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「う、うわあああああっ!!」
「ギィィィィ……!!」
街道。
周りを囲むように山々が一望できる壮観な風景も、そこに立ち塞がる魔物の姿が絶望的な景色へと変えてしまう。
背中に大きな荷物を背負った行商人の男の前に突如出現したのは、熊のような大型の魔獣であった。
現実世界の熊と違う部分といえば、常に二足歩行のように立ち上がって男の方へと大きく近づいており、前足の爪はより鋭く、そして……熊より一回りも二回りも、巨大であった。
「ひ、ひぃぃ……!! こ、こんなところに、モンスターなんて、そんなっ……!!」
「グゥゥゥゥ……!! ぎ、ギギギ……!!」
熊に近い顔を持つモンスターだったが、それはまるで人間のように笑みを浮かべていた。
食物にありつけた喜びか、あるいは……目の前の弱き者を虐げることへの愉悦か。
その場に座り込んだ行商人の男へ、モンスターが近づいて……そして、襲いかかろうとした、その時。
「 待てェェェッ!! 」
「ギ……??」
「え……??」
モンスターと行商人の男が声の主を探す。
大きく、しかしどことなく若く、幼さの残る声質とトーンの主は……。
街道を見下ろす、崖の上にあった。
「そこまでだ、【バグル】!! お前らの好きにはさせないぜ!!」
モンスターを【バグル】と呼称し、それをビシッと指さすその青年は…… 一ノ瀬悠、その人である。
白いシャツの上から濃紺のフード付きマントに、黒のスキニーパンツと革製のベルトを身につけている。革製の指出し手袋、そして黒のブーツを履いたその姿は、ファンタジー世界の冒険者そのものだった。
その肩に乗ったラゼットが呆れたように溜息をついて横目で悠を見る。
「お前さぁ……。いつの時代のヒーローもの観てたんだよ……」
「……子どもの頃から特撮好きで、生まれる前のヤツとかも結構観てたんだけど……やっぱ古いかなコレ」
「テンプレすぎてなぁ……」
「う。……と、とにかく、お前の好きにはさせーーーーんッ!!」
改めてビシッとモンスターを指さす悠。
なんとも決まらないその光景に、時間が止まったように崖の上を見上げるモンスターと行商人。
「ラゼ! 変身!」
「へいへいっ。……よっ、と!!」
肩に乗ったラゼットは、その場で小さくジャンプをする。
その身体が光に包まれたかと思うと、その光は悠の左手へと移動する。
光が収束し小さくなっていくと、それは形ある「ラゼットの姿形に似たブレスレット」へと変じていた。
悠は右手で、ブレスレットに畳まれた尻尾型のレバーを掴むと、それを引き下げて叫んだ。
「 装醒 !!」
その言葉とレバー操作に、ラゼットの声が応える。
『 銀輝永煌!! シルバーフレーム……イヴァレックス!! 』
そして、ブレスレットから放たれた光が悠の全身を包む。
白銀の装甲に、黒と赤のライン。フルフェイスの兜が悠の顔を全て包むと、瞳が紅に光る。
全身の変身が完了すると、悠は右手を前に出して高らかに叫んだ。
「いくぞおおおおおおッ!!」
変身を完了した一ノ瀬悠……【イヴァレックス】は、崖から思い切りジャンプをして飛び降りる。
生身の肉体であればまず無謀な行為。骨折、最悪の場合死すら見えるであろう高さからの飛び降りも、今の悠は何の恐怖も感じていなかった。
「でやあああッ!!」
むしろ、落下の勢いを活かして高所からの跳び蹴りを熊型の『バグル』に対して行うのであった。
バグルの眼前まで迫った落下。そしてその一瞬のタイミングで、悠は身体を大きく捻った右蹴りをバグルに放つ。
「グギィィッ!?」
脳天に一撃を喰らい、よろめくバグル。
蹴りの反動を利用して空中で身体を一回転させ、地面に着地をする悠。まるでサーカスの技のような身のこなしを見せた悠は、得意げに立ち上がった。
「さ、おにーさん、早く逃げて! ここは俺に任せといてさ!」
「あ、あ……。ふ、フレーム使い……!?でも、なんで……!?」
「いいからっ。ちょっとこっから危ない事するから下がってて!」
悠は、ラゼ型ブレスレットのレバーを慣れた様子で真ん中に起こし、左に倒す。
『ウェポン転送!ノヴァブレード!』
右腕を前に出して掌を広げた悠の手に光が宿ったかと思うと、それは片手剣に変貌する。
柄をしっかりと握り締めると、悠は地面を蹴って勢いよくバグルへと突進していった。
「はあああッ!!」
「グオオオッ!!」
巨体のバグルから繰り出された、リーチのある右脚のストレートパンチ。
悠は身体を捻ってギリギリのところでそれを避けると、その右脚に剣撃を入れる。
「ギアッ!?」
痛みに上体を仰け反るバグル。
そのがら空きの腹に、悠は強烈な前蹴りをお見舞いする。
「グギヤアアッ!!」
生身ではダメージすら与えられないであろう巨体の魔物だが、イヴァレックスに変身をした悠の蹴りはその巨体を易々と数m吹き飛ばす。
「よッ、と!」
吹き飛ばした魔物に、更なる追撃を与えるべく悠は剣を後ろに引いたまま跳躍。
ジャンプの勢いを活かしつつ、強烈な斬撃を魔獣の右肩に浴びせようとする。
「ギッ!!」
命の危機に瀕した魔獣は、かろうじてそれを横へのステップで回避。
だが、それは悠の予想通りの動きであった。
「お見通しだ!!」
地面に落ちるところだったノヴァブレードをピタリと止め、その状態のまま魔獣のステップに合わせて前に駆け出す。
切り上げる斬撃は、魔獣の右眼に重なり…… そして、悲鳴にも近い咆哮が響いた。
「ギアアアアアアアアアッッッ!!!」
右眼を失った魔獣は痛みに身体を仰け反らせたかと思うと、戦意を喪失したかのようにその場に倒れ込んだ。
その隙に体勢を立て直し、仁王立ちになった悠は再び左腕のレバーに右手をかける。
そしてレバーを左に倒し、剣を構えた。
『フィニッシュブレイクッ!!』
ラゼの声と共に、刃に紅の光が宿る。
上段に振りかざした剣先は、倒れ込んだ魔獣の方へと向き、そして――。
「でやあああああーーーーッ!!!」
紅い光は、悠の斬り下ろしと同時に魔獣に向けて放たれる。
巨体を通り過ぎて両断するその光。そして、その身体は灰色になっていき……。
派手な爆発音と共に、魔獣は消滅をした。
「ふう……」
光に包まれ、イヴァレックスの装甲が消え元の身体に戻る一ノ瀬悠。
その肩に、ラゼが乗っかってきた。
「今日ニ体目でそろそろバテてきたんじゃないか?」
「ははは、まあね……。流石にちょっと横になりたいかも……」
額の汗を拭って猫背で肩を落とす少年。
「張り切りすぎなんだよ。もっとパワー落として戦うコトを覚えろ。あんな魔獣、もっと省エネでもいけるんだからさ」
その少年をやや呆れ顔で見る小さな生き物。
「肝に銘じておきます……」
そんな様子を、ただただ少年に助けられた行商人は唖然と眺めることしかできなかったのだった。
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