2-8
――
「はぁ、はぁ……!」
「い、いたぞ! ヨア隊長だ!!」
「な……なんだ、ありゃあ……」
ノルムの村から離れた二体のフレームを追い、ようやく追いついたヴァレクト・システムの団員達。
そこで見た光景は、驚くべきものであった。
「はぁァァッ!!!」
「ッッ!!!」
剣を振り、突進し、旋回し、相手の動きに我武者羅に追いつくシルバーフレーム・イヴァレックス。
その動き全てに対応し、身体を最小限の動きに抑えて回避行動をとり続けるホワイトフレーム・ファントム・アイ。
二体の動きは、超高速で、かつ緻密。
僅かな身体の動きのブレも、迷いも、戸惑いも見せない二人が見せる閃光のような戦闘は、見る者をただただ圧巻させた。
斬り、放ち、蹴り、駆ける。
避け、撃ち、払い、離れる。
フレームシステムが可能にする常人ではあり得ない正確な動きを、次々ととり続ける二人の戦闘は、まさにこの世のものではなかった。
「よ、ヨア隊長……すげぇ。剣を持ったフレーム使いの攻撃を、全てかわしている……!!」
「あのシルバーフレームってヤツも……なんてバケモノだ……!! 初心者のクセについてきていやがる……!!」
剣や弓、銃を持ったヴァレクト・システムの団員達も、これでは助太刀に介入する余地はない。
ヨアの邪魔になる、という懸念もあるのだろうが、それ以上にこの二人の戦闘に巻き込まれれば、間違いなく致命的なダメージを受ける事が分かっているからだ。
団員達は、ただただ傍観する事しかできなかった。
――だが。
「……あ……。だ、団長から持ってきた、アレを使えば……!!」
「え? でもアレって、試作段階なんだろ? 公式に許可が出ているわけでもないし、第一、ヨア隊長はこの作戦にこれを持ち出していることだって……」
「構うもんか。クラヴィス団長からの直々の命令だ。……いざとなれば使用の責任は、全て団長がとる、ってさ……!!」
(……くそ! これじゃあフィニッシュブレイクを放つ隙もない……!!)
ユウは苛立っていた。
最も自信のある【攻撃スピード】が全て読まれ、対応され、回避されてしまうからだ。
バグル相手であれば全て当たっていた攻撃が、一転し、この戦闘では全て避けられてしまう。それは、屈辱にも似た感情であった。
一進一退の攻防を続ける中で、ヨアから、ユウに声がかけられる。
「あんたは速いよ。そして、強い。でも、それだけだ。鍛錬に、経験。それに技術が足りていない」
「ぐ……!! う、うるさい……ッ!!」
「ボクのフレーム……ファントム・アイってさ。あんまり戦闘向きのフレームじゃないんだよ。実際、あんたに致命的なダメージを与える機会が生み出せない。……でも、長所もあってね。このフレームは、【視力】に優れているんだ」
「……!!」
そう言われ、ユウは気付いた。
ファントム・アイの左眼。オレンジのレンズが視るその瞳が、絶えず自分の方を向いている事に。
あのスコープが、自分の動きを全て、見切っているのだと。
「あんたのそのスピードも、ボクのフレームの特性……【視力】で、見切ることができる。そして、その視力に見合うだけの体術をボクは備えている。……だから、ここまで戦えているんだ」
「く、くそっ……!!」
「まあ、正直危なかったよ。他のフレームシステムだったら、どうなっていたか分からない……。本当に危ないな、そのシルバーフレームってヤツの力……!!」
ユウが、剣を持っていない左手で大振りのパンチを繰り出す。
ヨアはそれを後ろに仰け反りながらかわすと、その勢いを利用した蹴りを相手の顎に向けて放った。
「がぁぁッ!?」
それをまともに受けてしまったユウは、蹴りの衝撃で地面に倒れ込んでしまう。
だが、それにヨアは追撃を行おうとはせずに後ろに跳躍をして相手との距離を稼いだ。
何故なら……倒れ込んでその次の瞬間には、ユウは受け身をとり地面を飛び跳ねるように体勢を戻していたからだ。
もし油断をして追撃をしていたら、思わぬ一撃を受けていたことだろう。
(……く、クソ……ッ! 痛ぇ……!! 意識が飛びそうだ……!! ……我武者羅に攻めていても駄目だ、何かヤツの隙を見つけないと……!!)
