不明な旅
イフェイオンは涙が出なくなるまで泣き続けた。
全身が干からびたように感じる。
自分がどれだけ泣いていたのかもわからない。
ただ、エニシダを誰にも奪われたくなくて大切に抱えた。
誰かが何かを言っているような気もしたが、イフェイオンの耳には届かなかった。
今のイフェイオンにはエニシダの最後の望みを叶えることしか頭にはなかった。
ユリウスは困惑した。
イフェイオンと出会ってからずっと頼りになる姿しか見てこなかった。
戦場で何度命を救われたかわからない。
この人のためなら死んでもいいと思えるくらい忠誠を誓っている。
きっと、それは部隊の皆も同じ気持ちだ。
どんなときでもイフェイオンを支え、守る。
今のユリウスの役目はそれだったが、今はどうすればいいのかわからなかった。
イフェイオンの顔はこの世界に絶望して、今すぐにでも死んでしまいそうなほど危ない。
英雄とは程遠い姿だ。
もし、今魔族や魔物が攻めてきたら戦うことができず、あっけなく殺されてしまいそうなほど弱々しい。
秘密の花園を出て、山を降りて街に入ると、周囲の人たちは死体を持った自分たちを恐れた。
その上、今のイフェイオンの顔は長年仕えているユリウスでさえ、後ずさってしまうほど恐ろしい。
そんな男を街の人たちが恐れるのは当然だった。
イフェイオンがどこに向かって歩いているのかユリウスにはわからず、とりあえず移動するためにも遺体を棺に入れるべきだと提案したが、聞こえていないのか反応しない。
とりあえず話だけでも聞いてもらおうと腕を伸ばすと、さっきを飛ばされ意識が飛びそうになった。
イフェイオンの表情からエニシダを奪われると思ったみたいだった。
ユリウスはエニシダを棺に入れるのは諦めて、男だけを棺に入れて担いで後を追った。
目的地が不明な旅を初めて一週間が過ぎた頃、突然台風がきた。
風は強く、大雨だ。
こんな中歩けば普通なら風邪を引くのは間違いないが、戦場で生きてきたイフェイオンたちにとってはたいしたことではなかった。
だが、エニシダが一緒にいるので無理に孤児院まで行くわけにもいかず、偶然見つけた洞窟で台風が過ぎ去るのを待った。
雨が降り始めてすぐに洞窟を見つけて非難したおかげで服は少ししか濡れなかった。
イフェイオンがエニシダの服が濡れていないか確認している間、ユリウスは手際よく火をつけていた。
外を見る限り、当分の間は洞窟で過ごすことになりそうだった。
ユリウスはその間になんでもいいから口に入れたかった。
荷物を確認した。
非常食があった。
戦場でもないのに非常食は食べたくはなかったが贅沢は言ってられなかった。
目的地不明の旅を始めてから、ユリウスもイフェイオンも一切何も口に入れてはいない。
いくら慣れているからといって、お腹が空かないわけではない。
それに台風が過ぎれば、また目的地のわからない旅が始まる。
今のうちになんでもいいからお腹に入れておかないと、いざという時困ることになると考え、ユリウスは非常食を食べ始める。
イフェイオンの前にも置くが、見向きもされなかった。
日に日に、やつれていくイフェイオンをユリウスは直視することができなくなっていた。
水すら口にしないため、ユリウスはイフェイオンが死ぬつもりなのでは、と、不安になったが何も言うことができなかった。
ただ、ユリウスにできることは最後までイフェイオンについていき、見届けることだけだった。
ユリウスはイフェイオンに話しかけた。
何故かわからないが、今なら質問に答えてくれる気がした。
「イフェイオン様」
名前を呼んでも反応はない。
「エニシダ様をどこに連れて行かれるおつもりですか?」
「彼女が望んだ場所に連れていきたい」
「それはどこですか?」
「彼女と初めて会った場所」
ユリウスはこれ以上は聞いても答えてくれないと空気感で悟り、質問はもうしなかった。
その必要も無くなった。
旅の最終目的地がわかったからだ。
詳しい場所まではわからないが、国に帰ると大まかなことがわかっただけでも、不安は拭いされた。
一か月が過ぎた頃、ユリウスたちはエトワール国からロレス国へと勝手に入国した。
山を歩いていたので知らず知らずのうちに入国してしまったようだ。
そのことを知ったのは山を降りてすぐの所に、街があったからだ。
それと、その街で信じられない噂を聞いた。




