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私達、婚約破棄しましょう  作者: 若狭巴


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過去 7


馬に跨っている男がそう尋ねると、男たちはまずい、という顔をして慌て出した。


逃げ出そうにも馬に乗った貴族が五人もいたら逃げられるはずがない。


イフェイオンは助かったとホッとすると、急に蹴られたところが痛み出した。


自分を心配そうな目で見ているエニシダと目があった。


泣くな、そう言って涙を拭いてあげたいのに腕を動かすことができなかった。


エニシダに視線を奪われている間に男たちは貴族に拘束されていた。


あまりにもあっけなく終わった。


ボコボコにされた男たちを見て、イフェイオンは自分にも彼らのような力があったのなら、と思ってしまった。


その力があれば、エニシダが傷つくこともなくこともなかったはずだと思わずにはいられなかった。


「大丈夫か?」


一人の貴族が馬から降りて心配そうに尋ねてきた。


何も言えずにいるイフェイオンの代わりにエニシダが「助けてくださり、ありがとうございます。騎士の皆様」と頭を下げてお礼を言った。


「君は?」


何も言わないし、頭も下げないイフェイオンに対し、騎士は少し問い詰めるような言い方をした。


そんな貴族にイフェイオンは見てわからないのか、その目は節穴なのか、と文句を言いたくなった。


痛みで体と口を動かすことは難しかった。


それだけなのに、痛みに慣れたらちゃんとお礼を言おうと考えていたのに、こんな態度を取られたらお礼を言わなくてもいいのではと思えてくる。


「だ、だいじょぶ、だ。助けに、かんしゃ、する」


イフェイオンは痛みに耐えながらお礼を言ったが、気に食わなかったのか男の頬をが引き攣っていた。


「……君たちの家はどこだ?そこまで送り届けるよ」


貴族は何か言いかけたが一度口を年でからそう言った。


イフェイオンの家はここにない。


なんて答えるべきか悩んでいると、エニシダが「孤児院に行くところだったんです。よろしければ孤児院まで送ってください」と最後まで言い終わる前に男は冷たい表情に変わり、何も言わずにその場から去って言った。


自分たちを孤児院と勘違いしたのだろうとイフェイオンは思った。


だからといって、こんな態度はないだろうと思っていると、エニシダも同じことを思ったのか「酷いわ。同じ人間じゃない。何様のつもりよ」と初めて見るエニシダの怒り顔にイフェイオンは少しだけ驚いた。


エニシダも怒ったりするのだなと。


いつも笑顔を絶やさず、汚い言葉なんて使っていなかった。


そんな優しい人でも今の男の態度は許せなかったのか、恐い顔で汚いとは言いにくが悪口を言った。


「戻るか」


「その前に手当てしよう。薬持ってるから」


エニシダは懐から小さな缶を取り出した。


「服捲ってくれる」


「ああ」


服を捲ると男に蹴られた箇所が赤くなっていた。


エニシダがその箇所に薬を塗っていくが、少し指先が触れただけで痛みを感じた。


声を出さずに我慢したが、エニシダの大丈夫かという問いかけに歯を食いしばるのがやっとで、答える余裕はなかった。


薬を塗り終わるとエニシダは「ごめんなさい」と謝った。


なぜ彼女が謝罪を口にするのかイフェイオンにはわからず戸惑ってしまう。


「なぜ君が謝るのだ。君は俺を助けようとしてくれた。それなのに俺は何もできなかった。謝るのは俺の方だ」


「ううん。それは違うわ。あなたは私を守ってくれたわ。あなたはとても勇敢の人よ。あなたが謝る必要なんてないわ」


「いや、それは違う。勇敢なのは君の方だ」


「いや、あなたよ」


「いや、君だ」


「あなた」


「きみ」


どちらも互いに意見を引かず、いつの間にかよくわからない言い合いを続けた。


イフェイオンはそれがおかしくてつい吹き出すとエニシダも同じように吹き出した。


「私たち何をしてるんだろう」


「ほんと、何をしてるんだろうな」


くだらない言い合いなのに、それが楽しかった。


貴族の子供たちとは絶対にしない会話。


それが新鮮で楽しかった。


「俺、強くなるよ。誰よりも。次は絶対に君を、エニシダを守るよ」


「ありがとう。あなたなら、きっと国一、いや大陸一の騎士になれるでしょうね。とても勇敢だもの。私もあなたに負けないよう努力するよ。あなたが怪我をしたら手当てもするし、もっと、もっと、研究していい薬を作れるようになりたい。大人になったときには大陸中に広まるくらいの最高の薬を作りたい」


「エニシダなら、きっと最高の薬を作ることができるよ。俺は誰にも負けない強い騎士。エニシダは最高の薬屋。お互い夢に向かって頑張ろう」


「うん。約束。私たちはきっと大人になったら夢を叶えてる。そうなったら、きっとたくさんの人が幸せになる未来になってるでしょうね」


エニシダはその未来を想像したのか、幸せそうに笑った。


そして彼女は続けてこう言った。


「もし、私が自分の人生を最後まできちんと全うすることができたのなら……そのときは、ここで埋葬されたいな」



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