過去 2
「イフェイオン様。最近、ぐんと剣の腕が上がりましたが、何かありましたか?」
男は好奇心を抑えられずに尋ねる。
「本当か!?」
イフェイオンは男の言葉が嬉しかったのだろう、目を輝かせて喜んだ。
「実はな……」
イフェイオンは照れながら顔を下げ、少し前の出来事を思い出した。
「イフェイオン。準備はできたか」
いつもよりデザインが派手なパーティーのためだけに着るような服をきた父親が、なかなか来ないイフェイオンの様子を見にきた。
「はい。父上」
父親が来るほんの少し前に準備は終わり、今から外に向かおうとしていた。
父親はイフェイオンの格好を上から下まで確認した後「行くぞ」と言った。
今日は年に一度の王宮主催のパーティーがある。
貴族は全員参加が義務付けられる場所だ。
十三歳以下の子供は親子に決定権がある。
まだ十歳のイフェイオンとエリカはこのパーティーに参加する義務はないが、父親であり公爵でもある男が、公爵家の人間ならこの頃から出て当たり前だ、自分もそうだったと言って参加することが勝手に決まった。
他の貴族でも子供の意思とは関係なく親が勝手に決めるものなのだろうか。
イフェイオンは行きたくもないパーティーに連れ出され、内心は親に対して腹を立てていた。
そんな思いからか、パーティーが始まり挨拶を済ませた後は抜け出して街にきていた。
王宮主催のパーティーは三日間あるので、大人たちと違い子供たちは早々に飽きて家に帰りたくなる。
イフェイオンもその一人だった。
首都の街を見るのは初めてで、イフェイオンは期待していた。
だが、自分たちが住んでいるところと大して変わらず、首都もこんなものなのかとガッカリした。
興味もなくなったな、と城へと戻ろうとするが自分が注目されていることに気づいた。
そこで初めてイフェイオンは自分の格好を思い出した。
いつもは鍛錬のためシンプルな服を着ていたが、今は違う。
さすがにこれはまずいな、と焦り始めたとき「こっち」と幼い子供の声が聞こえたのと同時に右手に温もりを感じた。
その子供はローブで全身を隠しているので性別もわからない。
ただ、その子供に手を引かれて路地裏を走った。
後ろから誰かが追いかけてくる足音も聞こえた。
グネグネと路地裏を曲がり、「ここに隠れるよ」と乱雑に置かれた物の中に隠れた。
子供だから簡単に隠れることができるほどの狭い場所だった。
そのおかげで追ってきていた大人たちを振り撒くことができた。
通り過ぎていくとき物騒な事を言っていたので、捕まっていたらどうなっていたか想像しただけで恐ろしくなった。
「もう大丈夫そうね」
隠れていた場所から出ると、その子はローブを脱いで「これはあなたが着てた方がいいわ」と言って渡してきた。
ローブを脱いだから、フードで隠れていた顔を見ることができた。
(女の子だったんだ?)
自分よりも年下の子に助けられたことにイフェイオンは恥ずかしくなる。
「あなたも親に連れてこられてパーティーに参加していたの?」
イフェイオンが何も言わずにいると、手を引っ張って歩きながら女の子は質問してきた。
「え?あ、うん。そうなんだ」
女の子には何故自分がここにいるのか全て見透かされているような気がした。
「もし、まだパーティーに戻るつもりがないなら手伝って欲しいことがあるんだけど」
助けてもらった恩もローブを貸してもらった恩もある。
何よりまだあの場所には戻りたくなかった。
嘘で固められ、見栄のためだけに人を陥れる、あんな場所にいたくなかった。
「俺にできることなら」
彼女は迷うことなく、どんどん森の中へと入っていく。
いくらここが首都とはいえ、森の中も安全とは限らない。
こんな場所でなにをするのか。
いや、俺を連れてくるのが目的だったのかと警戒したそのとき、古びた建物が目に入った。
「あそこは孤児院なの」
(孤児院?なんで、こんな森の中に?)
イフェイオンは口には出さなかったが、何を考えているのか女の子には手に取るようにわかり、こう続けた。
「首都はこの国で最も美しい場所とされてるわ。そんな場所にも汚点と言われる場所も人も存在する。それを隠すために、孤児院は人目のつかない場所に建てられたの」
「君もここに住んでるのか?」
「いいえ。私は違うわ。偶然、この場所を去年知ったのよ」
女の子の声は急に冷たくなった。
それは自分に対しての怒りではないとわかっていたが、それでも自分が怒られたように感じてしまう。
「なら、どうしてここに君はくるんだ?」
「さぁ?どうしてかしらね?私もよくわからないの。ただ、これ以上見て見ぬふりはしたくないからかもね」
何か事情があるのだろう。
女の子の表情は子供がするようなものではなかった。




