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私達、婚約破棄しましょう  作者: 若狭巴


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300年後 12

「ええ。変わっていたわ」


レイシーは断言する。


本来結ばれるはずのなかった運命が結ばれる可能性もあったでしょうね、という言葉は口には出さずに心に留めた。


「報われないな」


あまりに悲惨は結末に青年は顔を顰める。


自信さえあれば。


幼少期に捕まり傷つけられなければ。


そもそも「悪魔の子」だと勝手な価値観をで迫害などされなければ、と起こることなどあり得ない、そうなればよかった未来を想像して胸を痛めた。


「本当ね。もし国王が殺されなければ、エニシダ・オルテルの母親が殺されなければ、周囲のものが二人の関係を邪魔しなければ、嘘の噂を流されなければ、二人は幸せに暮らすことができたわ。最初こそ、お互いに勘違いはしてただろうけど、結婚さえすれば大したことじゃなくなってた。今まで共にいられなかった時間を一緒に過ごせるようになるんだから。誤解は解けて幸せに過ごすはずだった。本来なら」


二人は国のために尽力した。


間違いなく幸せになれるはずだったし、本来ならそういう未来が確定していた。


それなのに、そうならなかったのは二人を守ってくれる存在が殺され、周囲に邪魔をされたからだった。


一つでも、何かがなされなかったらエニシダが自分に呪いをかけることも、国が滅ぶこともなかっただろう。


この呪いの一番怖いところは、呪われた人物から受けた恩恵が大きければ大きいほど、その者が死んだとき被害もそれに見合ったものになるということ。


かけた本人たちが無意識に願ったのか、意識的にだったのかはわからない。


幸せを奪われたのだから当然の報いなのかもしれない。


レイシーにはこの呪いの謎を解明してから、憎むべきなのかわからなくなった。


少なくとも、この呪いで死んだ者たちにとっては救いだったのだから。


「君が救った子は幸せになれたのか?」


何を思ったのか青年はそう尋ねた。


「私は救っていないわ」


レイシーの言葉に青年は首を傾げる。


言っている意味が理解できなかった。


呪われた彼女を救ったのは間違いなくレイシーなのに、自分ではないと言うのだから。


「救ったのは彼女自身よ」


そう続けられた言葉にますます青年は頭がこんがらがる。


「それは、どう言う意味だ」


青年は気付けばそう尋ねていた。


「そのまま意味よ」


レイシーはそう言って微笑んだあと、言葉を続けた。


「私がしたのは呪いを解くの手助けしただけ。例え呪いを解く方法を見つけたとしても、本人に生きる希望がなければ意味がないの。どれだけ手を差し伸べようと、本人がその手を掴まなければ助かることはできないわ。だからね、救ったのは私じゃないわ。私はただほんの少し道を示しただけ。決めたのは彼女自身」


まるで自分のしたことは大したことではないと言うレイシーに青年は、それでもその道を示す人がいなければ結局救いを求めたとしても意味がない。


救ったのは間違いなくレイシーだろ、と思った。


わざわざ否定したところでレイシーが素直に頷くわけないとわかっていたので、青年は何も言わずに言葉を咀嚼した。


「ただ、その道が幸せかどうかは私にはわからないわ。それは、これから彼女が決めることだから。まぁ、でも、一度死を受け入れたあとに生きることを選んだのだから、きっと大丈夫だと思うわ」


この呪いにかかった者たちは髪と瞳の色が白へと変わる。


これはあくまでレイシーの見解だが、髪と瞳の色が白くなるのは、この世で最も美しく純粋な色と表される色になることで、これまでの人生を忘れ、残りの人生を幸せに過ごしたかったからではないかと思う。


いや、もしかしたら、自分や顔も知らない他人だけでなく大切な人まで憎み、呪う前の優しい自分を取り戻したかったからかもしれない。


過去を見ることができてもこの謎だけはレイシーもよくわからなかった。


だが、彼女は真っ白になった自分から色鮮やかな自分を取り戻した。


その瞬間を目の前で見たレイシーは彼女がこれから自分を大切にし生きていく、と宣言しているかのように見えた。


光を失ったかのような真っ暗な目をしていた彼女の目は、呪いを解いた瞬間に数多の星を宿しているかのようにキラキラと輝きを取り戻した。


彼女のことは心配だが、もう大丈夫だろうと安心もしている。


「そうか」


青年はその言葉が、まるで自分に言っているように聞こえた。


今思えばおかしい点がある。


いつものレイシーなら、言わないと決めたことは絶対に言わない。


それなのに自分だけには特別だと言って教えてくれた。


それは遠回しに自分のことも救えるのは自分だけと教えるつもりだったからではないだろうか。


青年は冷や汗が流れた。


もしかしたら、レイシーは気づいているのかもしれない。


だから、こんなことを言うのではないか、と疑問が浮かび上がってきた。


そんな青年の心情を知ってか、レイシーはまるで肯定するかのように微笑んだ。


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