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ギルド【ヴァレクト・システム】の本部は広大で、特に地下部分に関してはそこに数百人が居住できるであろうスペースが存在している。
しかし、地下というだけあり、ギルドの暗部……知られたくはないものも同時に存在しているのである。
ユウが閉じ込められている牢屋や、取り調べ室。そして、治安維持組織というのは名ばかりである事を示す、武器庫や拷問部屋……。
その中でも最も大きく、現実世界の小さい体育館ほどの広さがあるのが地下訓練場であった。
(……わざわざ地下の訓練場か。イヴァレックスの存在をギルド内部ではかなり秘密裏に扱っていくつもりだろうな)
ヨアとリリィは、その地下の訓練場を見下ろせる位置にある監視塔にいた。
石造りの闘技場のような作りの長方形のコート。その北側にはガラス張りでコートの全景が一望できる監視塔がある。
小さな作りだが、椅子や机も用意されており人が数人滞在できるような部屋となっており、監視というよりは戦いを楽しむ観客席のような作りである。
椅子に座りコートを見ながら顎に手を置いて考え事をするヨアの隣で、同じく椅子に腰掛けたリリィがその顔を覗き込む。
「なーに考えてるの?ヨア先輩」
「……いや。その、戦闘能力のテストって、どういうことをするのかなって」
「へへへ。僕はもう知ってるんだー♪ でも例のシルバーフレームの戦いを見るのは初めてだから、楽しみだなー!」
「……そうだね」
リリィは既にどんな事が行われるのか知っているらしい。
ヨアも、シルバーフレーム……。イヴァレックスや、その変身者の事は知っている。
自分やリリィのような幹部クラスには団長も情報公開をするつもりか。地下闘技場に呼び寄せたのはそういう意思表示でもあるわけだな、とヨアは納得する。
「遅くなりましたね、ヨアくん、リリィくん」
そこへ、クラヴィスがドアを開けて現れる。
「クラヴィス様ー! 待ってたよー!えへへへ」
その姿を視認すると、リリィは椅子から立ち上がり飼い犬のようにクラヴィスの傍へ駆け寄っていく。
一方のヨアは椅子から立ち上がり軽く会釈をして、再び視線をコートの方へと戻した。
「二人とも、時間を割いていただき感謝します。フレーム使いであるお二人には、是非あの少年の戦いを一緒に見学していただきたくてね」
クラヴィスは監視塔のガラス窓へと歩んでいき、その後ろをリリィがスキップでもするかのように楽しそうについていった。
ヨアの隣に仁王立ちをすると、椅子に座ることなく腕組みをして微笑みながらヨアと同じように訓練場の方を見下ろす。
「ヨアくんは一度彼と戦ってもらいましたし、リリィくんには今回の訓練がどんなものかを説明させてもらいました。改めて、シルバーフレーム……イヴァレックスという変身機構の力がどんなものかを我々は知らなければいけません。彼が我々の脅威になるかどうかを、ね」
「でもクラヴィス様。シルバーフレームって、【ブラックフレーム】と同じ違法変身なんじゃないの?永久追放でいいんじゃない?」
顔を覗き込んで首を傾げるリリィの頭に、クラヴィスは優しく右手を乗せた。
「いいえ。それを判断するのはまだ、時期尚早です。シルバーフレームというものの変身者が彼だけとは限りませんし、研究をするといった意味でも彼にはまだいてもらわないと困ります。わかりましたね?リリィくん」
「うん!クラヴィス様がそう言うならー!」
自分の意思は団長の意思、とでも言うようにリリィはにっこりと笑ってそう言った。
「……団長。今回の訓練……内容はボクはまだ知りませんけれど、彼には……ユウには、なにをするのか話したのですか?」
横目で団長を見るヨアの視線はあえて外し、クラヴィスは口角をつり上げた。
「……ええ、もちろんです。腕試しができるいい機会だと喜んで、訓練を承諾してくれましたよ」
「……そうですか」
(……どこまでのことをしたんだ、団長は……)
会話と、一戦を交えただけだがヨアはユウのことを少しは理解しているつもりでいた。
理由もなく戦ったりこちらの要望を飲むような性格はしていない。
……対して、自分の知らない『スタンチャージャー』なんて物騒な物を使っていたクラヴィスが、彼に何をしたのか……。ヨアは怒りで拳をぎゅっ、と握り締めた。
「さ、そろそろ始まりますよ。しっかり見物しましょう、二人とも」
クラヴィスのその声を待っていたように、東と西、それぞれに設置されている石の扉が重い音をたてて開いた。
東端と、西端。距離にして40m程離れた場所にこの訓練場へと続く石の扉が設置されており、そこから訓練を行う人物が選手のように現れる仕組みとなっている。
まず、東側の扉から現れたのは――。
銀の装甲と紅い瞳、紅いラインが特徴のフレーム……イヴァレックスであった。
「へー!アレがシルバーフレーム!?確かに僕達のとはちょっと違うかもね」
ガラス窓に両手を張り付かせて、楽しそうにイヴァレックスを見つめるリリィ。
「……どんな方法を使ってどう変身するのかも見ておきたかったのですが、そこは見せないつもりらしいですね。……ま、いいでしょう。いずれ聞き出すとしますか」
腕組みをしながら、少しだけ不機嫌そうに言うクラヴィスを横目で見ながら、ヨアはイヴァレックスの姿をじっ、と見た。
……スタンチャージャーの存在を知っているからこそ、このゲームが決して安全なものではない事をヨアは理解していた。
「リリィくんも、しっかりシルバーフレームのことを学んでおいてください。いずれ君のフレームも……一戦交える時がくるかもしれませんからね」
「……うん、分かったよ団長。……ワクワクしちゃうね……」
二人の会話を聞きながら、ヨアは口を閉ざしていた。
代わりに、祈るように、一歩一歩歩んでいくイヴァレックスを見ながら、ヨアは心の中で呟く。
(……。生き残れよ、ユウ……!)
