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――数日後。
「ヨアさん、こちらが報告書です。ノルムの村の住人のほとんどには聞き込みが行えたかと思います」
「……うん、ありがとう。大変だったでしょ?」
「いえ。これもこのギルドの大切な仕事ですから。あのシルバーフレームの少年が我々の仕事の対象となるかどうかは、しっかりと見極めなければいけない……。そうですよね?」
「……君みたいな部下ばかりだと、ボクも助かるんだけれどな」
柔らかな笑みを浮かべるヨア・ゲーアハルト。
数枚の報告書を手渡してきたのは、ヴァレクト・システムでは見知った顔である部下の団員であった。
ゲームとはいえ、ほぼ現実世界と変わらない感覚を共有する世界、ニューレアル。
その中で治安維持を行うヴァレクト・システムは、四大ギルドの中でも最も秩序のあるギルドである。
一つの任務に対して必ずチームでの編成が組まれ、それぞれが役割を担い、報告を上層部にあげる。
現実世界さながらの仕事を行う必要があるのは、このギルドがニューレアルの中で唯一、運営会社であるエデンリンク・インダストリーズと繋がりがあるからである。
違反行為を行うプレイヤーを発見。事実の確認。そして、いかなる判断を下していくか審議するのもこのギルドの役割であり、いわば運営の委託業務。
今回の件……謎のシルバーフレームを扱う少年【ユウ】についても、慎重に違反行為を行っているかどうかを審査する必要があった。
「そもそも、出所の分からないフレームシステムを使って変身していることが処罰の対象になるのではないですか?」
部下の男性は20代後半くらいの見た目で、ヨアより大人びた様子もある。
だが、ここはあくまで仮想現実の中であり、ヴァレクト・システム内でヨアより上の立場にいる団員はかなり少ない。
ヨアは、部下のその質問に報告書を読みながらも首を横に振った。
「そんなことはないよ。広大なニューレアルの世界の中には、未知の武器や道具、素材が腐るほど存在している。新しいものを発見して、それを使ったらじゃあ処罰対象だ! なんて横暴はいくらウチでもしないさ」
「な、なるほど……。それもそう、ですね。……しかし【ブラックフレーム】は……」
「あれは別。正規フレームがプレイヤーの手によって改造された代物、っていう出所がはっきりしているし。それに、それが違反行為であるというのはルールとしてしっかり存在している」
「あのシルバーフレームが、ブラックフレームと同じ改造品である可能性は?」
「ユウっていうプレイヤーがニューレアルにログインして数日、っていう情報はデータとしてあがっている。そいつがフレームシステムに詳しいボク達より先に未知のフレームシステムを発見して使っている、っていうのはあり得ない話だし……同じ理由で改造品を使っているっていうのも、まずあり得ない。どっちのあり得ない事象が起きているのかを検証するのが今すべきことかな」
「それもそう……ですね」
顎に手を置いて考え込む部下の男性に、ヨアは報告書から顔を上げてまた微笑んでみせた。
「だから、あいつがノルムの村でどういうことをしていたかが重要になるのさ。ありがとう」
「い、いえ……!」
「……村の住人が口を揃えて言うのは、ユウというプレイヤーは、ノルムの村を守るために変身してバグル討伐をしていた、と。村を訪れて数日……既に10体近いバグルを討伐しているね」
「村人からの信頼も厚く、借家も提供されておりノルムの村に溶け込んでいる様子でした。……逆に、それ以外に不審な行動をしていたという情報は一切……」
「……」
シルバーフレームという変身機構がどういうものであれ、彼の行動は一貫している。
変身能力を身につけ凶悪なバグルを倒すことができるようになったプレイヤー、ユウは、プレイヤーがほとんど滞在しないNPCだけのノルムの村を守るために戦っていたのだ。
「……ヨアさん。私には、彼が悪人だとはどうしても思えませんでした」
「……だろうね。ボクもだよ」
「私は……このゲームにログインして、人の愚かさに直面してきました。NPC……現実にはいない、この世界だけの存在だからといって、やりたい放題するプレイヤーも少なくありません。横柄な態度をとったり、暴力行為に及んだり、あるいは、女性のNPCに……っ」
グッ、と部下の男は両拳を握り締め、怒りに身体を震わせた。
「現実世界では出来ないようなことが、この世界では可能になる。それを、NPCへ向けるだなんて……! 彼らには、意思がしっかりとあります! 身体もあり、家族もあり、そして、夢や希望だって持っているんです! 作られた命だからといってなんですか……っ! 仮想現実だからといって、尊厳を踏みにじっていい理由にはならない!」
「…………」
「だから……私は、このギルドに入りました。秩序を保ち、プレイヤーもNPCも平等であるべきだという思いを、叶えるために。……私一人では正直、何も出来ませんでした。……ですが、ヨアさん達が率先して、私と同じ思いを持って行動してくれていたから……! 私はこの仮想現実で【役割】を全うできているのです」
「……ありがとう。なんだか、恥ずかしいな。そこまで言われちゃうと」
困ったように頬をかくヨアに、部下は今度は苦虫を潰したような顔をして視線を下に向ける。
「……。今のヴァレクト・システムは、どこかおかしい。クラヴィス団長は特に……治安維持というより、権力を振りかざして上の立場にいることが自分の存在意義だと思っているように感じてしまいます。……ヨアさんは、どうお思いですか?」
「……。あんまり、ボクの考えは関係ないんじゃないかな」
「ヨアさん……」
ヨアは報告書を机で丁寧に揃え終えると、部下を真っ直ぐなオッドアイの瞳で見つめた。
「大切なのは、自分がどう思うか。そして、その思いに自分がどう応えるか。……このギルドが絶対的な正義というわけじゃない。正義は、自分の中だけに存在するんだから」
「……そう、ですね」
「報告書、助かったよ。それじゃあ」
一礼をする部下に微笑んで頷き、ヨアはヴァレクト・システム本部の一室である小さな会議室から出て行った。
――
「やっほー、ヨア先輩♪」
会議室から出たところでヨアに話しかけてきたのは、リリィであった。
先ほどまでの会話が聞かれていたのでは、と一瞬不安が過る。
もしそうであった場合、クラヴィスを慕っているリリィがどういう行動に出るのかはなんとなく想像ができる。
……その場合、自分はどう行動すべきなのだろうか。
咄嗟にホワイトフレームへの変身も思考の中に入るヨアであったが、そんな考えをリリィの明るく楽しげな声が掻き消した。
「探してたんだよー! 今から面白いことが始まるらしいから、ヨア先輩も誘ってこいって! 一緒に観に行こー」
「……面白い、こと……? 誘ってこいって……」
リリィがその口ぶりで素直に自分の所へ来るとしたら、その主は一人しかいない。
「もちろん、クラヴィス様だよー! 今から地下の訓練場へ、ボクとヨア先輩の二人でおいでって♪」
(……やっぱり、か)
ヨアの考えは的中した。
しかし、なにをするというのか。
リリィと、自分。二人のフレーム使いを呼び出して、何かを観させるという事か……?
思慮を巡らせているヨアの考えを読んだように、リリィは怪しく笑って静かに言った。
「イヴァレックス。例のシルバーフレームの……戦闘能力をテストするんだってさ」
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