3-7
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黒煙から顔を出すようにして歩み、その全身が露わになるホワイトフレームは、不気味であった。
ユウやヨアのフレームの【仮面】とは雰囲気の違う見た目。例えるならば、羽のような金属が幾重にも重なりあって出来た、羽毛のようであった。
その羽毛の中から、白色に輝く一対の瞳がこちらを見据える。さながらそれは、黒目のないフクロウのような顔だとユウは感じる。
身体に関しても同じく、イヴァレックスの装甲とは違い、金属の羽毛が重なり合ってそれが鎧となっていた。
そしてそれが背中まで伸び、マントのような形で全身を包んでいる。
マントから出た両腕に持つのは……二本の短剣。ただの短剣ではなく、歪曲し、猛禽類の爪のように相手に突き立てるような形状をしていた。
「……フレーム使いかよ……! そんなことだと思っていたけど……!」
ユウは両手を構えて右脚を前に出し、ファイティングポーズをとる。
ゆっくりとそこに歩んで向かっていたゼンは、段々と歩むスピードを速めていき……やがて、マントが大きく膨らむほどの全力疾走で、こちらに向かってきた!
「シェェェアッ!!!」
「く、っ!!」
両腕の短剣による、素早い斬撃。
振り上げた二本を躊躇することなくイヴァレックスに向けて振り下ろしてきたノクス・ストリクス。右に回り込むように回避をしたユウであったが、その動きを読んだようにゼンは左手の短剣を横に振る。
バックステップでそれを回避するユウであったが、それに合わせるように右手で大きく振りかぶってきた短剣が上から襲ってくる!
「おりゃあッ!!」
「ぐェッ!!」
後ろにステップをとりながらの姿勢でユウは相手の顎にハイキックをたたき込む。
直撃をしたゼンであったが……その衝撃を逃がすように空中に仰け反ったまま飛び上がり、バク転。見事に着地をする。
「!!」
「シィィッ!!」
両腕の短剣による素早い突きが繰り出される。
持ち前の動体視力でそれを払いのけながら回避をしていくイヴァレックスだが、その動きは止まらない。ノクス・ストリクスの素早い斬撃が反撃の隙を与えてくれないのだ。
『ユウ! こっちもノヴァブレードを出せ! 躊躇ってる場合じゃねーぞ!』
(違うラゼ! こいつの動きじゃ、剣を出しても大振りな攻撃になって、かえって相手に隙を与えてしまう!)
『……! ユウ、お前……!』
(動きが速すぎるんだ! ここは相手の動きを見ながら、格闘戦じゃないと!)
『お……おう!』
ラゼは、ユウの言葉に納得をした。
確かに、相手は両手の短剣を自在に振るい斬りつけてきている。ノヴァブレード一本ではかえって対応がしづらい。
装甲を身に纏った状態であれば攻撃力で相手に合わせるよりも格闘で相手のペースに合わせて回避や攻撃を行ったほうが良い。それをユウはこの一瞬の攻防で理解したのだ。
その成長に、ラゼットは驚愕していた。
(やるじゃねぇか、ユウ……! ヒーローらしくなってきたぜ!)
「へー、やるじゃん。ゼンのフレームのスピードについていけるなんて」
リリィは監視塔から二人の攻防を見て楽しそうに言った。
クラヴィスは腕組みをしながらそれを真顔で見つめ、ヨアも同じような表情で顎に手を当てて考えるようにそれを見ている。
(……あいつ、この前ボクと戦った時より攻撃が柔軟になっている。我武者羅に突っ込んできたあいつを、ボクが去なしていたみたいに――)
それを考えた時、ヨアはハッ、と気付いて目を見開いた。
(まさか……! あのボクとの戦闘で……学習したのか? 相手の動きに対応してこちらが動く術に……。あの短時間で……!?)
