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次にユウが連れてこらせられたのは、先ほどの尋問室から更に廊下の奥に進んだ場所だった。
地上へと通じる階段からは最も離れ、くの字に曲がった廊下のせいで太陽の光も殆ど届かない場所。
その廊下に面した幾つかの部屋。その中の一つに、クラヴィスはユウを案内する。
部屋の中に通されて分かった。
無機質な白色の壁のみで、窓すらない一室。
その室内の半分を両断するように鉄製の檻が仕切りっていたからだ。
「……牢屋」
「ええ。一応、キミの身柄は現在我々のギルドで調査を行っておりまして。違反プレイヤーではない、と判断されるまでは此処で過ごしてもらうことになっております」
クラヴィスは、何故か楽しそうに眼鏡のフレームを人差し指で持ち上げる。
ユウは、その馬鹿げた事態を鼻で笑ってみせた。
「……ゲームなんだろ、これ。牢屋に閉じ込めたって現実世界に戻れば済む話じゃないか」
「ええ、その通りです。ここは仮想現実……実際に罪を犯して牢屋に閉じ込めるわけではありません。ですが、次にユウくんがニューレアルに訪れた際は、必ずこの牢屋にログインすることになりますよね?」
「……あ」
「つまりは、キミの審判が下るまではダイヴギアを使用した魔法のようなゲーム体験も、常にこの牢屋の狭い空間でしか行えないわけです。プレイの制限とでも言いますかね。……ま、大半の違反プレイヤーは二度とこの世界にログインしなくなりますが……現実世界でも、エデンリンク・インダストリーズの法的措置によりまともな生活は送れなくなるでしょう。このゲームの違反行為やチート行為は、誓約でかなり厳しく取り締まられることになっておりますから。……そのあたりは、ダイヴギアの購入時に嫌というほど誓約に同意の入力をしたからご存知でしょう?」
「…………」
まさか自分の使っているダイヴギアが、どうして自分に送られてきたのか分からない。購入をしていないのだから誓約に同意のしようがない。
それを使用してこの世界にログインしており、更によく分からない変身システムまで使っていた、なんて事は口が裂けても言えなかった。
どう考えても、それはまともなニューレアルの入り方ではないからだ。
「それでは、中にお入りください。……抵抗はしないですよね?ここはニューレアルの治安維持を専門としている我々ギルドの本拠地なのですから……懸命な判断を」
「……分かった」
「助かります」
にっこりと笑みを浮かべたクラヴィスの顔を横目で見つつ、ユウは部屋の奥に進んでいく。
開いていた檻の扉をくぐり抜け、その背後でその扉が閉まる金属音と鍵のかかる音が聞こえた。
「一つお聞きしたいのですが……。今のところキミは、シルバーフレームに変身するアイテムを持っていないようです。……どこかにお忘れですか?」
「……ああ、置いてきた」
「……どこに、という問いには答える気はないでしょうね。ま、調べさせましょうか。大方、キミが拠点にしていたノルムの村のどこかでしょう。団員が村の調査を行っております、いずれ……」
「言っておくぞ、クラヴィス。俺の……イヴァレックスの変身アイテムは、あの村にはない。もし村の住人に危害を加えてみろ……絶対に許さないぞ」
怒りを込めたユウの視線を、今度はクラヴィスが鼻で笑ってみせる。
「ほほう。許さないと、どうなるのですか?」
「……俺のことも、俺の秘密のことも、絶対にお前達には喋らなくなる」
「……」
その言葉に、クラヴィスの眉がぴくりと動く。
そしてその反応にユウは予想通りとばかりに、口をつり上げて笑った。
「やっぱりな。知りたいんだろ? 俺のフレーム……シルバーフレームのことを。ゲームの運営に携わっているお前達ですら知らない変身機構だ。どこで、どうやって手に入れてどうして変身しているのか、俺に聞き出したくてたまらないはずだ」
「…………」
「もう一度言うぞ。ノルムの村の住人に危害を加えるなら、俺はフレームのことを絶対にお前達に喋らない。いいな」
「…………。善処しましょう」
クラヴィスは余裕を作った笑みをわざとらしく見せつけて、部屋を出て行った。
