2-7
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「!!」
ファントム・アイとイヴァレックスの距離は数m。
バーチャル世界とはいえ、拳銃から発射される弾丸の速度は現実世界とほぼ同じもの。そして、威力やそれに伴う痛みもある程度は脳に伝えられてしまう。
そこに、本来であれば恐怖や怯えという感情が発生する。
通常の人間の感覚なら、拳銃が使われた瞬間に何が起きたか判別すら出来ないであろう。
――だが。
「……ッ!?」
ヨアは、驚愕する。
ユウは身体をほんの僅か、右に捻ってその弾丸を回避する。明らかにそれは弾丸の動きを見切った動きであった。
更に。
相手の行動を見たユウは距離を縮めるために拳銃を構えた相手に向けて突進するように駆け出した。
「はあああッ!!」
「!」
二発。
自分に向けて再び発射された弾丸を避ける。ヨアに向けて突進をしているので更に距離は詰まり回避は難しい。
だが、変身したユウ―― イヴァレックスの動体視力と運動能力であれば、それが可能だった。
二発の弾丸を回避した時には、既にユウはファントム・アイの眼前へと迫り…… そして、振り下ろすような右ストレートを繰り出す。
「あぶなっ」
バックステップでそれを避けるヨア。
繰り出された右拳はそのまま地面に向けられ…… そして、粉塵をあげ、大地を抉り出す。
「威力あるなぁ……! 当たったらやばそう」
「やあああッ!!」
後ろに下がったファントム・アイに合わせて前に再び突進。相手に目掛けて今度は左の拳を突き出した。
「よっ」
ぱんっ、と乾いた音。
ユウに左の拳を払いのけるように、ヨアは左掌の軽い力で叩いた。
重心がぶれ、ユウはよろけるように前のめりになってしまう。慌てて体勢を立て直そうとした、その時――。
「ぐぅッ!?」
重い衝撃が、腹にぶつかる。
一瞬の隙を作り、ヨアの蹴り上げが腹にクリーンヒットしてしまう。
思わず膝をついてしまいそうになる身体。そこに、ヨアが拳銃を持った右手を振り下ろすが……。
「ッ!!」
「おっ、とぉ」
その場でユウはバク転をし、足を大きく旋回させた。
相手の顎を狙ったキックを兼ねたそれを、ヨアは首を上げて回避する。
そのまま後ろにバク転を繰り返して距離をとるユウ。それを追いかけず、ヨアもバックステップで同じように距離をとった。
「く、くそッ……! いって、ぇ……!!」
初めての経験だった。
バグル相手にダメージすら負った事のなかったイヴァレックスが、初めて攻撃を受けた。
この世界の、変身をした戦闘というものにこの5日間で慣れたつもりだった。だからこそ、自分の渾身の攻撃が一度も相手に当たらなかったことに、今ある痛み以上のショックを受けている。
「……。驚いた。あんた、ニューレアルに来て5日って言ってたよね。それでこんなに戦い慣れしてるの? そのフレームの力かな」
「……皮肉っぽいな。俺の攻撃なんて、一度もお前に当たってないだろ」
「ボクは慣れてるからね。対人の戦闘訓練も経験も、数え切れないほどニューレアルでしてきた。……そのボクが、驚いてるんだよ」
「……それは、どうも……」
「フレームの性能も桁違いだ。シルバーフレーム……聞いたこともない変身機構だけど、あんな馬鹿力に運動能力に動体視力……。初心者が扱っていい代物じゃないね。本当に、どこで手に入れたんだか」
ヨアは肩の装甲についた土煙を軽く払うと、再び拳銃を構え直す。
一方のユウは、まだショックを引きずっていた。
自分が変身をした姿で行った攻撃が、あんな風に避けられ、当たりもしなかったことに。
そのショックを見抜いたように、ヨアが言う。
「フレームの戦闘スペックは、正直そっちの方が上みたいだね。攻撃を受ければただじゃ済まない」
「……」
「でもね、さっきも言ったように、ボクには経験があるんだ。戦闘訓練に、格闘術……体術の訓練なんかを、現実世界さながらにね。技術を身につけている人間に、素人は勝てない」
「く……」
先ほどの、軽く払われるような拳の動き。
そして体勢を崩すのを分かっていたような蹴りに、そこからの自分の顎を狙った蹴りの回避……。
それが、ヨア・ゲーアハルトの技術を証明していた。
「とはいえ、そのシルバーフレームってヤツの力がとんでもないのも分かった……。それに、あんた武器を使ってないでしょ?」
