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【バグル】。
このニューレアルの世界では、プレイヤーのレベルに沿った魔物や魔獣が出現するようになっている。
今現在、ユウとラゼが滞在している「ノルムの村」や初めてログインをしたプレイヤーが訪れるルフィルド近郊には、初めてプレイヤーが遭遇するような弱いモンスターが配置されている。
それは例えば、スライム型の魔物や小型の獣、やや大きめの虫型の魔物などであり、リアル世界とこのメタバース空間での能力にそこまでの差がない初心者プレイヤーでも討伐ができるような強さに設定されていた。
そう。ニューレアルに初ログインをしたプレイヤーは、現実世界にほぼ準じた身体能力を有している。
いくらVR世界だからといって、急に空中を飛行したり高速で駆け回ったり、あるいは魔法のような能力が使えるわけではない。
ニューレアルの中で経験を積み、魔法に関する知識を備え、武器の扱いに慣れ、修練を重ねる事で現実世界では会得できないような能力や技を会得する事ができる。
それは、プレイして数十日、あるいは数ヶ月が経って出来ることであり、右も左も分からないプレイヤーがいきなり強いモンスターに遭遇するなど、『普通であれば』あり得ない話であった。
それが、バグルという存在である。
VR世界での戦闘に慣れ、あるいは【フレーム使い】という変身機能を有したプレイヤーでしか討伐できないような凶悪なモンスター。
普段であればダンジョンの奥地や未開の地、厳重に封印を施されているなど、プレイヤー側から遭遇を求めるような場面でしか出現しないモンスターが、最近ルフィルドやノルム近郊に出現をするようになっていた。
普通はあり得ないような場所に出現する強力なモンスター。それを【バグル】と呼称するようになったのは最近の事である。
初心者が多く集い、ニューレアルに慣れてきた者は新たな土地に旅立ってしまうこの辺りの土地で、そんなものが出現し仮に住民区で暴れられたりしたらひとたまりもない。
プレイヤーは仮に死に直面するようなダメージを負ったとしてもゲームから強制ログアウトするというもので済む。
だが、NPCの場合そうはいかない。
ニューレアルにのみ形を保っているキャラクター達は、命をもっているのも同じであり、一度死に直面すれば復活するような事は起きないのだ。
それが分かってから、ユウはルフィルドやノルム近郊に出現するバグルを討伐するため、この村に滞在をしているのだった。
「……。……よしっ」
ニューレアルにログインをすると、そこはノルムの村にある一軒家の一室だった。
現在、一ノ瀬悠が滞在をする空き家の一室で、ここの拠点としてユウはニューレアルでの生活をしている。
ベッドから身を起こすと自分の装備や荷物を確認し、靴を履きながら自らの相棒の名前を呼ぶ。
「おーい、ラゼーっ。出発するよー」
「……んあ。んだよ、今日はやけに早い時間だな……」
「へへへ。土日だからね。今回はたっぷりニューレアルで過ごせるってワケさ」
「お前、友達とかいねーの?」
「う」
タンスで身を包めて睡眠をとっていたラゼにじとーっとした視線を浴びつつ、その話題には触れないようにユウは視線を窓の外に向けた。
「さ、今日明日、たっぷりとパトロールができるし、気合い入れてバグル退治していこうぜ!」
「……ふあー」
ラゼは口を大きく開けて伸びをすると、面倒くさそうにユウの肩に飛び乗った。
「まずは森の方だね。そこから、ルフィルドの方まで足を伸ばしていって、草原地帯を捜索。問題がなければルフィルドで物資を揃えて、こっちに戻ってこよう!」
「んな気合い入れてどーすんだよ。たまたま一、二体バグルが出る時もあるが、基本的にはバグルなんて存在は異変みたいなもんなんだ。簡単に出てきやしねーぞ」
「何も出なければそれでいいんだよ。平和な証拠じゃん」
「……お前さ。ホントに何しにニューレアルに来てるんだよ……」
「役に立ちたいんだよ。……へへ、それにさ。折角イヴァレックスに変身しての戦い方に慣れてきたんだし、どんどん戦って強くなっていかないとね」
「バグル相手ならもう楽勝みたいなもんだろ。今更戦い方に慣れてきただのどーの言っても、そもそもイヴァレックスのスペックならどんな戦い方だってバグルを圧倒できるんだよ。……ただ」
「ただ?」
そこで言い淀んだ肩に乗るラゼの方を、ユウは向く。
ラゼは考え込むように窓の外を眺めながら、ぽつりと言った。
「同じフレーム使い相手に、どこまで戦えるか、だな」
「……え?だって、他のフレーム使いって……」
ユウが聞き返そうとしたところで、自室のドアが勢いよく開いた。
「ユウ!」
そこに現れたのは、ノルムの村の食堂看板娘、リラだった。
ノックもせず、慌てた様子でユウの部屋を訪れると、走ってきたらしい乱れた息を整えようと数回深呼吸をする。
「リラ? どうしたの?」
「……あ、あのね。その……どうすればいいか、アタシ分からなくて……」
「え?……な、なにが?」
リラはユウの部屋につかつかと入っていくと、窓に近づいていきユウを手招きする。
「ほら、あそこ……分かる? 数人、制服を着ている人達」
「……え? 制服?」
リラが指さした先は、ノルムの村の入り口。
黒く長いコートのような制服を着込んだ数人の人間が、なにやら村人達と話をしているのが見えた。
「あの人達? あれが、どうかしたの?」
「……それがね、探しているのよ」
「探している? ……な、何を……?」
「アンタをよ。入り口で、この村にいるはずのシルバーフレームに変身するヤツを出せ、って……」
「…………え?」
何故、どうして。
その疑問が、ユウの頭に浮かぶ。
心当たりを幾つか頭の中にリストアップしている間に、リラは次の言葉をユウに告げた。
「……あの人達。 【ヴァレクト・システム】のギルドメンバーよ」
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