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(……広いな。あっちの扉から、戦う相手が出てくる、ってワケか)
イヴァレックスに変身したユウは、その視界で辺りをぐるっと見回す。
クラヴィスの恫喝に恐怖したわけではない。ただ、怒りを覚える感覚が自分にもあった事に驚いていた。
現実世界では普通の学生で、ケンカなど子供の頃以来した事はなかった。その自分が、クラヴィスに、このギルドに、怒っている。
その感情の掃きだめが欲しくて、この戦いに応じた自分が未だに信じられなかった。
戦闘をするフィールドを確認し、鈍った身体を軽くジャンプをしたりしながら動かして、ユウはそんな事を考えていた。
『ったく。まんまと挑発に乗りやがって。あっちの言いなりになるこたぁねーだろ?イヴァレックスに変身できるなら、さっさと壁でもぶち破って逃げ出せば良かっただろーが』
ブレスレットに変身したラゼットが、ユウの脳内に語りかけてくる。ユウも、それに心の声で返した。
(この建物の構造もよく分かってないし、脱走したとしてもどこに逃げればいいかわかんないよ。下手に動くより、まずは少しでも状況を把握したほうがいいだろ?)
『そりゃ後付けの理由だろ?本当は暴れたくてウズウズしてたんじゃねーのか』
(…………)
図星だった。
数日間、ゲームにログインしても牢屋の中で過ごすだけ。
加えて、あの暴力行為。久しぶりに変身して、戦いたかった。
ユウは装甲の上の頬を人差し指で掻きながら、向かい側にある石扉がゆっくりと開いていくのを見つめていた。
『……!おいおいおい、なんだ、あいつ……!気味わりぃな……!!』
ラゼが嫌悪感たっぷりの心の声を漏らす。
石扉からゆっくりと歩んできたのは……全身に包帯を巻いた人間だった。
このギルドの団員服であろう黒の制服とコートは身につけているものの、素肌の見える部分は全て包帯で覆われている。
手首も、足首も、耳も、目も、なにもかも……。
そして顔の部分には黒のインクで、大きな眼のような模様が落書きのように描かれている。
「……よろ、シク、おねガイしまス……。わタしは、ゼン、と申しマス……」
男かも女かも分からない掠れ声がかろうじてこちら側にも届いた。
ユウは相手のその様子に身構えながらも、軽く会釈をした。
「よ、よろしく……。ゼン、さん……」
「戦闘、クンレン……楽しみ、デすネ……。あなタのおチカら、試させテ、もらい、マス……」
包帯の人物はそう言うと、右の手首を自分の顔の横につけるように、こちらに見せてきた。
そこには……見覚えのある、歯車と白色のクリスタルの装飾があった。
「……!!」
ヨアが使っていたアイテム。
そして、包帯の人物がそれを身につけているという事は……。
それが意味するものを明示するかのように、彼は歯車のボタンを押す。
『 スタンバイ 』
再び聞こえる、アリシアのアナウンス。
包帯の人物は左手で歯車を撫でるように触れると、ゆっくりと回して、告げた。
「……はく、セイ……」
ブレスレットから出でたのは……煙。
なにかが燃えたような黒色の煙が包帯の人物を包み……そして、アリシアがその名を呼ぶ。
『 サイレント・ハント 。 ホワイトフレーム…… ノクス・ストリクス。 』
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