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私達、婚約破棄しましょう  作者: 若狭巴


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国王


「よく来たな。オルテル伯爵」


国王は玉座に座り、顎を上げて、見下すように伯爵を見下ろした。


誰が見てもその態度は傲慢だった。


陰で貴族たちから「プライドが高いだけの無能」と呼ばれている言葉が不意に伯爵の頭に浮かんだ。


まさに今の国王の姿はそうだったからだ。


伯爵は吹き出しそうになるのを耐えた。


「偉大なる国王陛下にご挨拶申し上げます」


伯爵は皮肉のつもりで「偉大なる」という言葉を強調した。


最近、情緒不安定で周囲に迷惑をかけていたが、今はその出来事が嘘だったかのように心が落ち着いていた。


国王にあったら怒りが爆発するかもしれないと恐れていたが、その心配はなかった。


今の伯爵は品があった。全ての所作に余裕があり優雅に見えた。


まさにこれが貴族。手本にするべき姿をしていた。


そんな伯爵の姿に国王だけでなく、謁見の間にいた者たちが目を奪われた。


国王は伯爵に圧倒された事実を隠そうと、声を張り上げた。


「薬はできたか」


金雀枝を苦労して手に入れたのだから、と恩着せがましく国王を言う。


「もちろんでございます」


伯爵は微笑む。


まるで春の訪れを感じさせるような温かい笑み。


オルテル伯爵の悪名を知っている者なら彼がこんな笑みを浮かべられると目の前で見ても信じることはできないだろう。


現に彼らは信じられなかった。夢でも見ているのではないかと、自身の頭と目を疑った。


「持ってきてくれ」


伯爵のその声で国王と貴族たちは我に返った。


伯爵の真後ろに設置されてある豪華絢爛な扉がゆっくりと開き、一人の男が入ってきた。


男は黒い箱を持っていた。


話の内容から推測するに、その箱に薬が入っていると誰もがわかった。


伯爵は箱から一つ缶を取り出し、侍従に渡した。


侍従からその缶を受け取った国王は蓋を開けて中身を確認するとあからさまに落胆した表情を作った。


「前と変わったようには見えんが」


国王は馬鹿にするように冷たく言った。


「材料は変わりませんので」


伯爵はそう言った後に「しまった」と後悔したが、誰も気にしていないのか何も言ってこなかった。


伯爵はホッとしながら「見た目は変わりませんが、使ってみれば違いを感じることができるでしょう」と自信を持って言う。


その姿を見た者はこれまでの伯爵の功績を思い出した。


そして、堂々としている伯爵を見て信じることにした。


だが唯一、伯爵のその姿を気に入らなかった国王は扉の前で待機していた兵士の一人を呼んだ。


兵士は国王の前までいき、指示を待った。


国王はその兵士に淡々と自分で自分の腕を斬れと命じた。


まるで散歩に出掛けてくると言っているかのような口調で、命じられた兵士だけでなく、聞いていた者たち全員が聞き間違いかと思ってしまうほどだった。


兵士が言われた言葉を咀嚼しようと頭の中で繰り返していると、中々腕を斬らない兵士に国王は苛立ったようにもう一度命じた。


誰も国王を止めなかった。


止める気すらなかった。


止めて、ならお前がやれ、と言われるのが嫌だったから。


兵士に同情しながらも、自分でないならいいと他人事のように皆が思っていた。


命じられた陛下は覚悟を決め、自身の腕を斬った。


血が鮮明に飛び出す。


プシャーと音が聞こえてきそうな程勢いよく溢れ出す。


兵士は顔を顰めながらも、これでいいのかと国王を見た。


国王は顔色一つ変えずに「誰がそこまでやれと言った」と苛立ちを含んだ声で呟いた。


国王は侍従を見て、顎で指示を出す。


侍従は最初は何を意味するのか理解できなかったが、すぐに兵士に腕を斬らせたことと、その前に伯爵が薬を見せたことを思い出し、二つを結びつけて何をするべきか理解した。


侍従は噴き出る血に顔を顰めながら近づく。


手が兵士の体に触れる距離まで近づくと、彼の血が服に飛び散った。


そのせいで余計に侍従の顔は歪んだ。


侍従は缶の蓋を開けて、中身を掬い兵の腕に塗った。


数回、傷の上を行き来すると、いつの間にか血は出なくなり、傷跡はすっかり消えていた。


まるで魔法のように消えたのを見て、国王も認めるしかなかった。


「よくやった」


国王はただ一言そう言った。


「見に余るお言葉です」


伯爵は口ではそう言ったが、内心は国王のその言葉に腹が立ち、この部屋から出るまでの間、ずっと暴言を吐き続けた。


「この薬は今どれくらいできている」


「できているのはここにあるので全てでございます」


伯爵は本当のことを言った。


普段の伯爵なら絶対に金になる薬を全て向上するなどあり得なかったが、これは黒魔術で作った薬。


例えそれでも金になるとわかっていても不気味で手元に置いておきたくなかった。


国王に呼ばれたとき、全て向上すれば不気味な薬を手放せ、尚且つ自分の好感度も上がると考えた。


「ほぅ。全て持ってきたのか」


国王は伯爵にも可愛らしいことができたのかと思った。


機嫌が良くなり、少し上半身を前に倒した。


「はい。当然でございます。この薬を完成させることが出来たのは全て陛下のおかげでございます。その感謝を示させていただく機会を与えてくださり感謝しめております」


伯爵の従順な態度に国王は自尊心が満たされ、ますます機嫌が良くなった。

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