右手に持っていた剣を両手に持ち替えて、ユウは相手の出方をうかがっている。
一方のヨアも、余裕はどんどんと消え、肩で息をしながら相手との距離をとっていた。
(さっきから何発か攻撃は当たっているのに、スタミナが落ちていない……。こっちの方がバテてきそうだ。攻撃力やスピードに加えて、防御面のスペックもあちらが上……。結構全力で攻撃しているつもりなのに……倒れてくれない…! 本当に、なんなんだこのフレームは……!!)
未だかつてない強敵に遭遇しているのは、ユウだけではなくヨアも同じであった。
自分の攻撃が全て読まれ、避けられてしまう圧倒的な格闘技術を持つ強敵と対峙したイヴァレックス。
自分の攻撃が当たっているのにそれに怯まず、直撃したら致命傷にもなりかねない攻撃を繰り出してくる強敵と対峙したファントム・アイ。
お互いに、相手のそのスペックに畏怖しつつも、次の効果的な一手を考えていた。
「……仕方ない。……初心者相手にちょっと大人げない手段をとらせてもらうよ」
「……え?」
ヨアは、自身の左眼のスコープに、左手を添える。
キィィン、と小さく甲高い機械音がしたかと思えば、オレンジ色のレンズがゆっくりと回転をはじめる。
「な……なに……!?」
「ボクのファントム・アイは……単に動体視力が良いとか拳銃が使えるだけのフレームじゃないんだよ。……【特殊能力】ってヤツが、このフレームにはあるのさ」
「特殊、能力……!?」
「あんたのシルバーフレームの力は十分に分かった。悪いけど、決めさせ――」
ヨアがそう言おうとした次の瞬間。
バチィィィィッ!!!
「あがアアアアアアアッ!!!???」
イヴァレックスの装甲に電流のようなものが走ったかと思うと、大きな悲鳴のような叫びをあげる。身体をびくんと跳ねさせ―― そのまま地面に倒れてしまった。
「……え?」
うつ伏せに倒れたその背中には、数本のワイヤーのようなものが張り付いていた。
「や……やった!!」
「強制ログアウトしないぞ……! 成功だ……!!」
倒れたイヴァレックスの背後には、銃のようなものを両手で構えた数名のヴァレクト・システムの団員が歓喜の声をあげている。
「……! なにを、している……?」
怒りにも似た声を静かに団員に向けるファントム・アイに気付き、団員達は恐る恐る口から言葉をだした。
「あ、いえ、これは、その……」
「く、クラヴィス団長からの命令です。この新兵器……【スタンチャージャー】なら、相手を強制ログアウトでリスポーンさせずに気絶させられる、と……!」
ヨアの拳銃よりやや大きいその銃の銃口から放たれたワイヤーが電流を流し、それによりユウは気絶をした……という事らしい。
しかし、その団員達に。そして、ギルドに対してヨアの怒りはますます募る。
「そんなもの……ボクは聞いていないぞ!! まして今回の作戦で使われるなんてことは……!!」
「き……緊急時の対応ということで、作戦決定後に団長から直々に命令されたものです。試作段階の武器なので、あくまでテストということで……!!」
「試作段階……!? そんなものを、ボクに知らせずに団長が……!?」
わなわなと、怒りに拳を振るわせながらヨアは倒れたユウの身体を見つめる。そして心の中で、その怒りを自身の所属するギルドの団長にはっきりと向けたのだった。
ログアウトせず、その場に気絶をして倒れ込むイヴァレックス。
その姿を見つめながら。
(―― 一体、なにを考えている……!! クラヴィス・ヴァレクト……!!)
――




