五年後
五年後。
王族が全員この世から去り、それに加えて多くの国民も失い、滅ぶことになってしまった。
その土地は援軍に唯一駆けつけたサルシューア国の領地となり、魔法使いの活躍によって滅ぶ前と同等、いや、それ以上の国へと発展した。
たった五年しか経っていないのに、あの悲劇を忘れたかのように暮らしている人々は幸せな顔をしていた。
だが、それは仕方ないことだった。
サルシューア国になる前に住んでいた人たちよりも、サルシューア国から派遣されて住み始めた人たちの方が圧倒的に多いのだから。
頭ではどれだけ残酷な出来事だったのかと聞かされて想像しても、実際に体験したわけではない。
本当にその残酷さを知らないのだから、悲しめと言われても無理な話である。
ユリウスは丘の上から町を見下ろした。
幸せそうに笑っている町の人たちを見て悲しくなった。
昔の自分も仲間たちとああして笑い合っていた。
もう自分はあんな風に誰かと笑うことも、楽しく過ごせる日々が二度とおとずれることがないとわかっていた。
ユリウスはエニシダの遺体を見つけた日から笑っていない。
笑い方を忘れたみたいに笑えなくなった。
次々と心を抉る出来事が重なり、笑うことが罰のように思えた。
ただ、呆然と彼らの幸せな姿を眺めていると「久しぶりだな」と後ろから声をかけられた。
ゆっくりと後ろを振り返る。
五年ぶりに聞いたとはいえ、その声の主を忘れることはなかった。
「はい。お久しぶりですね。ギルバートさん」
ユリウスは元上官に対して頭を下げた。
ルーデンドルフ公爵は生きているとはいえ、ユリウスはもう公爵家には仕えていない。
ギルバートは一年前に意識が戻り、三ヶ月前に生きていることが判明した。
五年前の魔族との戦いの時に海に落ちて、そのまま流されて隣の隣の国のゼルア国の田舎の教会で保護されていたらしい。
「思ったより元気そうで安心したよ」
昔と違いギルバートの体は一回り小さくなったが、笑顔はそのままだった。
「それはこっちの台詞ですよ」
ユリウスもそれにつられて心は温かくなったが、笑うことはできなかった。
「実際に見ても信じられないな。あの惨劇からたった五年でここまで回復するとは思わなかった」
ギルバートはユリウスの隣に立ち、町を見下ろす。
「はい。本当に信じられないですよ。もう五年も経ったなんて」
ユリウスの時間はイフェイオンの死んだ日から止まってしまっていた。
言葉にはしなかったが、ユリウスが何を思っているのか察したギルバートは少し困ったように笑うことしかできなかった。
「すみません」
ユリウスは自分の口調が少し棘のある言い方だったことに気づき、慌てて謝る。
重くなった空気を変えるように、なるべく明るい声で「そろそろ行きましょうか」と今日会った本来の目的を果たそうと移動するために体を反転させる。
「ああ。頼む」
ユリウスは手に持っていた花束を抱え直す。
ゆっくりと歩くユリウスの後をギルバートも同じようにゆっくりと歩いた。
目的の場所に早く行きたいと思うと同時に、永遠にその場所に辿り着かなければいいのにと矛盾した想いを抱えながらギルバートは重い足を動かした。
歩く道なりは、知っているようで知らない。
懐かしさを感じながらも新鮮さを感じる景色だった。
元通りになったと思っても、よくよく見ると全然違う。
あの惨劇が復興して嬉しいと思うのに寂しくもある。
もう二度と過去の思い出を感じられる場所はないのだと思い知らされた。
中途半端な高さの木の中を歩いていると、ピンクの花を咲かせる木の前でユリウスが止まった。
「ここです」
ユリウスが振り返る。
ギルバートはあまりにも無感情な顔に一瞬、心臓が止まるかと思った。
すぐに我に返り、ユリウスの後ろに視線を向けるが何もない。
ただ木が生えているだけ。
山茶花と呼ばれる花を咲かせた木が。
木の下に遺体を埋めたのかと思い、近づこうと止めた足を前に出すと、ユリウスはしゃがみ込んだ。
何をするつもりかとギルバートは動きを止めて、ユリウスの一挙一動に集中した。
ユリウスは生えている草を手でわけながら何かを探していた。
手伝おうとする前に見つけたのか、ユリウスは立ち上がった。
何がしたかったのかとギルバートが首を傾げると、突然地面が動き、さっきまでなかった階段が現れた。
その瞬間、微量ながら魔力を感じた。
魔法で隠されていたらギルバートは地面の下に何かあるのに気づけたが、地面に隠してある作動ボタンを押さない限り魔法は発動しないように設定されているのだろう。
お陰で全くこの仕掛けに気づくことができなかった。
「お二人の墓はこの下にあります」




