300年後 8
青年は言われた通りに、その光景を思い浮かべてみた。
だが、青年の頭ではその後の光景を思い浮かべることはできなかった。
青年は諦めてレイシーを見た。
答えを教えてくれ、とそんな目をして訴えた。
だが、レイシーは目を閉じていて青年の訴えに気づいていなかったが、そのあと何が起きるかを説明しはじめたので、一応、応える形にはなった。
「最初はまぁ、仕方ないか、と不治の呪いだからと許してもらうことはできる。でも、何度も何度も何度も言ったのに呪いが解けなかったら、どうなると思う」
「わからない」
青年はここまで言われてもわからなかった。
人の気持ちなどわかりたくなかったし、自分の気持ちすらわかっていない青年には、どうなるかなんて想像してみることすらできなかった。
「どうなるんだ?」
「キレる」
「キレる?」
予想外の答えに青年は意味がわからないという顔でレイシーを見る。
言い方も子供っぽくて余計に混乱した。
だが、レイシーはそんな青年を無視してこう続けた。
「うん。物凄い理不尽な理由でキレまくって、相手を非難しまくるわ」
少し前までの青年なら、さすがにそれはないだろう、と否定していたが、もうそんな気力もないからか素直に受け入れた。
というより、思い出したというべきかもしれない。
この世の中には身勝手な理屈で他者を傷つけ、自分は常に正しいのだと傲慢な考えを持つものが多く存在する。
そんな人は自分勝手に人助けをし、求めていた結果を得られなかったら、間違いなく相手を非難する。
人助けどころか逆効果。
そんなことになったら間違いなくこの世の未練は断ち切られ、死を選ぶだろう。
そして、周囲の人たちが死んでいくことになる。
青年はようやくレイシーが「キレる」という言葉を選んで言ったのか理解した。
自分の力で答えに辿り着けるように、敢えてその言葉を選んでくれたように感じた。
気のせいかもしれないが、そう思っていたかった。
「確かに、そうなったら最悪だな。助けるどころか、その逆をするんだから。迷惑以外のなにものでもない」
「だから、この呪いの解き方を発表するわけにはいかないの」
「でも、このまま発表しなければ君が批判されることになる。君はそれでいいのか?」
せっかく手に入れた名声が消えるかもしれない。
レイシーがなんて言うかわかっていても青年は聞かずにはいられなかった。
「別に今も批判されてるのは変わらないし。どうでもいいかな」
レイシーは本当に興味がないのか、淡々と言った。
「大切なのは私の名声よりも命でしょう。私が批判されるだけで、助けられるなら安い代償だよ」
自分が彼女と同じ立場ならこの選択をすることができただろうか。
あっけからんと笑って言うレイシーに青年は心の中で「自分とは違ってかっこいいな」と思った。
「まぁ、教皇にも迷惑かけているから安い代償とは言えないかもだけど」
そう申し訳なさそうに付け足すレイシーに、どう考えても君の方が大変だろ、と言う言葉は飲み込んだ。
「教皇もわかった上で発表しないことを選んだ。それが正しいことだとわかっているからだ。君が負担に思う必要はないよ」
「教皇にも同じことを言われたよ」
新たに解明した呪いの秘密を全て教えた後、教皇はレイシーの考えに同意し、秘密にすることを約束してくれた。
ただレイシーが生きている間はこの呪いにかかるものがいても問題はないが、その後だ。
レイシーと現教皇が死んだら呪いを解けるものがいなくなる。
そのため教皇は自分が死んだ後に教皇に選ばれた者たちだけにこの秘密を教えることにした。
金や権力に目が眩むものには、例え教皇になったとしても教えるわけにはいかない。
そのため教皇はほんの少しだけ仕掛けを施していた。
清い心を持ったものだけが、呪いが書かれた本のことを読むことができ、解き方を知ることができる。
強力な神聖力で封印したため、無理矢理開けることはできないようになっている。
それだけではなく、レイシーも魔法をかけているため、本当に清い心を持ったもの、見返りを求めず人助けすることができるものだけにしか絶対に本を開くことができない。
もし読めなければ例え選ばれたとしても教皇になることは絶対になれない決まりも作ると言っていたので、大丈夫だろうと思い、レイシーはその辺りのことは全て教皇に任せた。
「寧ろ、私より教皇の方が大変だと思うけどね」
自分のことには無頓着で何もわかっていないレイシーに青年は思わずため息が出そうになるのを我慢した。
「結局、この呪いは何なんだろうな」
青年は呟く。




