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私達、婚約破棄しましょう  作者: 若狭巴


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絶望


伯爵の思いとは裏腹に、公爵は一度も手紙を送ってくることはなかった。


一日、また一日と日が経つにつれ、伯爵は自室の窓から正門を見張り、来訪者が訪れるたびに公爵からの手紙はなかったかと尋ねるようになった。


ない、と言われたら、その報告をした者に暴言を吐き、物を投げつけ、八つ当たりをした。


薬は文字も読めない孤児院たちを集めて黒魔術わ使わせた。


薬作りを手伝わせ、お金も払う、と言えば彼らは喜んでついてきた。、


「伯爵様。ありがとうございます」自分たちのような人間にも優しくしてくれて、と子供達は心の底から感謝した。


そんな子供を嘲笑うかのように伯爵は嘘の説明で、疑問を持たせず、黒魔術を使っていると思わせない方法で薬作りを手伝わせた。


塗り薬を作る作業場は別にあるため、使用人達は孤児院の子供たちが何をやらされているのか把握していなかった。


嫌な予感はしていたが誰も助けようとはしなかった。


見て見ぬふりを決め込んだ。


余計なことをして自分に火の粉が振りかぶってくるのが嫌だったから。


そうして数日が経った頃、魔族が魔物を引き連れて攻めてきた。


最初は誰もが、なんの冗談だ、と笑って聞き流した。


毎回、英雄であるイフェイオン・ルーデンドルフに負けているのに。


その男がいるとわかった上で侵攻するなどあり得ない、と。


だが、なかなかイフェイオンが現れない。


そこで、民は気づいた。


英雄は今この国にいないため、魔族は攻めてきたのだと。


誰もが大丈夫かと心配した。


伯爵も同じように心配した。


大丈夫なのか、と。


靄がかかったかのように頭が正常に動くことが出来ず、伯爵は自分がいま何をするべきかわからなかった。


逃げるべきか、留まるべきなのか、判断できなかった。


家族や使用人達が何か叫んでいるが、公爵の耳はキーンと変な音が鳴り続け、よく聞こえなかった。


暫くすると元に戻るが、妻と娘の甲高い声に耳がやられ、結局また元に戻った。


聞き取れた言葉を繋ぎ合わせてなんとか文章を伯爵は作ったが、そんなことしなければ良かったと後悔した。


妻と娘の口から発せられた言葉は自分たちの心配と金の心配だけだった。


昔、伯爵は戦争が続けば薬が売れ金儲けできると言ったことがあるが、妻と娘が自分の心配よりも金の心配を優先させたことが許せなかった。


結局、伯爵が何もできずにいると国王からの手紙が届いた。


そこに書かれていたのは薬を今すぐ戦場に届けろ、という内容だった。


普段の伯爵なら「偉そうに命令するな」と怒鳴り散らしてから命令通りに動くのに、今日はどういうわけか「ああ、そうか。そうすれば良かったのか」と納得したような言葉を呟いた。


そこでようやく執事は伯爵がおかしいことに気づいた。


だが、その時には手遅れだった。


執事は伯爵の命令で作った薬を全て魔族と戦っている戦場へと届けるよう命じた。


オルテル家の薬が届いたことで劣勢を強いられていた部隊は傷が治り、戦う前の健康状態に戻ったお陰か、一気に戦況は逆転した。


その報告を受けた国王はオルテル伯爵家にお礼の手紙が送った。


後日、褒章と下賜を与えることにした。


それを聞いた伯爵夫人と娘は自分の手柄のように喜び、お茶会を開いた。


オルテル家の活躍を聞きつけた貴族たちはこぞって参加し、媚を売り出した。


自分より身分が上の貴婦人たちが媚を売る姿は滑稽で、夫人とアドリアナは冷ややかな笑みを浮かべた。


当分の間、オルテル家には貴族たちからの贈り物が届いたが、魔族がカイネル伯爵領地を占領したという知らせが国中に広がるや否やそれどころではなくなった。


カイネル伯爵家が負けたということはエカルト侯爵家とフロンティラ子爵家も負けたということになる。


ルーデンドルフ公爵はレイサン国と戦争中でイフェイオンは国にいない。


流石にこれは、と焦り始めるが、ほとんどの者は他人事のように感じ焦ることはなかった。


カイネル伯爵家から遠くの場所にいる者たちは特にまだ大丈夫だ、と思っていた。


そんな国民の心情を嘲笑うかのように今度はルーデンドルフ家の隣の領地、バルガス男爵家が襲われた。


もし、ここも落とされたら魔族たちに挟まれてしまう。


逃げ場がなくなってしまう。


東は海。北と南は魔族と交戦。西はレイサン国。


誰かが言った。


「大丈夫だよな」


昨日までは自信を持って「大丈夫だ。俺たちが死ぬことはない」と言えたが、今は言えない。


誰もが死を感じ始めた。


それでもバルガス男爵家の領地の隣はルーデンドルフ公爵家が治る領地。


彼らの部隊は国一。


例え主人がいなくても大丈夫だろう、と期待した。


その期待に応えるべく彼らは魔族たちを圧倒した。



その知らせを聞くなり、人々はまたいつもの生活に戻ろうとした。


夜になると寝ている間に魔族がここまでくるのではないか、と心配になるが朝になるといつもと変わらない。


ああ、考えすぎだった、と何度も繰り返して安心し警戒しなくなった頃、バルガス男爵家の領地が占領されたと知らせれ、国中が絶望に包まれた。

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