しかし、イヴァレックスの動きは先日の自分との戦闘とは別人のように滑らかになっている。
戦いながら学ぶ、とはよく言ったものだが、それでも天才的すぎる。これも、あのフレームの力なのか?と、ヨアは驚きを隠せなかった。
あの後すぐにこの施設に収容されたユウが変わった理由は、それしか考えられなかった。
「……シルバーフレーム……。ふふふ、一筋縄ではいかないようですね」
クラヴィスはそう言い、真剣な表情のまま口元だけ歪ませた。
「はッ!!」
ノクス・ストリクスの動きの僅かな隙間を突いて、イヴァレックスは最小限の動きで反撃に出る。
振りかぶらないジャブや、ローキック。威力としてはでないが、それでもフレームに変身した状態であればそれは大きな一撃となる。
姿勢が崩れ、次の攻撃が粗雑なものになり、次の大きな隙が生まれやすくなる。そこへ――。
「ぐェ!!」
攻撃姿勢のまま防御をとれず、ゼンは腹部への膝蹴りをモロに受ける。
前屈みになった相手に向け、ユウは素早く膝蹴りを行った右脚を地面に着地させ、もう一度離し、強烈な回し蹴りを相手の肩目掛けて放った!!
「ぎッ!!」
直撃を受けたノクス・ストリクスはイヴァレックスの強烈な蹴りに数m吹き飛び、地面に倒れ込んだ。
「よしっ! 今だ!」
『ここだぜ、ユウ!』
ユウはブレスレットの尻尾レバーを操作し、ノヴァブレードを出現させる。
光から出現した片手剣を素早く右手に持つと、左手を前に出してそれを後ろに引いた。
「く、ククク……クキキ……」
倒れていたノクス・ストリクスはゆらり、と蹴りを受けた肩をかばいながら立ち上がる。
両手に持ったダガーは手放さず、空中に投げてそれを一回転させると器用に持ち直した。
「キキき……。ヒヒヒイ……」
中腰のような姿勢をとり、そこから距離を詰めようとはしない。
まるで、鳥が羽ばたく前に地面を蹴り出すような、そんな姿勢をとるゼン。
それに警戒をするユウであったが、自分の必殺技は距離があったとしても放つことができる。
――この距離なら、決められる!
ユウはそれを信じ、ブレスレットのレバーを左に倒した。
『フィニッシュブレイク!』
ブレスレットのラゼの眼の部分が紅く光り、剣の刃が同色に光る。
もう一度、弓から矢を射るように右手を大きく後ろに引き、相手へと照準を合わせた。
『……! ユウ、あれ……!』
「!? な、なんだ……?」
それをユウとラゼは視認した。
ノクス・ストリクスの身体が……再び、変身した時のように黒煙に包まれはじめていた。
マントから出ているであろう濃い黒色の煙はノクス・ストリクスを飲み込むように噴きだしており、そして……。
「ひひ、ヒ……! こ、ロス……コロす……」
ゼンはブレスレットの白色のボタンを押そうと、手を――
『 やめなさいッ!! 』
そこに響いたのは、クラヴィスの声だった。
「え……?」
「……!!」
管制塔の上部に備え付けられた、スピーカーのようなものからそれは発せられていた。
どうやら見物席の内部からこちらの訓練場に声を届ける装置らしく、窓からは怒気に満ちたクラヴィスの表情が見て取れる。
『……ゼン。今はまだ、それを使わないでおいてください。いずれ……使う時がきます。それまで、待っているように』
先ほどの叫びとは打って変わった、落ち着きのある声はゼンに向けられていた。
「…………」
ノクス・ストリクスに変身をしたゼンは管制塔の方を見上げるとすっ、と立ち上がり、ぺこりとそちらに向けて一礼をした。
『ユウくん。今回の戦闘訓練はこれにて終了してください。……シルバーフレームの力、十分見せてもらいました』
「……あ、ああ……。うん……」
イヴァレックスのユウも、ゼンと同じ方向を見上げて、居心地が悪そうに頭を掻いた。
「ふふふ、あのままじゃあどっちかがログアウトしちゃうもんね。さすがクラヴィス様!」
リリィが窓の外を見下ろすクラヴィスの顔をにっこりと覗き込んだ。
「……まぁ、それもありますが。……ゼンくん……ノクス・ストリクスの本領は、まだまだ彼に公開すべきではないのですよ」
「え?そうなの?どうして?」
「ふふふ、いずれ分かります。……そして、リリィくん。キミのフレーム……【パピリオ・アピスソード】も……同様ですよ。ふふ……」
クラヴィスが怪しく笑い、リリィを見つめる。
それに応えるように、クラヴィスを覗き込んでいたリリィは同じような表情を浮かべた。
「……うん、わかったよ、クラヴィス様。……本当に、楽しみだなぁ……」
(……。これは、急いだほうが良さそうだな……)
その二人を、そして管制塔の下の二人を遠目で見るヨアは、決心を固めたように拳を握り締めた。
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