「……武器……」
「あるでしょ、多分。まだ全力じゃない……。それってきっと、人間相手に武器を使って戦うことに躊躇してるんじゃない?」
「……う」
「ボクは遠慮無く銃を使ったんだし、あんたも使って欲しいな。……大丈夫。一定以上のダメージや痛みはシステムで弾かれて、【強制ログアウト】って形になって相手を殺すようなことにはならないから」
「……」
「ゲームなんだ。思い切りやろうよ……【イヴァレックス】」
その名前で呼ばれたユウは、少しの間を置いた後、左手のブレスレットの尻尾型レバーに手をかけた。
真ん中に起こし、それを左に傾ける。
『ウェポン転送!ノヴァブレード!』
「……へえ。そうやって出現させるんだ。……あんたの武器……剣を」
光が具現化して現れた剣の柄を、右手で掴む。
右半身を前に出し、左肩に引くように剣を構え……いつでも切り払えるように、腰を落とすイヴァレックス。
その動きを見て、相手に向けて右手で持った拳銃を斜めに構えるファントム・アイ。
だらりと下げた左手の指をくい、と相手にアピールをするように動かす。拳銃だけではなく、こちらの手でも攻撃が出来るという、アピール。
先に動き出したのは……イヴァレックス。ユウであった。
「!!」
速い。
先ほどの様子見とは違う、本気の疾走。
ヨアとの距離を一瞬で詰め、左肩に引いていた剣を相手の右肩へと振るう。
「っ、と!!」
それを予見したようにファントム・アイ。ヨアは重心を一気に低くし、ユウの視界から一瞬で消える。
頭部スレスレで剣撃を回避したヨアは、そのままユウの軸足へ足払いをかける。
「ぐあッ!……っぐゥゥッ!!」
バランスを崩し、転倒しかけるユウ。だが――ただでは転ばない。
足を掬われた衝撃をそのまま回転する軸とし、身体を一回転させながら真下のヨアに蹴りを放ったのだ。
「なッ……!?」
これには、流石のヨアも驚く。
頭の上で腕を十字にクロスさせて蹴りをガードする。そして―― 右手に持った拳銃の照準は、ガードした瞬間にしっかりと相手の胴に向けていた。
「ッッッ!!」
それを瞬時に理解したユウは、慌てたように身体を横に捻り、その場から逃げ出す。
銃声が鳴る。あと少しでも逃げ出す反応が遅れていたら、直撃を喰らうところだった。このゲームにおけるダメージがどんなものかは理解していないが―― ただでは済まない事は、間違いない。
「おりゃァァッ!!」
そして、ユウは同時に反撃を試みる。
安定しない体勢を整えるように足を前に踏み出して、ヨアに向け、突進と剣による突きを同時に繰り出したのだ。
「そうくると思ったよ!」
ヨアは、上半身を僅かに仰け反らせてその突きを回避する。
突進をしてきたユウが通過するように目の前に来た瞬間…… ヨアは、拳銃のグリップ部分を持った右手で、相手の頭に強力な鉄槌打ちをお見舞いする。
「いッ……!!」
ガァァンッ!!
鉄と鉄が打ち合う大きく鈍い音。直撃する打撃。
目に火花が散る。頭に電流が走る。鈍い痛みと、意識の混濁。これがゲームの中だとは信じられないような、頭の痛み。
頭部装甲があるとはいえ、その衝撃は生身に直に伝わってきた。
だが―― 意識は失わない。
次いでくる、ヨアの左腕によるアッパーカットをユウは見切り、ユウはその腕を…… 左手で掴んだのだった。
「え……?!」
「だりゃああああッ!!」
そして、その左腕一本で…… 相手を投げ飛ばす!
重心の取れていない体勢と十分に振るえない左腕でも…… 数m先まで、ヨアは飛ばされてしまったのだった。
空中で一回転をし着地のバランスを整え、ヨアは足から地面に降りる事に成功した。
くるり、と身を翻し、ユウに向けて驚きの声を向ける。
「ば……馬鹿力すぎるでしょ……。あんな姿勢と左手一本で、ここまで投げ飛ばせる……!?」
「ぐ……。い、ってぇぇ……! こ、こんなにいてぇのに、その【強制ログアウト】っていうのにはならないのかよ……!! マジでいてぇぇ……!!」
頭を押さえて蹲るユウを、ただただヨアは距離をとって呆然と見つめていた。
そしてその驚きを、心の中でも叫ぶ。
(……これは、簡単につれていける、ってワケにもいかないみたいだね……!!)
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