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私達、婚約破棄しましょう  作者: 若狭巴


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最期


エニシダがかけられた呪いは不治の呪いの中で最も不明なもの。


イフェイオンは呪いを解くことができなかった以上、犯人を探し出して殺しても意味がないと思っていた。


何一つわかっていないのに、見つけ出せるとも思っていなかった。


ただ、虚しさだけがあった。


こんな感情を抱えたまま生きていくのは無理だった。


これまで生きてこられたのは、守りたい人がいたからだった。


それすらも失ったいまイフェイオンにはこの世に留まる理由などなかった。


イフェイオンは剣を抜いた。


剣の側面をゆっくりと撫でながら自身のオーラを注ぎ込んでいく。


銀色に光っていた剣はみるみるうちに青くなった。


腕を伸ばし、剣の刃先を自分の心臓の前に固定する。


エニシダがかけられた呪いは一つ以外何もわかっていない。


でも、ただ一つだけわかっている。


それは、この不治の呪いをかけられた者は死んだら心臓が消えるということ。


死んでもなお、死者を冒涜するその行為に吐き気がした。


ある作家が書いた登場人物の一人が「心臓とは人間にとって最も大切なものである。それは心臓に心が宿るからである。人の感情は悲しくなれば心臓が痛めつけられる。幸せであれば満たされる。人に恋をすれば何もしてなくても、全力疾走したときのように速く動く。だからこそ、心臓は生きていくために最も必要なものである」と言った。


この文章は瞬く間に世界中に広がり、誰もが自分の心を守るように他人の心も尊重するべきだと改めて感じた言葉だった。


だからこそ、この呪いは不治の中でも最も嫌悪されるものだった。


これはイフェイオンなりのせめてもの罪滅ぼしだった。


死なせてしまっただけでなく、最も大切だとされる心臓も守ることができなかった。


イフェイオンは躊躇うことなく、剣を己の心臓に突き刺した。


口から血が出る。


不思議なことに痛みを感じなかった。


すぐに死ぬからか、それとも心が壊れたからか。


イフェイオンにはその答えを知ることはできない。


命が尽き果てる前にイフェイオンは剣に注いだオーラを操り、自分の心臓だけを燃やした。


地面に膝が最初についた。


そのまま体の力がなくなり、支えることができなくなったイフェイオンはゆっくりと倒れ、息を引き取った。


最後に浮かんだ光景は小さい頃のエニシダの笑顔だった。





※※※





一連の出来事を遠くで見守っていたユリウスは、イフェイオンが自分の心臓に剣を突き刺したのを見て慌てて名を呼んだ。


「イフェイオン様!」


躊躇わずに穴の下へと飛び降りる。


何年、いや何十年と放置されていたせいか、すごい悪臭がしたが、ユリウスはイフェイオンの生死の確認を最優先させた。


倒れたイフェイオンを仰向けにして確認すると息が止まっていた。


剣を抜いたら血が流れて出血死するため、どうしたらいいのかと頭がパニックに陥った。


魔法さえ使えれば助けられるのに、とないものねだりをした。


国は滅亡寸前。


助けを乞おうにも、誰がどこにいるのかすらわからない状態だ。


少し前までイフェイオンに対しての怒りや憎しみを抱いていたのに、今は心臓が張り裂けそうなほど強く握られたみたいに痛かった。


英雄として称えられ、何度も死の淵から帰還し、部下を守りながら戦い、絶対に勝つ。


そんな男が死ぬはずないと思っていた。


誰よりも強くて、誰よりもかっこいい男。


ルーデンドルフ家の騎士でなくても、イフェイオンに憧れる騎士は大勢いる。


そんな男があっけなく死んだ。


それも自殺。


ユリウスは信じられなかった。いや、信じなくなかった。


ここ一年、眉間に皺を寄せ、苦しい表情ばかりしていた男が、幸せな顔をしている。


なんで死を選んだのにそんな表情ができるのか理解できなかった。


これから自分はどうすればいいのか、どうするべきなのか全くわからなかった。


ただ一つ、ユリウスは最後に自分のやるべき役目があることだけはわかった。




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