300年後 2
「本人って……自分で自分を呪ったってことか」
青年は信じられずレイシーを見つめるが、同時に納得した。
本人が呪ったのなら、誰もどうやって呪ったのか、呪われたのか知る術がない。
どれだけ解明しようとしても、できるわけがなかったのだ。
そんな呪いを解明したのだから、その謎を他の人だったら大々的に発表しただろう。
故人の尊厳を踏みにじることになろうと。
だからレイシーはこのとこを秘密にしたのだ。
死んだ彼らを守るには、この事実は隠す以外に方法はない。
貴族の中には呪われたというだけで家族を見捨てるものすらいる。
そんな繋がりを世間では家族とは言えないだろうが、自分自身を呪ってまで死を選んだ彼らの苦しみを考えると青年はレイシーと教皇の判断は正しかったと思う。
「うん。そうだよ」
レイシーは淡々と答えるが、質問されたこと以外には答えなかった。
青年はそんなレイシーをもどかしく思いながら、「どうしてそんなことをしたんだ」と無意識に呟いた。
その言葉は質問にも、独り言にも、どちらにも聞こえる曖昧なものだった。
「必要とされたかったのよ。ただ、誰でもいいから愛して欲しかっただけなんだと思うわ」
見た感じそうだと思う、とレイシーは答えるが、あまりにもしれっと爆弾発言をする彼女に青年は思わず聞き流してしまうところだった。
レイシーが時の神の加護を受けていることは有名だ。
悪魔の子でもあり、神に最も愛された子でもある。
最も矛盾した存在なのだから。
だから、レイシーがその力を使って過去を見ることは可能なのかもしれないが、それができるということは強大な力を持っていると青年に教えたことでもある。
自分にそんな秘密を暴露してもいいのかと彼女を見ると、してやったりと笑っているので何も言えなくなる。
青年はここは怒るべきなのか喜ぶべきなのかわからず、なんとも言えない表情でレイシーを見ることしかできなかった。
「ちょっと待ってくれ。それはおかしいだろ。愛されたいのに自分を呪うなんて矛盾している。それに、この呪いにかかった人間の一人は聖女ではなかったが、聖女として敬われていた人だっていた。そんな人が必要されないなんてあり得ないだろ。愛されなかったなんてあるはずがない」
青年は矛盾している、おかしい、とレイシーの言葉を否定する。
自分が正しいことを言っているはずなのに、どうしてか間違ったことを言っている気がした。
いや、どこか既視感があったのだ。
青年はなぜか聖女と敬われた女性が、もしかしたら自分と同じなのかもしれないと心のどこかで思ったからかもしれない。
公爵家の次男として産まれたが、青年は「悪魔の子」だった。
家族は必死でその事実を隠した。
外では息子を愛している親や兄を演じるが、家では透明人間のような扱いを受ける。
学校では公爵家の人間だから媚を売ってくるものは大勢いるし、名ばかりの友人もいるが、彼らもまた青年の正体を知れば離れていく存在だ。
どれだけ素晴らしい地位や権利、名誉があったとしても本当の意味で愛されることはないし必要とされることもない。
それを青年は五歳の時に知った。
自分で自分を呪った人たちもそうだったのだろうか。
青年は自分の言ったことが間違っていると思いながらも、レイシーに肯定してもらいたいと思った。
そうでなければ、彼らの人生があまりにも可哀想に思う。
「それほど思い詰められていたのよ」
レイシーの声も口調もさっきと変わらず同じだが、青年には冷たく聞こえた。
「親が必ずしも子供を無条件で愛すとは限らないし、どれだけ他人のためにその身を粉にして働いたとしても感謝してもらえるとは限らないわ」
レイシーは一旦言葉を切った。
今の言葉は自分自身の体験から言えることだった。
知っているだけではなく、その身で受けたことだからか、青年にはレイシーの言葉が重く感じた。
何より青年自身も経験しているからこそ、その通りだと思っていた。
「彼女もそうだったのよ。聖女と言われたけど、悪女と言われ蔑まれていたことは知らないでしょう」
「悪女?」
青年はレイシーの言っている意味がわからず首を傾げた。
青年が知っているエニシダ・オルテルは人々の為にその身を粉にして働き続け、奇跡の薬と呼ばれるほど素晴らしい薬を作った。
ただ魔族に襲われたときにその薬の作り方が書かれた本は燃え、その作り方を知っている者たちも死んだ。
彼女の家族たちも魔族に襲われ亡くなった。
エニシダが魔族に襲われたとき国にいれば多くのものが助かったかもしれないが、呪われた彼女の願いを叶えるべく残りの人生を好きにさせた。
エニシダ・オルテルは間違いなく国民に愛されていたと言われている。
そう歴史に記されてもいる。
でも、レイシーの言い方はまるでその歴史が偽りだと言っていた。
「そう。悪女。エニシダ・オルテルは愛する二人の仲を引き裂いた最低最悪の令嬢として、貴族たちだけでなく、平民たちからも嫌われていたの」