その後ろ姿をユウは見送り、奥のベッドに腰掛けて腕組みをする。
「……いるんだろ、ラゼ」
そう声をかけると、自分の背中が僅かに温かくなる。
とっ、とっ、と足の感触が背中から肩に乗ったかと思うと、慣れ親しんだ声が自分の耳に届いた。
「メンドクセーことになったな、ユウ」
その声に茶化すような雰囲気はなかった。ラゼットはユウと同じく、部屋の入り口を見つめながらそう言う。
「……ラゼット」
「今オレの存在がどーとかイヴァレックスがどーとか聞いても何も答えねーぞ。……悪いけど、言えねーんだ。だから、オレはこれからのことしか喋らねぇ」
「……じゃあ、一つだけ聞かせてくれ。……ラゼ。お前は……他のプレイヤーやNPCから隠れているだろ。……意図的に」
「……ああ。じゃあ、それだけ答えておくよ。その通りだが……ちょっと違うぜ」
「え?」
ユウが右肩に乗るラゼの方を向くと、その生き物は得意げな顔をしてユウを見下していた。
「みえねーんだよ、お前以外。オレ様の姿……存在はな」
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「…………」
ヴァレクト・システム本部。
尋問室から地下牢へと進んでいったクラヴィスとユウを後ろから見て、その姿が見えなくなるとヨアは一階へ続く階段へと進んでいった。
「……やはり、このギルドは……」
以前からの疑念が、確信へと変わる。
新規プレイヤーであるユウへの待遇。
自分には知らされてなかった、スタンチャージャーという人道的に許されないであろうゲームアイテム。
そして……クラヴィス・ヴァレクト団長の、自分への対応。
治安維持、というあまりにも大きな剣と盾を持ってニューレアルで活動をしているこのギルドへの懸念は、常にあった。
権力を持つものは、その権力を自分の力と誤認し、それを大衆に振りかざしはじめる。
自分に、それが全くなかったとも言えない。
だからこそ、自分が傲慢にならないか。そして、プレイヤーやNPCに対して自分が【人】として接しているのかを常に自問自答してきたつもりだった。
だからこそヨアには、今、このギルドとその長の姿が耐えられなかった。
「ヨア先輩♪ひさしぶりっ」
疑問を頭の中に次々と浮かばせている中に聞こえた、ひどく明るい声にヨアはハッ、と我に返る。
階段を上り、一階へと進んでいた最中。
その声の主は壁にもたれかかり、にこにこと笑顔でヨアを見つめている。
ヨアより小さな背丈に、若い……いや、幼いと言ったほうが適格な顔つき。
少しクセのある茶色の髪をくるくると右手の指で弄びながら、ダークブラウンの目は楽しげにヨアに向けられていた。
一見すれば女子にも間違えそうな見た目だが、ヨアはその人物が男子である事を知っている。
そして、その名前を口にした。
「リリィ」
リリィと呼ばれた童顔の男子は、小さく頷くと壁にもたれかけていた背を離しヨアの方へとステップを踏むように歩んでくる。
「怖い顔してるじゃん。考え事かな?」
「……遠方の街へ警邏任務に就いていたと聞いていたけれど、戻ってきたの?」
「うん。あらかた仕事も片付いたしねー。丁度今戻ってきたところだよ。ね、団長どこ? 早く報告して褒めてほしいなー」
無邪気にそう言うリリィの様子は、少年そのものである。
だが、その【仕事】の内容をヨアは知っている。だから、問うてみる事にした。
「……何人、プレイヤーを倒してきたんだ?」
「ん?10人くらいかなー。みんな雑魚でさ、フレーム使いの僕にしてみればチョロすぎて退屈だったなー」
……そう。
強制ログアウトとはいえ、このリリィという男子は、躊躇なくプレイヤーを、人を……殺める。
ニューレアル……ゲームであるこの世界で、そのリミッターが外れているプレイヤーだという事を、ヨアは知っていた。
そして。
「ね、ね、クラヴィス様、見かけなかった?早く会いたいなー!いっぱい褒めてもらうんだっ」
狂信的なほど、クラヴィス・ヴァレクトを慕っている事も。
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