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「ゲーアハルト隊長。村人への聞き込みを進めておりますが、どの住人も【シルバーフレーム】については見たことも聞いたこともないそうです」
「……そう。あと、ヨア、でいいから」
数人の黒い制服の兵士達に囲まれていたのは、一人の青年であった。
見てくれによっては少年にも見えるが、その落ち着いた態度と鋭い眼差しは周囲の人間達とは一線を画しており、この黒服の集団のリーダーである事がノルムの村人達にもすぐ理解できた。
濃い紫のショートボブの髪型を、なにやら考え込んで少し弄くると、その眼を周辺にぐるりと向ける。
両眼は青色であるが、左眼はそれに橙色が差し込むようなオッドアイ。褐色の肌が美しく、男女問わずその容貌に惑わされるような美しさを秘めた青年。
しかしその佇まいは凜々しく、気軽には話しかけられないようなオーラも周囲の人間に放っている。
ヨア、と呼ばれた青年は数人の黒い制服の兵士達に告げた。
「まぁ、匿っている可能性が高いだろうね。悪いけどもう少し聞き込みを続けてみて。そのうち、ボロを出す村人もいるだろうからさ」
「は?いや、しかし……」
「分かるんだよ。ボクにはね」
そう言うヨアの左眼の橙色が、少し濃くなったような気がした。
「とにかく、続けて。有力な情報があったら共有。くれぐれも、村人の迷惑にならないよう、大事にしないでね」
「……いっそ、何人か拷問してみるっていうのはどうっスか? へへ、どうせこの村の住民はNPCなんだし……」
体格のいい筋肉質の兵士が言った言葉に、ヨアは鋭い眼を向ける。
そして、腰のホルスターにかけていた拳銃を一瞬で抜くと、それをその兵士の額につけてみせた。
「ひッ……!?」
「さっき言った事、聞こえていたよね。ボクが臨時の隊長だからって甘く見ないこと。次に変なこと言ったら、撃つよ」
「わ、わ……」
「強制ログアウトするとは言っても、ある程度の痛みは脳に伝わるんだからね。覚えておくように」
「わ、わかりましたァァァッ……!!」
筋肉質の兵士はギクシャクと後退していくと踵を返し、慌てて村の中へと逃げるように走って行った。
その様子を見て、ヨアは溜息をつき拳銃をホルスターにしまう。
(嫌がらせ人事、ってところかな。もしくはボクの行動を監視する目的か……。なんにしても、信頼をなくしたモンだね)
ヨアは空を見上げ、その瞳を閉じる。
(ボクが尊敬したこのギルドの姿って、こんなものなのか)
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「ヴァレクトシステムって……」
ごくりと唾を飲み込んで聞くユウに、リラが家の入り口や窓の外を警戒しながら応える。
「四大ギルドは知ってるでしょ? その中でも、治安維持に特化したギルドよ。モンスターなんかの討伐も任務のうちだけれど……秩序やルールを乱した人を捕まえることも仕事にしているの」
「ルール、って……?」
「民間人への無差別攻撃だとか、窃盗や強盗だとか……。攻撃性の強すぎる武器や危険なアイテムを持っている人への警告なんかもやっているって話よ」
「危険なアイテム……」
ドキリ、とする。
シルバーフレーム……。つまりは、イヴァレックスに変身する者を探しているというヴァレクト・システムのギルド隊員達。
ユウ自身でも理解していない部分の多い変身能力。そもそも、なんで身についたのかも知らない。
まさかそれが、このニューレアルでは【危険】と見なされているのだろうか?
そんなユウの不安を察したように、リラは少し微笑んでユウの顔を見た。
「大丈夫。この村の住人は、ユウを売るようなことしないわ」
「え……?」
「あの人達、村中の人に聞き込みをしてシルバーフレーム……イヴァレックスに変身する人を探している。でも、あんな大人数で……しかも治安維持ギルドのヴァレクト・システムが探している、なんて……良い理由で探しているワケじゃないのは誰でも分かるわ。だから皆、ユウのことは隠しているの」
「そ、そんな……! それじゃあ、皆が危険に……!」
慌てるユウに、リラは優しい表情で首を横に振る。
「さっきも言ったでしょ、治安維持ギルドだって。無実の村人に対して無差別に暴力を振るえるような立場じゃないわ。……ただ、シルバーフレーム絡みのこととなれば、分からない。だからユウには、今のうちに逃げて欲しいの」
「…………」
「どうにかタイミングを見計らって、この家の裏口から出るわ。この家の周辺から人が消えてきたら、声をかけるから……見つからないようなところにいて。いいわね?」
「……ごめん、ありがとう……!」
「謝ることじゃないって」
リラの。そして、ノルムの村の人々の優しさに少し涙ぐみながら、ユウは窓から身を離した。
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「……そう。ありがと、おばあちゃん。答えてくれて」
ヨアは、腰の曲がった老齢の女性にそう言うと、にっこりと微笑んで一礼をして道を開けた。
「へえ、すいませんねぇ……。この村にそんな変身なんてことをする人は……」
「うん、そうだよね。ごめん」
「なにぶん、ここは小さな村で……。旅人さんもここを訪れては新しい場所を求めてすぐに離れてしまいます。だから……」
「……助かったよ、おばあちゃん」
ゆっくりと歩いて離れていく老婆の背を見送りながら、ヨアは小さく溜息をついた。
(……優しい村だな。あんなおばあちゃんまで、必死にフレーム使いを隠そうとするなんて)
その表情は、どこか寂しげな笑みを浮かべていた。
「ヨア隊長! ダメです、どの住人も知らない分からないの一点張りで……」
「やはりこの村にはもういなくて、どこか遠くに逃げた可能性も……」
数名の隊員がヨアの周りに集まり、報告をした。
どの隊員も苛立ちや焦りの感情が顔や声に浮き出る中、ヨアは涼しい顔をして村の景色を見回す。
「……隊長?」
「……うん。もう、いいかな。聞き込み終わりにしていいよ」
「は? それは……」
戸惑う隊員に、ヨアは左のこめかみを左手の人差し指でトントン、と叩いて告げる。
「大体分かったから。……村の住人の視線や言動。移動している場所や無意識の行動を総合的に分析してみたんだ」
「……え……ッ!?」
周囲の隊員がざわつく。
そんな中、一人の隊員が羨望の眼差しでヨアに聞いた。
「た、隊長……!変身せずとも【ファントム・アイ】の能力が……!?」
「まあね。変身した方が強く出るんだけれど、聞き込みでそういうわけにもいかないし。でも時間をかければ……村人それぞれの視線や行動から、なにを隠しているかくらいは読み解けるんだよ」
「おおおお……!!」
尊敬の念をその背に受ける中、ヨア・ゲーアハルトは村の景観を再びぐるっと見回す。
そして、一つの木造の家を指さした。
「多分、あの家。この村の住人が隠したがっているのはね」
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