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「……ッ!?」
一瞬。
窓から離れる際に向けた外への視界に、それが見えた気がした。
他の団員と同じように、黒いコートの制服を羽織った青年。
美しい紫の髪に、褐色の肌。瞬間見ただけだと少年にも、女性的にも見えるような人物だったが……。
それが、こちらの家を指さしているように見え、ユウは慌てて窓枠の横の壁に身を隠す。
しかし、次にこちらにかけられた声に、ユウとリラは絶望する事となった。
「おーい、聞こえてるー? フレーム使いさん、その家にいるよね」
「な……!」
拡声器かなにかを使用しているであろう、青年の声。
それは決して威圧をしていたり、緊迫感を持ったものではなく、まるで友人に問いかけるような声色。
だが、それが逆に恐ろしさを感じさせた。
「ど、どうして……? 村人の誰かがこの場所を……?」
動揺しているのはリラも同じであった。
慌てて家の裏口に視線を向けるも、裏手にあるのは見通しのいい畑。
今出て行けばヴァレクト・システムの団員達にすぐにでも見つかってしまうであろう。
「わからない……! でも少なくとも、確信しているわけじゃないみたいだ。分かっているなら、黙ってこの家に全員で突入してくるはずだし」
「そ……そうよね。じゃあ……」
「炙り出し、ってところかな……。こちらが動き出すのを待っているんだ」
乱暴に突入をしてこないだけマシなのだろうが、その後に何をされるかが分かっていないだけに迂闊にはこの家を出ていけない。
なにより……ここには自分だけではなく、リラがいるのだ。そう簡単に行動を取るわけにはいかなかった。
「自分から出てきてくれたら一番嬉しいんだけどな。まぁ、そういうワケにもいかないよね」
再び、外から青年の声。
続いて、複数人の足音。
こちらに近づいてくると思えば、散開して家の周囲のあちこちから聞こえてくるようになる。
「包囲された……!」
「ど……どうするの? ユウ……?」
「く……ッ!」
まずい。
このまま黙っていたら、次にどういう行動に出るのか分からない。
良くて強行突入。
悪ければ……家ごと団員により蜂の巣。
リラがいる以上、そのリスクだけは避けなければいけない。
ユウは決断を迫られていた。
「……」
この状況で自分が思いつく事は、一つしかなかった。
「ラゼ、いくよ!!」
ユウは左腕を前に突き出す。
光が現れ、そこにラゼの形をしたブレスレットが出現する。
その尻尾型レバーに右手をかけ、そしてユウは窓ガラスに向かって走り出しながら――。
「 装醒 !!」
レバーを引き下げ、窓に向けて跳躍する。
『 銀輝永煌!! シルバーフレーム……イヴァレックス!! 』
砕けた窓ガラスと共に、銀色に光る異形が地面に降り立った。
――
「なッ……!!」
「で、出たぞーーッ!! こいつだーーッ!!」
家の周囲に散開していたヴァレクト・システムの団員達が慌てて集まってくる。
その集団の中央には、窓ガラスから飛び出し地面に着地をしたユウーーイヴァレックスの姿がある。
団員は数にしておよそ10名。全員が『プレイヤー』と見て間違いないだろう。
それぞれに剣や銃、杖など思い思いの武器を手にしていて、それをユウ……イヴァレックスに向けて緊迫した面持ちで構える。
そして、その集団の中央。
ヨア・ゲーアハルトは、ただ仁王立ちをしてイヴァレックスを見据えていた。
「やっぱり、フレームの構造がボク達とは少し違っているね。シルバーフレーム……。信じてはいなかったけれど、どうやら事実みたいだ」
周りの団員に言い聞かせるように呟き、一歩前に出る。
そして今度は、目の前にいる一ノ瀬悠に向けて問いかけた。
「ねえ。ボク達のことは知っているかな?ヴァレクト・システムっていうギルドのメンバーで、あんたにちょっとボク達の本部に同行して欲しいんだけど」
それはまるで、不審者に職務質問をするような雰囲気。
高圧的ではないが、自分の立場に確固たる自信を持った言葉であり、そこに焦りや戸惑いは存在しなかった。
今まで、この姿に変身をした時は必ずバグルを討伐する時だったユウは、目の前の相手のその態度に少し困惑する。
「……どうしてだ。どうして、俺がアンタ達と一緒に行かなくちゃいけない?」
「ま、そうなるよね。本来、このニューレアルの世界はプレイヤー達にとって自由に過ごせる理想的なVR空間であり、そこに制約は存在しない。嫌がる気持ちも分かるよ」
「……だったら」
ユウが反論をしようとした所で、ヨアが右掌を前に突き出してそれを制する。
「でもさ。一応、ルールは存在するんだよ。……それを作り、守らせてるのがボク達の役目。あんたのその変身機構……このゲームの正規のものじゃない、違法フレームっぽいんだよね。どうやってそんなもの手に入れたの? まだあんた、このゲームにログインして日が浅いでしょ?」
「…………」
「言えないの? じゃあ、余計に詳しく事情を聞き出さなくちゃ。一応、運営からの委託ギルドでもあるからさ。ボク達としてもあんたを野放しにできないの」
「……さっき、アンタは言っただろ。このゲームに制約はない、って。だから断る」
「……。言ってくれるね。……まぁ、ボクもそう思うよ。制約はない……自由なゲーム。……それと、このギルドに対しても色々と、思うところはね」
「……?」
ヨアは少し物憂げに地面に視線を下げたかと思うと、再びイヴァレックスに向き直る。
そして、右掌を下げて……代わりに今度は、左の手首を自分の顔の横に持ってきた。
まるで、イヴァレックスにそれを誇示するように。
「……!?」
「シルバーフレーム、なんていう変身機構はこのニューレアルに存在していなかったんだよ。プレイヤーに【変身】が許可されているのは……」
ヨアの左手には、大きなブレスレットが装備されていた。
歯車のような物体から小さなケーブルが伸び、それが二つの白色のクリスタルのようなランプに接続されている。
ヨアはその歯車の中央を、右の人差し指で押す。それはどうやら、ボタンにもなっているようだった。
『 スタンバイ 』
そのブレスレットから音声が出る。
「え……?」
女性の声。それに聞き覚えがあった。
このゲームにログインして間もなくして聞いた声……。
ニューレアルのナビゲーション担当の女性AI……アリシアの声。
「エデンリンク・インダストリーズがニューレアルにおいて正式に認定している変身機構……【ホワイトフレーム】だけなんだからね」
ヨアはユウに向け、告げる。
そして歯車型の機構を摘まみ、手首を捻ってそれを勢いよく右方向に回転させた。
そして、叫ぶ。
「 白醒 !!」
ヨアの身体が、白色の光に包まれると同時に、アリシアの声が誇示するように響いた。
その瞬間、周囲の音が一瞬全て消え…… それだけが、聞こえる。
『 アイ・オブ・インサイト ! ホワイトフレーム…… ファントム・アイ !』
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