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私達、婚約破棄しましょう  作者: 若狭巴


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300年後 5

「それは、どういう意味だ?」


「言ったでしょう。エニシダ・オルテルは基本屋敷から出られなかったって。婚約者は長年戦争をしていたって。そんな状況で二人は正しく相手の気持ちを把握できたと思う?周りは敵だらけの状況でもあるのよ。本当に、二人は誤解することもなく愛し合うことができたと思う?」


レイシーが子供でもわかりやすいように説明してくれたおかげで、青年はようやくエニシダがどれだけ孤独の中で過ごしていたかを理解できた。


「呪いは必然だったというわけか」


青年は一歩間違えれば自分も彼女のようになっていたかもしれないと感じた。


そして、それは現在進行形だ。


青年はまだ生きる希望を失ってはいないが、近い将来失い、死を願うほどの祈りを捧げるかもしれない。


エニシダと似た境遇なせいか、共感してしまった。


その選択は仕方ない、間違いではない、と。


「彼らは自分たちのしたことを反省したと思うか」


青年はふと気になった。


レイシーは過去を見た。それなら、彼らのことも知っているのではないかと思い尋ねた。


「しないでしょう」


レイシーは何言ってるの、と呆れたように言った。


「だって、一部の人間以外、誰もエニシダ・オルテルが不治の呪いをかけられたって知らなかったんだから。それに、薬は伯爵が作っていると思っていたから、彼女が消えても心配なんてしない。むしろ大喜びしたと思うわ。これで愛する二人を邪魔するものはいなくなった、てね」


まるで悪夢の中にいるような気持ち悪さに青年は襲われた。


「よくもまぁ、他人の恋愛事情に進んで首を突っ込めるわよね」


レイシーは今も昔も変わらないおせっかいな女性ならまだいいが、勝手に自分たちの好きなように解釈して仲を荒らす、そんなやり方をする彼女たちにただ辟易する。


悪いことをしたと思っておらず、むしろいいことをしたと彼女たちは思っているのだ。


救いようがないとは彼女たちのことを言うのだろう、と密かにレイシーは思っていた。


「自業自得だな」


青年はポツリと言った。


あまりにも小さな声だったため、レイシーの耳にまでは届かなかった。


「何か言った?」


レイシーは青年が何か言ったような気がして尋ねる。


「いや、ただ、なんとなく、自業自得……天罰が下ったと思ったんだ。無神経だったよな」


ごめん、と青年はいくらなんでも魔族や魔物に殺されたのに言い過ぎたと謝るが、レイシーに「よくわかったわね」と褒められた。


青年は一瞬、何を言われたかわからなかった。


自分でもわかるほど間抜けな顔をしてレイシーを見た。


「うん。その通りよ。彼らが死んだのは自業自得なのよ」


はっきりと断言するレイシーに青年はさらに困惑した。


レイシーの言っている言葉が別の言語に聞こえるほど理解するのが難しかった。


青年も確かに国民が死んだのは自業自得だと思った。それは認める。


だが、はっきりそうだと言われると、まるでエニシダ・オルテルが自身を呪うまで追い詰めたから死なことになったのだ、と言っているように聞こえる。


呪いの正体を少しずつ知っていくたびに青年は怖くなった。


何か言葉を発しようにも口の中は渇いている。


口を動かそうとしても、魔法をかけられたのかと疑ってしまうほど口を開けることすらできなくなった。


「国が滅ぶのも必然だったのよ」


それではまるで呪いのせいで魔族と魔物が攻めてきたと言うのか。


青年はようやく口を開くことができ、そう叫びたかったが、あまりにも冷たい瞳をしたレイシーと目が合い何も言えなくなった。


そんなことあっていいはずがない。そもそも、この呪いはそんな呪いではなかったはずだ。


死ぬまでの期間に個人差はあったが、他人を巻き込むような呪いではなかったはずだ。


エニシダ・オルテル以外は呪いがかかっても誰も死ぬことはなかった。


そういなかった。


これはもう別の呪いではないのか。


だから、レイシーはそのことを伏せるために教皇にだけ呪いの正体を教えたのではないのか。



ーー本当にそうなのだろうか。本当に誰も死ななかったのだろうか。



エニシダ・オルテルのときは魔族と魔物によって国が滅び、オルテル伯爵が娘の功績を横取りして地位と権力を手に入れたことが明るみになったのが同時期だったため、後世にまで語り継がれている。


そもそも、エニシダ・オルテルの死と国が滅んだことは別のものとして考えられていたのだ。


昔の呪いももしかしたら悲しみによる自殺や偶然の事故として処理されている可能性もある。


呪いで死ぬまでの期間があるのには何か意味があるのかもしれない。


期間は個人差がある。


呪いによって他者に被害が出る可能性がないとも言えない。


その被害にも個人差があるとしたら……


青年は無理矢理納得しようとするも、どうしても疑問を払拭することができなかった。


その疑問の謎を解明しようとすればするほど、恐ろしい答えに辿り着いてしまった。


青年はレイシーを見る。


違う、とこの答えを否定して欲しくて縋るように彼女を見るが、「わかったのね」と言わんばかりに困ったように、悲しそうに笑うのを見て悟ってしまう。


「この呪いは自分の命を捧げることによって、自分の受けた苦しみを相手に返す呪い……だな」


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