300年後 7
「後悔してる?」
青年は突然そう言われて驚いた。
レイシーは申し訳なさそうな顔をして、こちらを見ていた。
青年は「全くしていない」と言えば嘘になるな、と思いつつ「してないよ。これは自分で望んだことだから」と言った。
レイシーは「そっか」と言ったあと、少し黙り込んでから口を開いた。
「まだ聞きたいことある?」
その言葉は「ここでやめてもいいよ」と遠回しに言っているようなものだった。
この呪いの謎はまだある。
それなのに、今そう言うのは自分にはこれ以上耐えることができないと心配されたからなのか、と青年は思った。
レイシーの思いやりを感じながら青年は「ある」と答えた。
その答えにレイシーは一瞬目を見開くが、すぐに元に戻り「他に何が聞きたいの?」と尋ねた。
「呪いは誰がかけたのか、どうやってかけられたかはわかった。それらは全て同じ条件なんだろ」
レイシーは青年の言葉に頷く。
「なら、なんで死ぬまでや周囲への影響に差があるんだ」
後者の方はさっき思い浮かんだ仮説があったが、多分正解ではない。不正解でもないと思うが、ちゃんとした正解が知りたくて尋ねた。
これもあくまで仮説だけど、レイシーはそう前置きしてから言った。
「呪いが発動してから死ぬまでの期間が違うのは本人たちがこの世の未練を断ち切るために設けた期間なの。長い人は、それだけ未練があり、呪いが解ける期待もほんの少しかもしれないけど、してたと思うわ」
青年はレイシーの言葉を聞いて思った。
つまり期間に個人差があるとしても、全員が死んだのは、それは生きる希望を無くしたから、人に絶望したからなのか、と。
「レイシー。君はこの呪いをどうやって解いたんだ」
青年は気付けばそう言っていた。
言ってから気づいた。
自分は今まで何故一番大事なこのことを聞かなかったのかと。
「さっきも言ったでしょ」
レイシーは笑う。
その言葉を聞いた青年は「なんのことだ」と首を傾げる。
「必要とされたかったって、愛されたかったって」
それは呪いをかけた理由だろ、と心の中で呟いてから「あっ」と青年は声に出した。
きちんと考えれば、簡単に辿り着くことができた答えだった。
青年はヒントをたくさん貰っていたのに答えに辿り着くことができなかった自分を恥じた。
不治の呪いだからと青年は自分でも気づかない内に単純なものを複雑にしすぎていたのだ。
「そう言うだけで良かったのか」
青年はそう口に出しながらも、それが難しいことだよな、と今まで呪いが解けなかった理由に納得した。
そもそも周囲にそう言ってくれる人がいたのなら、自分に呪いをかけるなんて馬鹿なことはしなかったはずだ、とも思った。
「うん。その通りよ。それだけでよかったのよ」
レイシーは青年に言っているようで、空を見上げながら遠くの人に言っているみたいだった。
青年も同じように空を見上げた。
二人の間に長い沈黙がおとずれた。
青年は死んだものたちのやるせない気持ちを理解しながら、どうか安らかに眠って欲しいと願った。
これからはこんな悲劇が起きないから大丈夫だ、と思ってすぐ、でもこの呪いを解く方法は自分を含めて三人しかいない。
青年はレイシーが何故このことを発表しないのかわからなかった。
どうして簡単な解除方法があるのに、そのことを世界中の人に教えてあげないのか。
全て教える必要はないが、ただ解く方法だけ教えれば、それだけで本人だけでなく周囲のものも助かることができる。
非難るするつもりはなかったが、青年の口調は少しだけ問い詰めるようなキツい言い方になってしまった。
「なぜ、どうしてこの呪いの解き方を発表しないんだ。教えれば誰もがこの呪いを解くことができるのに」
青年は必死にそうするべきだと説得しようと更に言葉を続けようとしたが、それより先に「それは無理よ」と否定された。
「ただ言えばいいわけじゃない。心の底から相手に伝えないといけないの。あなたが必要だと、愛していると。どれだけ立派な一流の詐欺師でもこの呪いにかかった者を騙すことは絶対にできない。不可能なの」
レイシーは一旦言葉をきったあと、怖い顔をしてこう続けた。
「もし仮に、この呪いの解き方を世界中の人全員に教えたとするわ。その人たち全員がこの呪いにかかった人に恐れずに近づけると思う?偽善で、同情心から、助けようとして「私はあなたが必要よ。あなたを愛しているわ」と言われて呪いが解けると思う?寧ろ悪化するわ。確実に」
青年はその例え話はあまりにも極端ではないかと反論したくなった。
でも、すぐにレイシーが正しいと思い、開いた口を閉じた。
「想像してみて、そう言われたのに呪いが解けなかったときのことを」




