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『 アイ・オブ・インサイト ! ホワイトフレーム…… ファントム・アイ !』
左手のブレスレットからアリシアの声がそう響くと同時に、ヨア・ゲーアハルトの身体がそこから生じた白い光に包まれる。
まるで、コートを羽織るようにその光はヨアを包み込み――。
やがて、その光は装甲へと変わった。
白を基調とした外殻。
磨き上げられた金属のような光沢を持ちながらも、どこか生物的な滑らかさを感じさせるそれは、隙間なく全身を覆い尽くす。
胸部や頭部には、所々にヨアの髪色でもある紫が差し込まれるように美しく煌めく。
肩から背にかけては、羽を思わせる装甲が幾重にも重なり、動くたびに微かに角度を変え、光を鋭く反射する。
そして、顔。
無機質なマスクに覆われたその表情は、一切の感情を排していた。
だが――左眼だけが、違っていた。
オレンジ色のレンズの奥で幾重もの光が回転し、焦点を定めるたびに微細な粒子が収束していく。
まるで、ライフルのスコープのように、その左の瞳がユウを見据えていたのだった。
「……ッ……!」
「あんたにとっては、他のフレームを見るのは初めてかな? でも実際には、このニューレアルでは【こっち】……ボクのような、ホワイトフレームの方が普通なんだよね。あんたのそのシルバーフレームとかいう変身機構の方が異端なんだよ」
【イヴァレックス】と同じく。ブレスレットのアナウンスから【ファントム・アイ】と名を告げられたヨアは、マスク越しに通った声をこちらに向けている。
自分と、同じ存在。バーチャル世界で、人間の姿から異形の者へと変身をした姿。
自分だけではない。その存在と初めて対峙をした緊張が、ユウの身体を硬直させていた。
ファントム・アイと呼ばれたその異形は腰につけたホルスターから拳銃を抜く。
他の団員の黒コートにも刻まれた、おそらく【ヴァレクト・システム】のギルド紋章であろう印の刻まれた、ハンドガンだ。
「もう一度言うよ。ボク達のギルド……ヴァレクト・システムの本部まで、同行してほしい。抵抗する場合は……フレーム同士の戦闘、ってことになると思うけれど……あんたにとってもボクにとっても、ここでそれは、好ましくないよね」
銃口をこちらに向けるファントム・アイ。
ノルムの村人達はこの場から離れてはいるが、遠巻きに何事かと見守っているような状況だ。
単なる野次馬もいれば、ユウがどうなるか身を案じて見守っている者も多いだろう。
そして何より……家の窓からは、心配そうにこちらを見る、リラがいる。
ここでの戦闘を避ける理由は、ユウには数多く存在するが、ヨアにとってもそうらしい。
「……聞きたい。お前達、ヴァレクト・システムの目的は……俺だけか?」
ユウのその言葉に、ヨアはゆっくりと頷く。
「うん。あんたを発見し、本部に連れていくのが任務だよ。この村そのものに何かをする理由は何もない」
「つまりはあんたは、俺のこのフレームにしか興味がない、ってことだな」
「そういうことだね」
「……その言葉、信じさせてもらうぜ」
イヴァレックスはそう呟くと……。
ヨア達ヴァレクト・システムの団員に背を向け、思い切り前方に向けて跳躍をした。
「!!」
「なッ……!?」
団員達が驚きの声をあげるのも無理はない。
一度のジャンプで、10メートルほどの距離を跳び、地面に着地をすれば再度足を曲げ、バネのついたようなジャンプを再び行う。
その姿は、あっという間にノルムの村の外の山間部の方へと消えていったのだ。
「よ、ヨア隊長!!」
「ついてこい、ってことらしいね。……あ、君達はゆっくりでいいから。先に行ってるね」
ヨアはそう言うと、ユウが跳躍をしていった方向に向けて同じようにジャンプをした。
そして、同じような超人的な跳躍力を持ってどんどんと村の外へとイヴァレックスを追いかけていく。
「…………」
「ふ、フレーム使いって……やべえな……」
呆気にとられている団員達だったが、我に返ったものから慌てて、二人のフレーム使いの後を走って追いかけていくのだった。
――
ノルムの村から離れ、およそ1km。
山間にある村を見下ろす山の斜面。木々はなく、見通しのいいその山肌にイヴァレックスは立ち、やがてくる【同じ存在】を待ち構える。
間もなく、ファントム・アイが、まるで空から降り立つように跳躍を終えてユウから数m離れて地面に立った。
「ふう。……てっきり森の方へ行って奇襲でも仕掛けてくると思ったけれど、そういうことはしないんだね」
「…………」
フルフェイスの仮面から見る赤の瞳と、青とオレンジの瞳はお互いに逸らす事をしない。
そしてその奥の表情がどんなものなのかはお互いに分からない。
「それじゃあ、改めて……。ボクは治安維持ギルド、ヴァレクト・システム所属のヨア・ゲーアハルト。フレーム名は……ファントム・アイ。ホワイトフレームっていう、このゲームで唯一、正式に認められている変身機構だよ」
「……」
「自己紹介くらいしてよ。話し合いの前から敵対、なんて望んでないでしょ?」
「……。えーと……俺は、ユウ。所属は、特にない。……これは、シルバーフレームっていう変身みたいで、名前はイヴァレックス。なんで変身できるのかとか細かいことはよく分からないんだけど……あとは……」
「……ぷっ」
急にしどろもどろになるユウに対して、ヨアは仮面の奥から笑みを含んだ声をあげた。
「あははは! 思ったよりあんた、面白いね。ログインしてどのくらい?」
「えーと、5日……かな」
「5日間、その自分でもよく分からない変身システムで戦ってきたの? モンスター退治を、ノルムの村のNPCのために?」
「わ、悪いかよ。俺だってこのゲームでなにをすればいいかよく分からないし……。ノルムの人達はバグルに困ってるみたいだったから……」
「……。……ふふふ」
「……なんだよ。おかしいかよ」
不機嫌そうなユウの声に、ヨアは小さく首を横に振る。
「いいや。……あんたが、ボクが思っているよりずっとまともで。……そして、ボクの方がよっぽど……」
「……?」
次の言葉を出そうとしたヨアは、慌ててもう一度、首を強く横に振ってそれを打ち消した。
「やめとこう。……ま、とにかくさ。ボク達の本部に来てほしいんだ。そのフレームのことを、ボク達の団長が聞きたがっていてね」
「団長……。ヴァレクト・システムのリーダーが、俺に……?」
「……とはいえ。素直に来てくれるとは思ってないし……。それに、実はもう一つ、本部から頼まれごとをしているんだよね」
「頼まれごと?」
ヨアはふう、と溜息をつき……、そして、腰のホルスターにしまっていた拳銃をもう一度素早く抜いてユウの方へと構える。
それを見て、ユウも咄嗟に身構え、お互いに戦闘の姿勢をとった。
「あんたの。シルバーフレームの戦闘能力を、実戦でテストしてこい、ってさ!!」
ファントム・アイは右手に持った銃の引き金を人差し指で引いた――。
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