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私達、婚約破棄しましょう  作者: 若狭巴


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300年後 11

「神?」


青年はよくわからず首を傾げる。


青年にとって神とは崇めるものではなかった。


自分を不幸にした存在であり、忌み嫌うべき相手だった。


だからこそ、神と表現されたせいでせいは一気に理解できなくなった。


「あくまで例えだから、そこまで気にしないで」


レイシーは青年の顔が強張っているのに気づき、それが「神」という言葉のせいだと推測し、遠回しに訂正した。


青年はそれに対して「そうか」と呟くも、まだ顔の強張りは取れていなかった。


「彼にとってエニシダ・オルテルは決して傷つけてはいけない、自分の命を捧げて守らなければいけない大切な存在だと思っておけば大丈夫よ」


レイシーは説明しながら、「神」と崇める人に対してのもう少しいい表現ができればと内心後悔したが、言った後に後悔しても意味はない。


「そんな人がいたのに呪いが解けなかったのか?余計におかしいだろ。矛盾しているぞ」


青年はあまりにも複雑な内容すぎて頭が思考停止しかけた。


解決したと思ったら、別の問題が発生し、その問題のせいで解決したと思った問題が本当は違ってたのではないか、と話が進んでいくのに比例して問題が増えていく。


「それはね、その人が最初に大きな過ちをしたからよ。そのせいで、いくらその人がエニシダ・オルテルに誠心誠意尽くそうと、どれだけ素敵な言葉をおくろうと、最後まで傍にいたとしても意味がなかったのよ」


その過ちのせいでね、と自分のことのように悲しむレイシーを見て、青年はいったいその過ちとは何なのだと恐ろしく感じた。


青年はごくん、と音を立てながら唾を飲み込んでから恐る恐る尋ねた。


「その人はいったいどんな過ちを犯したんだ」


それさえなければエニシダ・オルテルが助かったかもしれない過ち。


神と崇めている相手に最後まで傍にいた者がなぜそんな過ちを犯したのか青年には理解できなかった。


本当にその者はエニシダを守ろうとして最後まで傍にいたのだろうか。


青年は自分の考えられる非道な罪を頭に思い浮かべるが、どれもしっくりこず、これ以上に酷い罪などあるのかと辟易した。


「嘘をついたの」


「嘘?」


青年は想像していた過ちよりあまりにもありきれた過ちに拍子抜けした。


嘘など誰でも吐く。


罪人だけでなく、偉い人や子供だって、誰でも吐くものだ。


本当にその嘘でエニシダ・オルテルが死んだのか、と青年は信じられなかった。


それでも「嘘」で死んだと言うのだから、きっと酷い嘘なのだろう、と思い「どんな?」と続けた。


「自分の意思で最後まで傍にいたい、と本当の気持ちを言わずに、ある人の命令で守るように言われた、と嘘をついたの」


「なぜそんな嘘を?」


青年は理解できなかった。


「それは彼が自分に自信がなかったからよ」


青年はレイシーのその言葉で余計に混乱する。


どういう意味かと問いかける前に、その答えを知り青年は納得した。


いや、共感した、と言う方が正しいかもしれない。


「悪魔の子として生きてきたから」


レイシーはその者がなぜ嘘をつかなければならなかったのか過去を見たため、誰よりも理解できた。


青年は幼少期からエニシダの父親に言葉にするのも憚られることをされてきた。


悪魔の子、だからという理由だけでだ。


悪魔の子の印を隠し、普通に暮らすことができたとしても、傷つけられた心はその行為を忘れることも癒されることもない。


自信を持つことができない。


自分のような人間が最も尊いお方に触れることも傍にいることも、本当にいいのかと思ってしまう。


例え認められたとしても、それは印を隠した偽りの自分。


本当の顔を曝け出したら消えてしまうもの。


悪魔の子、と言われたものにしかこの想いは絶対に理解することができない。


誰も彼を責めることなどできない。


「それは……仕方ないな」


青年も悪魔の子なので、なぜ嘘を吐いたのかわかり責めることができなくなった。


少し前の愚かな自分を殴りたくなった。


レイシーのおかげで今は「悪魔の子」という言葉を口に出すことは禁じられているが、2年前までは当然のように至るところで発せられていた。


300年経ったというのに、人々はほんの少し自分と違ったものを迫害しようとする。


それがどれだけ心を傷つけ、壊すかなど、自分には関係ないと思い、容赦なく他者を傷つける。


青年は勝手に価値観を押し付け、正しいと信じて疑わない普通だと思い込んでいる人たちに吐き気がすると思いながら、心の中でエニシダと共に旅をした人に勝手に勘違いして疑ったことを謝罪をした。


「もしも、だ」


青年は拳を強く握り締め、声が震えないように踏ん張りながら言った。


レイシーは顔を伏せていたが、青年の視線が自分に向いているかは気づいていた。


「もしも、その人に自信があれば結末は変わっていたかな」


青年は共に旅をした人に足りなかったのは自信だけだと思った。


それと同じくらい大切な勇気をもっていることには青年は気づいていた。


だからこそ、自信に関することだけを尋ねた。


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