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ゼンの身体を、黒色の煙が包む。
対峙をするユウは、その中からどんな姿が出現するかを知っていた。
暗闇からのそり、と顔を出したそれは相変わらず不気味に大きな瞳を輝かせており、こちらを感情なく見据えている。
ノクス・ストリクス。
ゼンの変身したそのフレームは、歪曲した一対の短剣をこちらに向けて攻撃の意思を示していた。
リリィのブレスレットからは、淡い紫色の光が出てその身体を包んでいた。
それらは大きく発光するというより、まるでひらひらと飛び交う、蝶のように小さな光が次々とリリィの身体に集まっていく。
現実世界ではあり得ない光の動き。
やがてその光が空気に溶け込むように小さくなっていくと……そのフレームが露わになっていった。
「……フフ」
まるで、虫の触角のようにマスクに生えた二本の金色の角。
瞳は大きく丸々としてつり上がり、蜂のような鋭い目つきを浮かび上がらせる。
白銀の軽鎧を纏う騎士のようなスマートな装甲で、背中や腰は蝶のような紫のマントがたなびく。
小柄なリリィの変身した姿はどことなく可愛さも感じてしまうだろうが……右手に持った武器が、そのイメージを払拭させた。
鍔部分は大きな蝶の形の装飾が施させた、レイピア。細く鋭い刃は長く伸び、蜂の尻尾を連想させる。
柄頭部分と蝶の鍔部分を小さな鎖が繋いでおり、それがチャラチャラと金属音を鳴らしていた、異様な武器である。
ヨアに近づいてくるそのフレームは……パピリオ・アピスソード。そうブレスレットから聞こえた。
変身をしたリリィは、マスク越しにヨアに明るく声をかける。
「さ、ヨア先輩。さっさと変身してよ。抵抗……するんだよね?勿論、素直に捕まってくれればそれでいいんだけれど」
「……!」
「投降するなら跪いて。変身するのなら、待っててあげるよ。……お仲間のシルバーフレームも一緒に、さ」
余裕をもった言葉だった。管制塔のクラヴィスも指令を出さないことから、どうやらこちらが変身をして戦うことを望んでいるらしい。
鉄柵越しに背を合わせ、互いの敵を見据えるユウとヨアは会話をする。
「ヨア……。戦うしかないぞ、これは……!」
「分かっているよ。別に……同じギルドのプレイヤーと戦うのはそこまで苦にしていない。安心して」
「そ、そうなのか? それじゃあ……」
「ただ……注意しておいて。ユウが前回打ち負かしたノクス・ストリクスをあえてもう一度戦わせようとしているということは、なにか勝機があるということだよ。同じように勝てるとは思わないほうがいい」
「あ……ああ……」
ヨアは左手首の歯車型ブレスレットに右手で触れながら、言葉を続けていく。
「とにかく、ボクはリリィ……ユウはゼンに勝ってどうにかここを脱出しないと。変身すればこんな鉄柵や搬入口の鉄扉は破壊できるけれど……多分、そんな暇は与えてはくれない」
「……だな。まずはあいつらを倒さないと……! ……できるのか、ヨア」
ユウの言葉に、ヨアはふう、と短く溜息をつく。
「もちろん。……と言いたいところだけれど……厳しい」
「え? そうなのか……?」
「リリィのフレーム……パピリオ・アピスソードとは、訓練で数回戦っている。だから、相手の戦い方やフレームの性能は知っているつもりだ」
「だ、だったら……」
「……だから、厳しい」
ヨアは汗ばんだ左手をぎゅ、と握り締めて告げた。
「……ボクのファントム・アイと、相性が最悪なんだ。……ボクは彼に、訓練で勝ったことは……ない」
「……マジか……」
ノクス・ストリクスとパピリオ・アピスソード。
二体のホワイトフレームはどんどんと歩んできて、ユウとヨアへの距離を詰めてくる。
最早、猶予はない。このまま人間体のまま攻撃を受ければ、一巻の終わりである。
「……ダメージを受けすぎて強制ログアウトになれば、12時間のログイン制限を受ける。更に現実世界でダイヴギアに備わったバイタルチェック機能をクリアしなければこの世界に再び入ることはできない」
「え……12時間……!?」
「やっぱり知らなかったの」
ヨアは少し呆れたような声を出すが、その余裕もなくなってきて少し早口で続ける。
「再びログインできたとして、リスポーンは同じ場所……つまり、ここで死んだのならばここに復帰される。ヴァレクト・システムの本部……。待ち伏せされて強制収容がオチだね」
「……負けられない、な……!」
「うん。……死なないでね、ユウ」
「ヨアもな。……どうにか、やってくれ……!」
ユウの左手に光が灯る。そこには、ユウの変身アイテムであるラゼットの形をしたブレスレットが装備されていた。
(……! 今、奴の手首にブレスレットが出現した……!?)
管制塔のクラヴィスは見たこともないそのブレスレットの出現方法に驚く。
見られている事など意識していないユウは、折り畳まれた尻尾型のレバーに右手で触れた。
それと同時に、ヨアも左手首に装着されたブレスレットの歯車に右手で触れる。左肘を引いて構えを取り、相手を見据える。
二体のホワイトフレーム。
ノクス・ストリクスと対峙するユウ。
パピリオ・アピスソードと対峙するヨア。
そして二人は、同時に声を上げた。
「装醒ッ!!」
「白醒!!」
ユウは尻尾レバーを引き下げ、ヨアは勢いよくブレスレットの歯車を回す。
二人は光に包まれる。
ユウは赤い光が炎のように絡みつき、ヨアには白の光がコートを羽織るように被さる。
そして同時に、二人は装甲を身に纏った。
『 銀輝永煌!! シルバーフレーム…… イヴァレックス !!』
『 アイ・オブ・インサイト ! ホワイトフレーム…… ファントム・アイ !』
「……イヴァレッ、クス……!! ひ、ヒヒ……。今度、コそ……!!」
白銀の装甲の戦士を見て、ゼンの変身したノクス・ストリクスは楽しそうに首を左右に振りながら、怪しく揺らめく。
一方のファントム・アイを見てリリィの変身したパピリオ・アピスソードは微動だにしない。
「本気でやるつもりなんだね、ヨア先輩。……じゃあ僕も……アンタをもう、裏切り者として見ることにしようかな」
そう言って、右手に持ったレイピアを大きく上に掲げると―― 思い切り振り下ろした。
「……そう見てくれて構わないよ。ボクはもう、このギルドを……ヴァレクト・システムを抜ける。君とは、敵同士だ」
ファントム・アイに変身したヨアは右手に持った拳銃を相手に向けると身体を低く構え、いつでも動ける態勢をとった。
「……クラヴィス団長を……僕達の団長を、裏切るんだね、先輩。……じゃあ……遠慮無くいかせてもらうよ……!」
「ああ。こっちも、遠慮はしないよ」
「……死んじゃええええッ!!」
リリィのその叫びと同時に。
《鞭》が、ヨアに向けて放たれた!
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