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「……!! クラヴィス!! お前は……ッ!!」
西側エリアでリリィと戦闘を続けるヨアにも、マイクを通じたクラヴィスの声と言葉は聞こえている。
そして、それが挑発とユウの集中力を削がせる事が目的だと理解し、右手に持った銃の照準を管制塔にいるクラヴィスの方向へと向けた。
――しかし。
「よそ見は厳禁だよォ、先輩ッ!!」
「!! ぐああッ!!」
ファントム・アイの胸部装甲に、パピリオ・アピスソードのレイピアが突き刺さった。
少しでも目の前の戦闘から意識を逸らしてしまえば瞬時に攻撃を受けてしまう。それほどに、リリィの戦闘能力は高い。
装甲でダメージは軽減できるものの、衝撃はすさまじい。そして、痛みも当然ある。
ヨアは真後ろに衝撃で吹き飛ばされるが倒れ込まずに踏ん張り、地面に片膝をついて堪えた。
「ぐ、うッ……!!」
「先輩……。今、クラヴィス様に攻撃しようとしたの……? 許せないなァ……。いくら先輩でも、銃を向けるなんてさ……」
リリィはレイピアを弄び、踊るように振り、ヨアへの攻撃を示唆するように動いている。
次にくるのは接近戦か、遠距離攻撃か……それを読ませないための布石。そして、ヨアへの明確な怒りの意思表示でもあった。
『ヨア・ゲーアハルト。君への失望は大きい……あまりにも、大きいです。私は、君とこのギルドを育て、強固にしていこうと考えていたのに』
「……ッ!」
その言葉に、ヨアの思考を感情が支配しようとする。
それは……怒りであった。ヨアは立ち上がり、叫ぶようにクラヴィスに告げる。
「だったら……だったら、ボクの気持ちが分かるか……!? いいや、ボクだけじゃない……! あんたを恨み、憎悪する者達が存在することを認識しているのか、お前は!!」
『……なにが言いたいのですか、ヨアくん』
「ボクがこのギルドを選んだのは【正義】を信じたからだ! このギルドの正義が、ボクの正義になると信じていた!! ……でも、違った。長であるあんたは正義は方向を間違えている!!」
『……ふふふ』
「あんたが強くなること、あんたが権威を持つことは決してこのギルドの……いいや、世界のためじゃない! 単にあんたの力を知らしめたいがための、傲慢だ!! それに利用された者の怒りを感じたことはあるのかッ!?」
上手く立ち回ってきたつもりだった。
ホワイトフレームの力を得て、諜報員としてのスキルも、戦闘技術も身につけ、この世界でより『生きやすくなるため』ヨアは過ごしてきた。
波風を立てず、時に謙虚に身を引き、相手を立たせる術も必然的に上手くなっていった。
そのヨア・ゲーアハルトは今、自分を苦しめるような怒りをクラヴィスにぶつけていたのだ。
しかし、それを受ける管制塔のクラヴィスは、口元を歪めながらヨアを見下す。
『ありませんね』
「……!」
『民の苦しみを理解する王は脆弱な王で、その弱さは国を崩壊させます。人間を作った神は決して人間に対して頭を下げたりはしないのです。……創造し、統べる者は強くあらねばならない。何にも揺らがず、己の強さを大衆に知らしめ、そして敬愛され、その姿で群衆を導く……。ヴァレクト・システムは、そうあらねばならないのですよ』
「そんなのは……そんなのは、お前の単なる我が儘だろ!? 誰もそんなものを望んじゃいない!!」
『私に、誰かの望みを叶えるつもりはありません。秩序と正義を守り、それを守れぬ者を粛正する絶対的な強者……。それになり続けるのが、私達の目的なのですからね』
「ぐ……!!」
『ヨアくんも、ユウくんも同じです。君達に出来ることは、その持つ力を私に迎合させ、共に正義の力を大きくしていくことのみ……。大きな力を示し、このニューレアルに平和を与えるのです。私が強き王となり、絶対なる神となり、この世界を統べるための、ね』
「……そんなことのために、ボク達を付き合わせていたのか……ッ!!」
『志は同じと思っていたのですがね。……ククク、残念です、ヨアくん』
管制塔からヨアを見下ろし、邪悪な笑みを見せるクラヴィス。
怒りに震えていても、攻撃動作をとれば再びリリィの攻撃が開始されてしまう。
「……さぁ、先輩。……続きをしようよ。これ以上団長を愚弄するのなら……僕も本気で先輩を攻めちゃうからさ……。そうなる前に準備してくれないと……」
「う……!」
パピリオ・アピスソードは一歩、一歩と威圧するようにファントム・アイの方へと歩みを進めていく。手に持ったレイピアを振り、風を切る音を相手に聞かせながら。
銃をそちらに向けて構えるヨアであったが、先ほど受けた一撃のダメージは大きい。さっきと同じように攻撃や回避ができない自分に、リリィと戦う余力があるのか……。
ヨアの疑問が、恐怖に変わりかけたその時。
東側エリア。
暗闇の煙に包まれたその空間から、声が響いた。
「お前の好きにしたらいいだろ!!」
