300年後
「レイシー。教えてくれ」
「なにを?」
名前を呼ばれた金髪の少女は後ろを振り向く。
自分とは違い公爵家の令息として相応しい高価な服を見に纏った青年はとぼけるレイシーに「頼むよ」と言った。
だが、レイシーは首を傾げたままでなにを教えて欲しいのか言って、と笑っている。
青年は根負けして「少し前に解明した呪いについて教えてくれ」と懇願した。
あまりにも必死に頼みこむ、青年の表情にレイシーはクスクスと「しょうがないな」と笑い、「本当は駄目なんだけど特別だよ。誰にも言わないでね」と言って、青年の知りたかったことを教えてあげた。
青年がなぜ公爵家の人間でありながら、元公爵令嬢で平民となった少女に頭を下げてまで「教えてほしい」と頼んだのには理由があった。
それは、三ヵ月前まで遡る。
「おい。聞いたか。また、あの娘が不治の呪いを解明したらしい」
男の口調は批判めいているのに、どこか悔しさや尊敬を感じる矛盾さを含んでいた。
「今度は何の呪いを解明したんだ」
返事をした別の男は敵意を隠さずに尋ねた。
「不治の呪いの中で最も謎の多い、あの呪いだ」
「なっ!」
まさかの呪いの解明に男は敵意も忘れ、本気で驚きを隠せずにいた。
そんな男の反応を無視て「また、神殿で星冠を授与されるらしい」と国王ですら貰うことが難しいとされるものを授与されることが決まった。
僅か十七歳で三つ目の授与だ。
普通なら誰もが彼女を敬い、媚を売るはじめるが、そんなことは起きなかった。
寧ろ敵意を向ける者の方が大半だった。
一部の人間を除いては。
彼女と同じ「悪魔の子」と呼ばれる者たちだけ好意的だった。
「いつ行われるんだ?」
「一ヵ月後だ」
「また、内容が発表されるんだよな」
悪魔の子が自分たちより優れているとは認めたくはないが、呪い正体は気になる。
男たちの中では参加しないという選択肢はなかった。
それでも自分たちより下だと思っている存在に負けるのはプライドが許せず、その知らせを受け、参加することが許された者たちは、己の財と権利と地位を使って、高価な物を揃えて備えた。
貴族と悪魔の子の差はどう頑張っても埋まることのない差があるのだと見せつけるために。
だが、どれだけ価値のあり高価な物を身につけてもあの小娘はその瞳に誰も映すことはなかった。
ただ、星冠を受け取り帰っていく。
己を特別だと思っている者たちはそんな彼女に腹を立てながらも、呪いの正体は何か内容が発表されるのを待ったが教皇の口から発せられた言葉は「これは非常に危険なため、内容を発表することはできません」だった。
参加したもの、それを聞いた参加できなかった貴族、平民、神官、各国の王たちですら不満な声を上げたが、教皇は首を縦に振ることはなかった。
一部のものは、本当は呪いの解明ができてはいないのではないかと声を荒げたが、神殿はその声を無視した。
そうして時だけが流れ、教皇以外に呪いの正体を教えられず現在に至る。
「それで、何から知りたいの?」
レイシーは青年に問いかける。
青年は少し考えてから「あの呪いはどうやってかけられたのか」と聞いた。
他にも聞きたいことはたくさんあった。
なぜ心臓が消えるのか。
なぜ個人差があるのか。
そもそも、誰がその呪いを最初に作ったのか。
呪いはどうやって継承されたのか。
誰が何の目的でこんな非人道的なことができるのか。
いくら呪いを解明したからといって、全ての質問に彼女だって答えられるわけではない。
なら、確実に答えられるものから聞いていくことにした。
「祈りよ。それも、誰も想像することができないほどの誠実な祈りによってかけられたわ」
レイシーは淡々と言うが、その答えを聞いた青年は目を見開いた。
当然だ。呪いとは全く正反対の「祈り」によって、あんな非人道的な呪いがかけられたなど信じられなかったからだ。
先ほどまで呪いの正体を教えてもらえると興奮で体が熱かったのに、今はすっかりと冷えていた。
「それで、次は何が知りたい?」
レイシーの問いかけに、青年は強張った顔の筋肉のせいで口を動かすのがさっきより重く感じたが、それでも知りたい欲求の方がまだ強く、次の質問をした。
「誰が呪いをかけたんだ?」
青年は言った瞬間に後悔した。
呪いは解明されたが、呪いをかけた人物が捕まったというニュースは流れていない。
それは、昔も今も同じだ。
そもそも呪いを解明できただけでも凄いことなのに、と青年はすぐに違う質問をしようとしたが、それより先にレイシーが答えた。
さっきよりも信じられない答えを言った。
「本人よ」と。




