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現実世界の、小さめの体育館ほどの大きさがあるヴァレクト・システムの地下訓練場。
まず、その訓練場の南側には大きな入り口がある。ヨアとユウが先ほど侵入してきた場所だ。
東側、西側にはそれぞれ小さな入場門があり、訓練場として訓練を行う人間がそこから入るために使われる。以前、ユウとゼンが戦った時に使用された場所である。
そして北側には訓練場を見下ろす強化ガラス張りの管制塔があり、そこからユウとゼンの戦いをクラヴィス達が観戦していて、今はクラヴィスがその中央でこちらを見下ろしている。
その管制塔の真下に、脱出を図ろうとした搬入口が存在するのだが……。
その搬入口の鉄扉の丁度半分を境に、北から南までを両断する鉄柵が突然、無数に地面から生え、それが天井まで連なっていった。
隙間は僅か数cmずつ。ユウとヨアの顔は確認できるが、通り抜けることは出来ない。
太く固い金属の棒は触れて揺すってもびくともせず、ヨアとユウはそれぞれ、東側と西側のスペースに閉じ込められてしまったのだ。
『ヨア・ゲーアハルト……。キミには失望いたしました。私の右腕として働いてもらっていたつもりでしたが……まさか、幹部であるキミが、ギルドを裏切るとはね』
マイクから通されたクラヴィス・ヴァレクトの声はスピーカーから訓練場へと伝わってくる。
抑揚のない淡々とした、冷たい口調。その声にヨアは思わず唇を噛み、俯いて視線を逸らしてしまう。
「ま……待て、クラヴィス! これは、俺がヨアを唆して……!」
『ユウくん……。キミには、まだまだ色々と聞きたいことがあります。勝手にここを脱走されては困りますね』
ユウの言葉はクラヴィスの耳には入らず、途切れてしまう。
『それに、違反プレイヤーを野放しには出来ませんね。諸々の手続きが終わるまで、このギルド本部から出ることは許可できません』
「く……! ど、どうせ……【エデンコード】のことを聞き出したいだけだろ……!! だから、そんなものは俺は知らないって……!!」
『……はて、なんのことですかね……。とにかく、キミはまだまだ……まだまだまだまだ、この場所から出ることは叶わないのですよ。……ユウくん』
【エデンコード】の言葉に、クラヴィスはわざと反応しない。
冷静で、冷酷。クラヴィスのその内に秘めた感情はユウにも、ヨアにも読み解くことはできなかった。
「だ……だったら……! 俺は、この世界にはもう、ログインしない……! それならお前も諦めがつくだろ……!!」
『……ふっ、見え透いた嘘ですね。……ああ、それならば、ノルムの村は私達のギルドに一任させていただきましょうか』
「な……っ!!」
ユウの心の内を見透かした、余裕のある表情をクラヴィスは浮かべていた。
『所詮、NPCしかいない村でしょう? あまり乱暴な真似はしたくないのですが……。まあ、治安維持に関わることですからね。運営側も許可してくださると思います……クク』
「て……てめぇぇぇっ……!! なにをっ……!!」
『強力なバグルが出現し、村を破壊してしまった……と。まあ筋書きはこんなものにしておけば、後は我々がどうとでもできますしね。村も……村人も……』
「ぐ……ぐ、ぐ……ッ!!」
怒りに拳を振るわせるユウ。明らかに、自分がどうにもできない状況を読まれ、作り出されている。それが分かっていても何も反論できない自分に、ただただ怒り、絶望した。
「……団長……! ボク達は、治安維持ギルドのはずだ……! NPCであってもプレイヤーであっても、そんな行為が許されるはずはがないでしょう!!」
地面に落としていた視線を再び頭上のクラヴィスに向けたヨアは、叫ぶように言った。
だが、そんなヨアの激情を素通りさせるように、クラヴィスは冷静に告げる。
「ヨアくん。……残念ながら、キミの居場所は、もうこのギルドには存在しない。……ユウくんと同じように、このギルドに閉じ込めさせていただきましょう」
そう言った後、クラヴィスは口元を歪ませた。
「ただしキミの場合は……処刑です。強制ログアウトにならないレベルの痛みを永遠に与え……ショックで廃人にでもなってもらいましょう……クククク」
「……ッ!! あんたは……!! そこまで歪んでいたのかッ……!! クラヴィス・ヴァレクト!!」
ヨアは団長を敬うことを捨て、怒りで鉄格子を拳で叩きながら憎悪と怒りの言葉を吐き捨てた。
『お喋りもこの辺にしますか。……それでは、まずは二人を捕縛してもらいましょう。……お願いいたしますよ』
クラヴィスはわざとらしい溜息をつきながら、笑みを含んだ声でそう告げた。
すると……閉じていた東側の門、西側の門が同時に大きな音を立てて開く。
「……ッ!?」
「な……に……?」
中心部が鉄柵で両断されたまま、ユウとヨアはそれぞれの門に視線をやる。
すなわち、ヨアは西側のゲート、ユウは東側のゲート。二人で鉄柵越しに背を合わせるような体勢をとると……。
開かれた東西の門から、それぞれの人物が顔を出した。
「お前は……ゼン……!?」
東側。ユウのエリアの門から入ってきたのは……少し前に戦った相手、ゼンであった。
「…………。まタ、お会イ、しましタね、ユウさン……」
包帯の隙間から漏れるように聞こえる掠れ声は不気味で聞き取りづらく、どんな感情でいるのかすら隠している。
ゆらりと亡霊のような足取りで近づいてくるゼンの両手には、曲がった短刀が構えられていた。
そして、西側。ヨアのエリアの門からは――。
「やっほー♪ ヨア先輩。……くすくす、まさかこんな風に先輩と対峙するなんてね……」
笑顔で手を振り、まるでスキップをするように近づいてくる少年……。
リリィ・ホワベリーの姿がそこにあった。
「リリィ……!?」
「ホントは先輩ともっともっと仲良くしたかったんだけどさぁ……。……でも、聞いたよね。クラヴィス様は先輩に失望したんだって。……だから、僕も同じ。クラヴィス様を悲しませるヤツは……僕が、始末しなくちゃいけないんだ」
リリィの表情は、一瞬で冷たい笑みへと変わった。
その顔の横へ、彼は左手の手首を近づける。
そこには…… ヨアやゼンと同じ、歯車型のブレスレットが装備されていた。
「……リリィ……!君は……!」
「話は後。まずは先輩を捕まえなくっちゃ♪ ……ちょっと痛い目を見るかもしれないけれど、よろしくね……先輩」
リリィは歯車の中央にあるボタンを押した。
同時に、ユウに近づいていくゼンも右手首の歯車ブレスレットのボタンを押す。
二つのブレスレットから発せられるアリシアのアナウンスが、重なって訓練場に響いた。
『 スタンバイ 』
『 スタンバイ 』
「はくセイ……」
「白醒……!」
そして、ゼンは左手で撫でるように歯車部分を回転させる。
リリィは、顔の横に見せたブレスレットの歯車を右の人差し指でピン、と弾いて回転させる。
そして二人は―― 変身する。アリシアの声が、その名を告げた。
『 サイレント・ハント 。 ホワイトフレーム…… ノクス・ストリクス。 』
『 フラッター・アンド・スティング! ホワイトフレーム…… パピリオ・アピスソード! 』
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