「……ユウ……!」
その声に振り向くことは出来ないが、ヨアの耳にはその声が聞こえた。
そして真っ直ぐに、その言葉がクラヴィスに向けられていることを理解する。
「力を持っていようが、金を持っていようが、権威があろうが……勝手にやってろよ!! それが人間の価値だと思うならな!! だが……俺達を、それに巻き込むんじゃねぇ!!」
『……ほう?』
「価値なんてものを俺は持ちたいなんて思っていないんだよ!! それを人間の全てだと思うな!!」
『面白い主張ですね。……ゼンくん、少しの間、攻撃を止めなさい』
暗闇に向けて発せられたその言葉に、闇が頷いたように見えた。
腕組みをして言葉を待つクラヴィスに、闇の中からの声は構わず続ける。
暗闇の中。
イヴァレックスの装甲を身に纏ったユウは、叫んでいた。
どこに向かってかは分からない。
だが、その言葉がクラヴィスに怒りとなって届く事を願いながら、続けた。
「より多くの金を集めること、より多くの人間から尊敬を得ること、より大きな環境でトップに立つこと……好き勝手にしていろ!! それがバカでも分かる人間の価値の指標ってヤツなんだろ!? ……だが、俺達を、そんなくだらないものに巻き込むな!!」
「…………」
ヨアは、否定をしない。
今、自分の思いはユウと同じだったからだ。
ゼンと同じく、クラヴィスの意思を汲み取って動きを止めているリリィから視線は逸らさず、ヨアはその会話を聞き続ける。
『NPC相手にヒーローごっこをして尊敬を勝ち取っている君に説教を受けるとは思いませんでしたよ、ユウくん。ククク』
「価値なんていらない!! 俺は……救いたいと思っているからだ!! ノルムの村の人達のために働きたい、役に立ちたい……それだけなんだよ!! 邪魔をするな!!」
『邪魔をしているのは君です。その余計な行動が、我々のような力を持つ者の邪魔になっているのです』
「……!」
『主張をするな。たかが大衆の一部でしかない貴様が、ほんの少し強い力を手に入れたからと言って主張をするんじゃない。本来、力を持たない者は力を持つ者に媚び諂うのだよ。……現実世界でも、そうだろう? ユウ』
敬語を止めたクラヴィスの言葉に、暗闇は沈黙する。
暗闇に、クラヴィスは続けた。
『力を手に入れたと勘違いした者がよく起こすことだ。私のような力を持つ者と同等になったと思い込む……。愚民が。力の使い方も意味も、なにも知らない者は持つ者に献上するしか価値はないのだ。まして、NPC相手に持った力も価値も、意味などない。勘違いをするな。……さっさと、持っているものを差し出すのが貴様の歩む道だ、ユウ』
「俺の道を勝手に決めるんじゃねぇぇぇぇッ!!」
その叫びは、暗闇を引き裂いてその場に響くようだった。
「俺の人生を勝手に決めるな!! この世界でどう生きるか、どうするかは……俺だ!! 俺の意思で歩いていくんだ!!」
その言葉に、クラヴィスは不快そうに眉をひそめるがユウは続けた。
「確かに……お前達が秩序を作り、ルールを作り、それを守らせているならそれは……良いことなんだろうよ!! 尊敬をするプレイヤーも、憧れるプレイヤーもいるんだろう!!」
『ほほう、認めるのか』
「だが、それは俺にとっての価値じゃねぇ!! お前達と、そいつらが認める価値だ!! 俺にとってのそれとは、違うんだよ!!」
『では……お前は何故、ノルムの村のために戦う? 貴様と私は、なにが違うというのだ? 人のために戦い、尊敬を受け、力を蓄えて世界に尽くす。いってみろ、どう違う?』
「俺は……世界も群衆も、興味なんてないんだよ!! 俺は俺のために……俺のことを、誇れる自分になるために戦っているんだ!! 人を守れた、人の笑顔が守れた、こんな俺みたいなヤツが、頑張れた、って……!!
俺の価値が、俺が決めるんだ!!」
『大衆の一部の屑らしい意見だ。お前のような下々の民の価値は、上に立つ者が裁定するのだ。黙って、持てる力を捧げ、力のある者に従っていればそれでいい』
「俺は大衆じゃない……!! 俺は、俺だ!! 一ノ瀬悠だ!! 俺は……俺達は、数じゃないッ!! そしてその価値は、俺達自身が決める……!! お前こそ黙っていろ、クラヴィス!!」
『……ふっ』
クラヴィスは目を閉じて肩をすくませて溜息をつくと、ぱちん、と右手の指を鳴らした。
『実に面白い会話でしたよ。大変参考になりました。……まぁ、野良犬が一匹吠えていたところで、私には犬の言葉が理解できませんでしたがね。……それではゼンくん、リリィくん、決めてしまってください』
「……キキキ……」
暗闇の中で、ゼンの声が笑う。
近づく足音に、ユウは剣を構える。自分自身の全力を尽くし、その自分を誇ろうと戦いの準備をした。
(負けない……。俺はこんなところで……負けられないんだよッ……!!)
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