボクはこの道を進むって、決めたんだ。全力で戦って、その先にある場所に進んでみせる……! 全力で……自分自身に、もう二度と、後悔をしないように……!!)
右手の銃を握る手に力を込めながら、もう一歩、力強くヨアは歩んだ。
(君も、同じ気持ちなんだろ? ……だったら、一緒に勝って……先に進むよ、ユウ!)
そして駆け出そうと、足に力を込めて――。
――ピッ、キィィィンッ……!!
「……は?」
その聞き覚えのない音は、自分のホワイトフレームに変身するブレスレット……ギアブレスから鳴ったようだった。
動きを止め、銃を持っていない左手につけられたギアブレスを自分の目の前に持ってくる。
「……ッ!?」
予期せぬ動きに、リリィも一瞬動きを止めて警戒した。
「なんだ、これ……」
ヨアのブレスレットには、変身のキーとなる歯車と、白色のボタンが二つついている。
それらの機構は黒く細長い頑丈な盤面に付着しているのだが……。
その盤面の隙間から、なにやら小さな、カードのような物が飛び出していたのだ。
「な……なにそれ……!? そんな機構、僕は知らないよ……ッ!?」
「……うん、ボクも……」
戦闘を止め、訳の分からない状況に戸惑う二人。
何気なくヨアは自分のギアブレスからそのカードを抜き取ってみる。
紙ではなく、分厚く固い金属のようなもので出来たそのカードには《瞳》と《鷹》の紋章が描かれていた。
「これっ、て……」
ヨアがそう呟いた瞬間。
『ヨアーーーーッ!!』
「ぴゃいっ!?」
「!?」
素っ頓狂な声をあげて手にもったカードを落としそうになり慌てるヨア。
そんなヨアの様子に行動が予測できず、ただただ攻撃できずに狼狽えるリリィ。
その声は、ヨアの耳にではなく…… 頭に、直接聞こえたように感じた。
『細かい説明は省く!! 今すぐそのカードを、ユウに向かって投げてくれぇぇッ!!』
「は?え?え?……だ、誰?何?」
その声は小さな子どものような声にも思えたが、トーンは真剣そのもので焦っているようにも思えた。
聞き覚えのない声に戸惑っているヨアを急かすように、その主は続ける。
『オレはラゼットだ! とにかく、詳しくは後で説明する!! そのカードが、今のこのピンチを脱却する唯一の方法なんだよ!! オレは、お前の味方だ!! ヨア・ゲーアハルト!!』
「ら……ラゼット? 味方……? ぼ、ボクの……?」
「……さっきから、誰と話しているの? 先輩。……ふざけた三文芝居で時間稼ぎっていう作戦かな……?」
いい加減に苛立ってきた様子のリリィが再び戦闘態勢をとり、今にもこちらに突進してきそうな様子がフレームの眼を通して見て取れた。
(まずい……! な、なにこの状況……ッ! 折角覚悟を決めたっていうのに、急になんでこんな、ワケのわからないカードと声が……!?)
この一瞬で、自分の理解できない事態が急激に襲いかかってきた事に混乱するヨア。
しかし、頭の中に響く声は必死に叫んだ。
『だーーーッ!! このままじゃあオレ達もヨアも、まずいだろ!? ……今、ユウとヨアは《共鳴》したんだ!! その証がそのカードなんだよ!! 安心しろ、そのカードはアンタの《信念》そのものだ!! そいつをユウに、渡してやってくれ!!』
「……!信念……!」
『こっち側……東側エリアは、完全にこの黒い煙で見えなくなっている! ……だが、アンタなら見えるんだろ? アンタの《眼》なら……!』
「…………ッ!」
『頼むッ!! 今、ユウに右手を挙げるように指示する!! その手に向けてそのカードを、投げてくれ!!』
「終わりだァァァァッ!!」
リリィの攻撃は、鎖鞭であった。
レイピア状態の突進かというフェイントをかけての、高く跳躍してからの上空からの鞭が放たれる。
しなる鎖は風を切りながら、ファントム・アイの頭部装甲をめがけて向かってきていた。
(……今しかない! とっておきの戦法を……使う!)
しかし、ヨアは微動だにしない。
何故なら…… 構えた銃から放つ銃弾を、正確な位置に放つため。
まず、一発。
「……ッ!? なッ……」
その銃弾は……今まさに放たれている、鞭に向けて放たれていた。
天井に届きそうな鞭が下降を始め、今まさにヨアにぶつかろうとしたその刹那――。銃弾は、その鞭の先端に当たる。
反発する鞭と銃弾のエネルギーは、鞭の軌道を僅かに変化させ…… ヨアの頭部ではなく、銃を持っていない左肩に直撃する。
「ぐッ……!!」
痛みに耐えながら、もう一発。
跳躍し、空中で体勢を整えられないパピリオ・アピスソードの胸部装甲に目掛けて放つ。
苛立ちから大振りの攻撃を繰り出してしまったリリィはその銃弾をまともに喰らう。
「あぐッ!?」
ダメージに着地の体勢を崩し、地面に倒れ込んでしまったリリィ。
二発の銃弾が、ほんの僅かな隙を今、作った。
(――!! 今だ!!)
ファントム・アイの左眼が、東側エリアの黒煙を見据える。
濃く深く、なにも見えないその中身を、鷹の眼が射貫く。僅かに動き…… そして、右手を掲げる、その影を。
「受け取れ、ユウッ!!」
ヨアはトランプマジックのようにカードを投げる。
ヒュン、ヒュンと風を切る音をさせながらカードは黒煙に吸い込まれていき……。
そしてユウは、その手にきたカードを正確に人差し指と親指でキャッチをする。
自分の変身アイテム、シルブレスの尻尾型レバーを、ユウは左に倒した。
機械音のような小さな音と共に、シルブレスの左側に、カードの差し込み口が出現する。
まるで、こうなる事を予期していたように出てきたそのスロットルに、ユウはヨアから受け取ったカードを入れる。
ぴったりと、そこに入る事を計算されたようにカードはそこに入り……そして、差し込み口を再びシルブレスに戻す。
尻尾型のレバーをラゼットの人形のブレスレット本体にくっつけるように戻し……そして、再び引き下げる。
イヴァレックスに変身するのと同じ動作をもう一度繰り返したユウ。
しかし―― シルブレスは【紫色】に輝き、そして、高らかにその名を告げる。
『―― 幻視穿界!! シルバーフレーム…… イヴァレックス!! ファントムフォーム!! 』
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