3-8
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「見事な戦いぶりでしたね、シルバーフレーム……イヴァレックス、と言いましたか」
再び、牢獄。
ユウは訓練場での戦いの後石扉の奥へと戻っていき……そこに待っていたクラヴィスと共に、元いた牢屋へと連れて行かれた。
部屋の半分を仕切る牢屋の中にユウを案内するように手を差し出すと、ユウはそれに素直に従ってその中へと入っていく。
それを見たクラヴィスは不敵な笑みを浮かべた。
「あれほどの力を持ちながら力尽くでこの牢屋を出ないのは疑問ですねぇ。何故そうしないのですか?」
牢屋の鉄格子のドアを開けたまま、挑発するようにそこに立ち塞がるクラヴィスに、ユウは壁を背にして腕組みをし鼻で笑ってみせた。
「逆に……そうされても問題がないから、俺をこんな牢屋に閉じ込めているんだろ?」
「ほう?どういう意味ですか」
「例えば、この施設は広大で迷路のように入り組んでいて、脱獄したとしても脱出が不可能なような設計になっている、とか。……あとは」
「あとは?」
「ヨアやゼン以外にも強力なフレーム使いがいて、その気になれば俺なんていつでも痛めつけられる、とかね。だからこそ、ある程度俺の自由を保障して余裕を見せていられるわけさ」
「…………」
ユウの指摘に、クラヴィスはその場から微動だにせず不気味に微笑んでいるだけだった。
それを崩そうとするように、ユウは言葉を続けた。
「でも、アンタはそうしない。何故かって?……俺に、聞きたいことがあるからだ。俺のシルバーフレームのこと。そして……前に言っていた【エデンコード】のこと。それを秘密裏に聞き出したいから必ずアンタは俺と話すときに一対一になりたがる」
「…………」
「ここに俺をこうやって拘束していることは、運営側は把握しているのか?これは、正当な拘束なのか?……だったらもっと、現実世界の警察の取り調べみたいに、複数人で俺に話を聞くべきだろ。このギルドで一番偉いギルドマスターのアンタがここに一人でいる時点で既におかしい」
「…………」
「俺のシルバーフレーム……イヴァレックスの力は、さっきの戦闘で分かっただろ。……それで?次はいよいよ、それが何かを聞き出したいってわけ?それが【エデンコード】と関係あるなにか――」
そこまでユウが言ったところで、クラヴィスは血相を変えて前へと歩み出てきた。
鬼の形相。怒りに満ち、歯を剥き出したその表情は、まさに鬼であった。
そしてクラヴィスは、長い脚を前に出して前蹴りをユウの腹にめり込ませる。
「!?ぐ、ふゥ……ッ!?」
「余計なことをベラベラと……! 貴様は大人しくそのフレームのこととエデンコードについて話しておけばいいんだ……! あまり私を苛つかせないほうがいいぞ……!」
「ぐ、ぅぅ……!!」
体重をそのまま乗せ、背にした壁に腹をめり込ませるように脚を乗せ続ける。
痛みに加え、嗚咽感までもがリアルに再現されるユウは、痛みに押し潰れた声をあげた。
「貴様は所詮……【数】に過ぎん。1人のプレイヤー、10人、100人、1000人……。その塵のようなゴミ一つがギルドマスターたる私に口を利き、あまつさえ挑発するような真似など本来許されないことだ……!!」
「あ、ぎ……ッ! や、め……!!」
「ほんの少し大きな力を持って、私と対等な存在だとでも勘違いしたか? 阿呆が……ッ!! ニューレアル……世界中から集められたプレイヤーの頂点の一つたるギルドマスターに、単なるクズプレイヤーが……!! 調子に乗っているんじゃない……!!」
「ぐ、う……ッ!!」
「吐け……!! 貴様のフレームと、エデンコードの秘密……さっさと吐けェェッ……!! それでしか貴様の価値はないのだからなぁぁ……!!」
