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悠久創世譚 エデンコード  作者: ろうでい
第二話 フレーム使い
22/50

2-9


――


 暗闇。


 夢のない、ただ真っ暗な空間。


 意識があるのか、それとも無限の虚無に意識が漂っているだけなのか、分からない。


 

『おい、ユウ。起きろ』


 その声で、ぼんやりと思考が芽生えはじめる。


 ここは……どこだ?ユウは、聞き覚えのある声の主を探した。


『こんな所でくたばんなよ。お前にはまだ、やることがあるんだ』


 やる事……?

 だってこのゲームは何をするのも自由で、そもそも俺はこの世界で一体何をするべきなのか――。


『いいや。お前には、やることがあるんだ。だから、こんな所でくたばるんじゃねぇ』


 なんで……。


 なんで、そんな事を、知っているんだ?

 

 はっきりとしてきた思考から産まれた疑問は、どんどんと膨れ上がる。


『一ノ瀬悠。お前は…… この世界。ニューレアルを、まだまだ生きていかなくちゃいけないんだ』



「……なんでだよ」


 口から声が出る事を知ったユウは、次の言葉は大声で。

 その疑問を相手に思い切りぶつけるつもりで、叫んだ。



「なんでそんなことを知っているんだ!!! お前は、何なんだ!!! ラゼットッッ!!!」




――



「……う?」


 首筋に冷たいものが触れる感覚に、意識が戻された。


 どうやら覚醒してきた意識は、現実世界へ自分を連れて行くつもりらしい。


 ただしそれは……本当の現実世界なのか。それとも、新たな現実……ニューレアルの世界なのか。


 五感を共有した二つの世界がある中では、それはユウには分からなかった。


 首から垂れている冷たい水はそのまま首筋を伝い、膝に水滴を落とす。


 そこでユウは、眠りから冷めたようにぼんやりと顔と目線を上に上げた。

 ぼやけた視界に……眼鏡をかけた男性が、にっこりと自分に微笑みかけている。


「お目覚めですか。プレイヤーネーム、ユウ、さん……。それとも、シルバーフレーム、イヴァレックスさんとお呼びしましょうか?」


 美しい男性だった。

 長く赤茶色の髪をポニーテールのように結っているので、一瞬女性かとも思ったが高い身長や体格、それに声色で彼が男性だということをすぐに理解する。

 眼鏡の奥に映る切れ長の赤い瞳が、笑みを浮かべながらもじっくりとこちらに向けられていて、その寒気で一気にユウの視界が開けた。


「こ……ここは……!? ここ、現実……!?」


「……ああ。初めての経験ですよね。【仮想現実世界で気絶をする】なんて。……不思議でしょう? ここは、ゲームの世界……。ニューレアルの中ですよ。ユウさん」


 キョロキョロと辺りを見回すユウに、机越しに椅子に座った彼は優しく語りかける。


 そして、自分の置かれている状況に初めて気付いた。


 椅子に、座っている。

 背もたれの部分と自分の胸部とロープでがんじがらめに縛られており、身動きがとれない。


 首筋に感じた冷たい感覚は、水。

 空のコップを目の前の眼鏡の男性が持っているのから察するに……どうやら、机に突っ伏して気絶をしていた自分の首に、この男が水を、かけたらしい。


「ど、どうして……。どういうこと……!?」


「乱暴な真似をして申し訳ない。なかなか目を覚まさないもので。【スタンチャージャー】はまだ試作段階で、かなりの長時間気を失わせてしまいました。で、目を覚ましていただこうかと」


 その言葉を聞いて、自分が気絶をする前の状況を思い出す。

 

 ヨア……。

 あのヴァレクト・システムのギルド団員と、イヴァレックスに変身をして戦った。

 激しい戦闘で、相手に攻撃をかわされてばかりだったが、どうにか食らいつきはじめて……。


 そこで、激しい痛みが背中からきたかと思うと、次には――。


「……気絶、させられたのか。俺……」


「ええ。ただ、そうでもしないとここに連れてこられないと思いまして。貴方のフレームは、予想以上に強力でしたから」


 ユウは、辺りを見回す。


 コンクリートのような灰色の壁が四方を囲む、無機質な部屋。

 窓もなく、外の光も届かない。一つしかない小さな照明が薄暗く部屋を照らし、陰鬱な空気が漂っている。

 机を挟んで、椅子に縛られた自分と、椅子に悠々と座る眼鏡の男。


「……お前、は……?」


「……。初心者の君に、こんな失礼な事をしてすいません。ですが……【我々】としても、君のような存在を放っておくわけにはいかないので」


「我々……?」


 男性は、くい、と人差し指で眼鏡をあげる。

 丁度照明の光がそのレンズに反射し、その中の瞳を見えなくする。


 男は、笑みを。


 そして、威圧するようなはっきりとした口調で。


 それでいてどこか優しくて、そしてその優しさに恐ろしさを感じるような声色で、告げた。



「治安維持ギルド、ヴァレクト・システム。ここは、その本部なのですよ。 ……私はそのギルドの団長をしております【クラヴィス・ヴァレクト】と申します。……よろしくお願いしますね、ユウさん」



――




《次回予告》


 ヨア・ゲーアハルトとの戦闘の末、彼の所属ギルドであるヴァレクト・システムの本部に連行された一ノ瀬悠。


 ユウの目の前に現れたのはそのギルドマスターのクラヴィス・ヴァレクト。

 更に、二人の新たなフレーム使い。


 彼らは、ユウに何を望むのか。ヨアは、何を思うのか。そしてユウは、どう行動するのか。

 様々な思惑が、巨大なギルド本部の中で交錯する。



 次回 悠久創世譚エデンコード 第三話【正義の旗の下に】



 ――世界がまた、創造されていく。


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