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(――クソッ!! これだから相性最悪なんだよ、リリィのフレームとは……ッ!!)
心の中で悪態をつきながら、ヨアはサイドステップでその《鞭》の攻撃をかわした。
攻撃を繰り出したのは、パピリオ・アピスソードであった。
右手に持ったその武器は……いつの間にか《鞭》へとその形状を変化させている。
剣についていた鎖がしなやかに伸び、剣先が鞭の先端となってファントム・アイを突き刺そうと上空から迫っていたのだ。
その攻撃方法を知らなければ、意表を突かれて直撃を受けていたであろうが……かろうじて、それを知っていたヨアは回避ができた。
パピリオ・アピスソードの最大の特徴は……変形するレイピアと鞭。武器を二つに形状を変化させ、遠距離と近距離に戦闘スタイルも意のままに変化させることにあったのだ。
「流石だねっ、先輩! でもさぁ……知っていたからって、戦いで有利なのはこの僕だよッ!!」
ヨアとリリィとの距離は数mは離れている。
しかしパピリオ・アピスソードの鞭はその距離を余裕で埋めるほどに、長い。
縦に振られた鞭は今度は横へと振られ、サイドステップで避けたヨアの腹部を狙って放たれる。
「くッ!!」
寸前まで迫ったその鎖鞭を、跳躍して避けるヨア。
避けながら右手に持った拳銃で数発、リリィに向けて銃撃を放つ。――が。
ひらり、とリリィはその軌道を見切ったように身体を捻って弾丸を回避した。
「遠距離。正面からの発砲くらいなら、フレームの身体機能で回避できるの……知っているよね? ヨア先輩。……先輩のファントム・アイほど眼はよくないけどさ」
「……だよね……!!」
戦闘に特化したフレームシステムであれば、この世界では拳銃の弾丸のスピードであっても見切られてしまうのだ。
それは、ヨアも理解をしていた。
しかし意味のない射撃ではない。鞭の攻撃を行いつつ弾丸の回避行動をとったリリィには若干の隙が生じる。
そこで相手との距離を詰めて格闘戦に持ち込めば――!
一気に前に駆け出し距離を詰めるヨア。
――しかし。
「……ッッ!!」
「あはははははははは!! 分かってるよ、先輩!! そうくるよねェ!!」
距離を詰めたヨア以上のスピードで、リリィの武器である鎖鞭は……本体であるパピリオ・アピスソードの持つ右手の柄へと収まる。
再びレイピアと化した剣でリリィは身体を捻り、回し蹴りのような格好で相手に刺突を放った。
頭を狙い澄ました攻撃をギリギリで回避するヨア。
その速度は……現実世界ではあり得ないほど、高速だった。
「ほらほらァッ!! どんどんいくよッ!!」
風を切る音が、次々と訓練場に響く。
生身の肉体ではあり得ないほどの高速かつ連続した突きと、それをギリギリで見切った回避。
まるで時間が早回しで進んでいるかのような攻防が繰り広げられていた。
(くッ……!相変わらず、リリィのフレームの方が戦闘能力は上……!!反撃の隙がない……!!)
パピリオ・アピスソード最大の特徴は【汎用性】と【戦闘能力】にある。
武器であるレイピアは鎖の鞭へと変形可能で、遠距離への攻撃が可能。自在に方向を変え、軌道の見えづらい鞭での攻撃は対応が非常に難しい。
かろうじてそれを避けたとしても、待っているのは近距離用のレイピアへと変形した戦闘への迅速な切り替え。
風のように速く正確な剣撃から逃れられるプレイヤーは、この世界でも僅かしかいないであろう。
「避けるだけじゃあつまらないよ!! さっさと反撃してよォ、先輩ィッ!!」
「わかって、るよ……ッ!!」
だが、出来ない。
ファントム・アイの拳銃を少しでも前に出せばレイピアで弾き飛ばされるかその手を串刺しにされるのが目に見えている。
ヨアのファントム・アイは特に視力に優れたフレームで、索敵や偵察などを行う特殊なフレームである。
それ故、戦闘特化のリリィのフレームとの逃げ場のない訓練場での戦闘では、格段に不利となる。眼を使い相手の攻撃の軌道を読み回避行動はとれるが……反撃が追いつかないのだ。
(活路を……! 見出さなくちゃ……ッ、やられる……!!)
――
一方の、イヴァレックス。
対峙するノクス・ストリクスの攻撃パターンは学んでいる。
素早い動きと、二本の曲がった短剣による斬撃。時に動きの読みづらいフラフラとした足取りをとるが……それも既に一度行った戦闘で学んでいた。
『ユウ!』
「……ラゼ! ノヴァブレードを出すよ。一気に決める!」
変身を完了し、ユウの脳内に語りかけるラゼット。
しかしその声色には、不安が滲んでいた。
『そりゃあいいが……油断するなよ。一度打ち負かした相手をもう一度ぶつけてくるなんて、絶対になにかあるぜ』
「……ああ。分かっているよ。でも、やらなくちゃ……!!」
ユウは左手首のレバーを左に倒し、片手剣ノヴァブレードを出現させる。
『ウェポン転送! ノヴァブレード!』
収束する光を右手で掴み、相手を威嚇するように剣先を向ける。
「キキキ……キ……キキ……」
対するゼンのフレームは、獣のような声をあげながら首を左右に振ってその場から動かない。その声は、笑みを含んでいるようにも聞こえた。
ユウは、前回の戦闘からこのノクス・ストリクスというフレームのスピードや武器は学んでいる。
しかし、相手のこの余裕は何故だ、とユウは戸惑う。普通であれば一度打ち負かされた相手に対して、前回とは違うアプローチを仕掛けてくるものだ。
何故目の前のフレームはその場から動かず、まるで何かを待っているような姿勢でいるのだ。
――その時。
「え……?」
『な……なんだ、ありゃあ……!?』
ユウとラゼは、同時に驚く。
ノクス・ストリクスのフレームの装甲は、まるで全身を羽毛のように覆っており、背中の部分は長いマントのような形状になっている。
その背中の部分にある幾つかの空間や装甲と身体の隙間から……煙のようなものが、生じているのだ。
前回の戦いでほんの少しだけ見た光景は、気のせいなどではなかった。
そして、前回と同じようにその黒煙に驚いて動きを止めてしまったのは……ユウの失態であった。
「キキキ……もウ、遅い、デスよ……」
ゼンの言う通りであった。
ノクス・ストリクスから生じた黒く、濃い煙はその身体を覆い隠し……やがて、訓練場そのものを飲み込んでいく。
まるで、夜の訪れ。漆黒の闇のような黒色はユウの眼前まであっという間に広がってくる。
「う、うわっ……!」
『ユウ! や、やべぇぞ、コレ……!』
イヴァレックスのフレームを通したユウの視界は…… 全てが、煙。闇の中へと包まれてしまったのだった。
「……さあ、ノクス・ストリクスの本領発揮ですよ。……どこまで抗えますかね……シルバーフレーム。そして、パピリオ・アピスソードの猛攻にどこまで耐えられますかね……ファントム・アイ」
管制塔から四人を見下ろすクラヴィス・ヴァレクトの表情は、愉悦に満ちていた。
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