墓 2
ギルバートはゆっくりと立ち上がり、今度はイフェイオンの墓の前でしゃがんだ。
花を置き、エニシダに話しかける時よりも冷たい口調で非難するように言った。
「なぁ、イフェイ。お前、自分で心臓に剣を突き刺したんだってな」
ギルバートは最初に自殺したと聞かされたときは信じなかった。いや、信じられなかった。
誰よりも気高く勇敢で強い男が自殺したことに。
魔族にも魔物にも、一切臆することなく立ち向かい、必ず勝利に導いた英雄の最後が自殺なんて認めたくなかった。
でも、本当はわかっていた。
エニシダが呪いで死んだら、イフェイオンがどんな行動を取るかなんて、長年の付き合いから簡単に予想できたが、誰が友人の最期が自殺なんて信じたいと思うのか。
イフェイオンの名前が刻まれた墓の前に立った今でも信じたくなかった。できるなら、この現実を受け止めたくなかった。
眠りからさめずに永遠に寝ていたかったと思ったくらいだ。
それでもギルバートが今日墓参りに来たのは、五年経ったが友人であるイフェイオンをきちんと見送りたかったからだ。
同時に、なんて馬鹿なことをしたんだ、と怒鳴ってやりたかったからだ。
いざ、そうしてやろうと墓の前に立つとできなかった。
言ってやろうと思っていた言葉が全て消えた。
「本当にお前は馬鹿だな」
声が震えた。目頭が熱くなった。涙が流れ、頬を濡らした。
ずっと見ないように、信じないようにしてきた現実をもう否定できなかった。
「なんで……死なんて選ぶんだよ」
そう言いたかったのに、ギルバートは上手く声が出せなかった。
ギルバートは唇を噛み、情けない声が出ないよう必死に耐えた。
落ち着きを取り戻すまでかなりの時間がかかったが、子供の頃以来に長時間泣いたせいか目は痛かったが、もやがかかったみたいだった心が少しだけ晴れやかになった。
「なぁ、イフェイ。俺はお前のした行動を誉めることはできない。部下として、友人として……時の加護を受けた者として許すことはできたない。でも、そっちでは幸せに過ごしてほしいとは思っている」
ギルバートは目を閉じ、これまでイフェイオンと過ごした日々を思い出してから、ゆっくりと目を開けた。
「もう、何にも縛られることなく自由にいて欲しい。それでもし、また、この地で生きたいと思うことができたら、次は自分の幸せを第一に生きて欲しい。こっちのことは、もう何も考えなくていい。心配しなくていい。公爵もいるし、あのおっさんも生きてる。大丈夫だから何も心配しなくていい。ただ……」
ギルバートは一旦言葉をきり、息を吐いてからこう言った。
「俺がそっちにいったら、お前のこと一発だけ殴らしてくれ」
ニッとガキ大将が悪いことをして満面の笑みで笑うようにギルバートは笑った。
そんなご褒美がないとやってられないとでも。
当然墓から返事など帰ってこない。
これはただの決意みたいなものだった。
「今日はこれで帰るよ。また来年くる。そのときには、もっといい報告ができるように頑張るよ」
ギルバートは立ち上がると、突然眩しさで目を閉じた。
こんなに眩しかったか、と思いながらゆっくりと目を開け上を見ると、壮観な景色に目を奪われた。
下から見る大量のピンクの花を咲かせた木はまさに圧巻で言葉を失った。
それだけではなく、太陽の光でキラキラと輝いている。
何度も見たことあるような、青いキャンパスの上にピンクの花が描かれた光景なのに、ギルバートの心はどうしようもなく温かく切ない矛盾した気持ちにさせられた。
「もういいんですか?」
ずっと待っていたのか、地下から地上へと戻ると声をかけられた。
逆光のせいでユリウスがどんな表情をしているのかはわからない。
「ああ」
ギルバートがそう言うとユリウスは何も言わずに地下へと降りるための階段の扉を隠した。
「お前はこれからどうするつもりなんだ?ずっとここにいるのか?」
「はい。そのつもりです」
「そうか」
「はい」
ギルバートは何を言ってもユリウスがこの場から離れるつもりがないと知り諦めた。
「来年もまた来る」
「わかりました」
「元気でいろよ」
「ギルバートさんの方こそ元気でいてくださいね」