狂気に満ちた笑みを浮かべながら、腹部を圧迫し続けるクラヴィス。
ユウは両手でその脚を必死に押さえて押し戻そうとしながら……なんとか言葉を絞り出した。
「わ、かっ……た! 喋る……喋る……!!」
「ふ、ふふ……。そうです……。貴方のようなプレイヤーが、私と会話をする価値は……」
腹にかかっていた体重がふと軽くなった。
そうなったところで……。
ユウは、クラヴィスの顔に唾を吐いた。
「……へ、へへ……。……それ、俺の答えだから……」
「…………。……は……」
一瞬、なにが起きたか分からないクラヴィス。
そして、それを理解した瞬間――。
クラヴィスの拳が、ユウの眼前に迫っていた。
――
『ここまで痛めつけられて強制ログアウトってしねぇもんなんだな。……大丈夫か?ユウ』
「……へ、へへ……。まぁ、ね……」
痛みの残る身体でまともに動けず、牢屋の中で横たわるユウ。
しばらく時間が経ち、ユウが一人になったのを見計らうと、ゼがひょっこりとユウの背中から歩いてきて顔を覗き込んできた。
「ばーっかだなぁ。あんなに挑発するからだろ? もうちょっと穏便に済ませること考えろよ」
「……それが、いいんじゃないか」
「あ?」
「冷静気取ってるヤツの図星を指摘してやるのがさ。……俺を捕らえてあんな風に【エデンコード】ってヤツのことを聞き出している時点で『私はそれについて何も分かっていないです』って言ってるようなもんだからさ。……実際、俺は何も知らないわけだし。……だから、揶揄ってバカにしてやりたくなるじゃん」
「……お前、案外性格悪いな」
「そう言うラゼも、なんか楽しそうじゃんか」
「ひひ。……ま、半分はお前の身体心配してやってるんだぜ」
ユウとラゼは、そう言ってにぃ、と同じような笑顔を見せた。
「……っと。また来客みたいだぜ。クラヴィスか?」
こちらに近づいてくる足音に気づき、ラゼはユウの身体をジャンプして飛び越すと、背中に隠れる。
ユウが部屋のドア側に視線を向けると、そこがゆっくりと開いた。
「……?」
ユウは、その来客に驚いた。
そこには……以前。ノルムの村で自分と戦った褐色のオッドアイの青年。
ヨア・ゲーアハルトがいたからだ。
「……ヨア? なんだ……次はそっちが尋問……」
「しっ。声を出さないで」
ヨアは廊下側を気にしながら、ゆっくりとドアを閉める。
そしてユウが閉じ込められている鉄格子の扉部分に近づくと、コートのポケットから鉄製の大きな鍵を取り出した。鍵を鍵穴に差し込んで、それを回す。
「え……?」
「いいから。……よっ、と。よし、開いた」
重く、軋む音がする鉄格子の扉をゆっくりと開けて、ヨアが蹲っているユウの所へと近づいてくる。
そしてその場にしゃがみ込むと、ユウの手を取った。
「ど、どういうこと……?」
「決まってるでしょ」
ヨアはゆっくりと立ち上がる。
手を取られたユウは、それに合わせるように身体を引き上げられ、同じように立ち上がる。
青と橙のオッドアイの瞳がにぃ、と笑った。
そしてヨアはイタズラっぽくユウに告げる。
「ここから、脱出するよ」
――
《次回予告》
戦いと葛藤の末、ヴァレクト・システム本部からの脱出を決意するユウとヨア。
しかしその前に立ち塞がるのはギルドマスターであるクラヴィスと二人の刺客。
秘められたゼンのフレーム能力。そしてリリィ・ホワベリーのフレームが二人に立ち塞がる。
果たしてユウとヨアは、秩序と混沌の要塞から逃げ出す事が出来るのか。
その時、イヴァレックスの新たな力が覚醒する。
次回 悠久創世譚エデンコード 第四話【共鳴と新たな覚醒】
――世界がまた、創造されていく。




