300年後 6
「半分正解で半分不正解ね」
レイシーの言葉に力が入りすぎていた青年の体は風船から空気が抜けていくみたいに力が抜けていった。
「違うのか」
良かったと喜ぶべきか、それとも半分も当たっていたのかと悲しむべきなのか青年にはわからなかった。
「うん。言ったでしょう。この呪いは祈りによってかけられたって」
「ああ。そうだったな」
忘れていたわけではないが、呪いとは正反対な言葉のため、どうしても上手く結びつけることができず、答えを導き出そうとしたときに、そのことが消えていた。
確かに祈りによって他者を殺すなど無理な話しだ、と勝手に考えを悪い方に飛躍させすぎていた自分が恥ずかしくなる。
「ねぇ。祈りって何のために、誰にするものかわかる」
突然のレイシーの簡単な問いかけに、青年はその質問の意図がよくわからないまま答えた。
「そりゃあ、自分や誰かの幸せや救いを求めて神に祈るものだろ」
青年は最後まで言い切らない内に気づいた。
だが、そんなことあり得るのか、と思った。
「神が……」
人を呪ったのか、と続けようとしてやめた。
これは呪いではなく祈りだ、と思ったのも束の間、そんなことはどうでもいいだろう、それよりも大事なことがある、と頭の中で自問自答しながら、なんて言えばいいのかわからなくなり青年は黙ることしかできなかった。
青年が困った表情で今にも泣き出してしまいそうなほど顔を歪ませているのを見たレイシーは息を吐いた後、こう言った。
「ここから先はあくまで仮説。事実かどうかはわからないけど、それでも聞きたい?」
レイシーの問いかけに青年はゆっくりと頷く。
青年は何度も心の中では「もう聞きたくない。これ以上は知らない方がいい」と感情的に考えている自分がいた。
それと同時に「最後まできちんと知るべきだ。ここまで聞いた以上、今辞めたら自分の勝手な解釈が入ってしまう。正しい情報を知っておくべきだ」と理性的に物事を考えている自分もいた。
レイシーは青年の選択を最初から予想していたのか驚くことなく、微笑んだあと口を開いた。
「エニシダ・オルテルは呪いがかかる前日に神に祈ったの。自分をここから助けて欲しい、と。それと同時に、殺して欲しいとも願ったのよ。誰にも必要とされず、愛されない自分に生きている意味があるのか。これ以上心を壊される前に、特別な思い出や感情まで汚される前に死にたいと思ったのよ。だから、救いを求めて神に祈ったの」
ここまでは過去を見たので間違いない。
事実だ。
問題はここからだ。ここから先はレイシーの仮説だ。
「神はその祈りを叶えたのか」
青年の言葉は問いかけというより、自分に言っているような感じだった。
「多分ね。確認することはできないから、断言はできないけどね」
「心臓が消えたのは呪い……祈りを叶えたことへの対価ですか」
青年の口から放たれた言葉は問いかけているが、口調は「そうだ」と決めつけるかのような言い方だった。
「それは、多分、少し違うわ」
その言葉に青年はゆっくりとレイシーの方を見た。
その青年の瞳は「なぜ、わかる」と訴えるものだった。
その訴えにレイシーはあくまでこれは自分なりの解釈から立てた仮説。
本当に正しいかは立証することができないため、青年を納得させるのは諦め、自分の考えを淡々と述べた。
「心臓とは心。心とは感情。そう表現されることがあるわ。それを前提として考えると、心臓が消えたのは本人たちが死んだ後も自分の大切なものを奪われたくなかったからだと思う」
レイシーの説明に納得がいかなかったのか青年は眉間に皺がよる。
「それはいくら何でも考えすぎだ。遺体から心臓を取る人なんているわけがない。死者への冒涜だ。人間にそんなことができるわけがない」
青年は人間がそこまで落ちぶれていると思いたくないのか、早口で捲し立てるように言った。
「うん。普通誰もしないよね。そんな罰当たりなこと。それも不治の呪いの中で最も謎の多く恐ろしい呪いをかけられた遺体から何かを盗もうとするなんて普通に考えたらあり得ない。でもさ、自分で自分を呪った人は普通かな。そうなるまで、追い詰められたんだよ。心は疲れ果て、壊れていた。もう、誰も信じられなかったと思うだよね。生きている間は散々利用されたんだから、当然といえば当然」
レイシーは一旦言葉を区切った後、青年を見て困ったように笑った。
「そんな状況で、自分の大切なものを残したまま死ぬことなんてできるかな」
私ならできないよ、とレイシーは言った。
確かにその通りだ、と青年は納得し、何も言えなくなった。




