第95話 残暑のクリスマスパーティー
ゴールデンウィーク ハズ カム
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「エージェント大河、報告ありがとう。状況は理解したわ。」
これが素なのかどうかわかんないけど、最近の来海ちゃんのキャラ設定は不明だ。
「ジョシュア君カッコいいからね、モテるんだろうな~。あ、今日の鶏は小ぶりだから二時間くらいで焼けると思うよ。夕飯食べて行ってよ。」
キッチンで鶏の丸焼きをオーブンに入れながら本間さんが微笑んでいる。鶏?いやそれターキーってやつじゃないかい?この残暑厳しい時期にオーブン料理とは、かなりの強者。
「あの子、詰めが甘い時があるから、まだ油断は出来ないわね。明、引き続き、彼等の動向を調査して報告して。」
引き続き?それはお約束できないな。
「来海ちゃんもスパイごっこしてるの?」
大河が素に戻って尋ねた。
「そうよ。学校で流行ってるの。」
「へぇ…それで、来海ちゃんの立ち位置は誰なの?」
大河も来海ちゃんの様子に戸惑っているのだろう。
「そうね、Nってことにしておこうかしら。」
「へぇ…小学校なのに、随分と渋い古めの映画が流行ってるんだね。」
大河にしては珍しく、苦笑いしている。
残暑厳しき折のクリスマスのような晩ごはん。
「今日は、来海と二人のつもりだったから、鶏が小ぶりなんだけど、シチューも作ったから、沢山食べて行ってね。パンも沢山あるし、ご飯が良かったら、冷凍したのがあるから言ってね。」
すげ~。の一言しか出ない。
この後、登場予定の巨大ティラミスもこの食事で完食するのかもしれない。
ターキーのお肉を切り分けてもらって、ギンちゃんも嬉しそうにハムハムしている。
ターキーの丸焼きの周りをこんがりと美味しそうな焼き色を付けた、ジャガイモ、ニンジンが取り囲んでいる。そして、このグレイビーソースが美味しい。正直、グレイビーソースって味が薄くて、何のためのソースなの?って思っていたけど、このソースはメッチャ美味しい。
「クリスマスみたいなメニューですね。」
そう尋ねると、本間さんが
「本当だね、そのつもりはなかったんだけど、こういう簡単な焼いたり煮たりする料理しか作れないから。それと、知ってる?フィリピンではberが語尾に付く月はもうクリスマスシーズンなんだよ。だから九月は立派なクリスマスシーズン!」
「来海ちゃんは、この状況を知ってどうするの?」
大河が来海ちゃんに尋ねた。
「特に何もしないわよ。」
「じゃあ、どうして知ろうとするの?」
「知らないよりも、知ってる方が良いじゃない。情報はあるに越したことないわよ。」
来海ちゃんが平然と答える。
それ、小学生の返答じゃないから、もう、子どもの振りをすることを放棄したのだろうか?
「そうかなあ、僕は知りたくないな。浮気されたとしても、僕が知らなかったら、それはされてないのと同じじゃない。」
「そんな考え方していたら、相手の思う壺じゃない。私は良くないと思うけどな。明はどっち派?」
急にそんな重めの話を振られましても…浮気されたら?…それ以前にお付き合いしたことないしなあ…でも、一つ言えることがある。
「私は、知りたくない。浮気云々じゃなくて、知らなくていいことは知りたくない。」
「へー、意外。明は何でも知ろうとするのかと思ってたよ。だから、今日もジョシュアさんの浮気の現場を張ってたのかと思ってた。」
「私ってそんな風に思われてるんだ。何でも知ろうとするって。」
そう言って大河に目をやると。大河が申し訳なさそうに
「ごめん、悪い意味で言ったんじゃないよ。何でも深く考えて、真相を探ろうとするところがあるから、僕はいい意味で言ったつもり。でも、気にしちゃったんだったら、謝るよ。」
そう言われて、大河に申し訳ない気分になった。
でも、『知り過ぎる』ってことは、きっといいことじゃない。もし、本当に自分が何でも知ろうとしてるのであれば、それは自分でも注意しなくてはいけないことなのかも。
「過去に辛いことでもあったの?知り過ぎて、辛い思いをしたことがあるの?」
来海ちゃんが、ちょっと申し訳なさそうな表情で尋ねて来た。
そう聞かれて考えた…どんなに考えても、記憶に残るほどの辛い経験はしたことがないなあ。
「ないよ。」
私がそう答えると。
「へえ、そうなんだ。」
来海ちゃんがキョトンとした顔で答えた。
「明、変わってるもんね。これもいい意味ね。」
キッチンで残り物を片付けていた本間さんが、声を掛けて来た。
「難しい話をしてるんだね。僕は今だにその辺のバランスがうまく取れてないなあ。きっと、人間でいる以上、永遠に悩み続けるんだろうね。」
本間さんの言う通りだ。人間である以上、知りたいと思う気持ちと、知ってしまった後の後悔、何度繰り返しても、反省しても、また繰り返すんだろうな。銀ちゃんたちには、そういう事はないんだろうな…きっと。
結局、今回のお出掛けデートもみんなでワイワイしてしまった。来海ちゃんの家でも美味しいご飯を食べて、カードゲームをして、気が付くと結構遅い時間。大河も今日は実家に帰って、明日の朝、東京に戻ることになった。
帰り道、大河とギンちゃんと並んで歩いていると、横にグレーのSUVがゆっくりと止まった。
「三人おそろいで、今、お帰り?」
窓を開けて、ジョシュアさんが声を掛けて来た。
「来海ちゃんのお家で夕飯をご馳走になってました。ジョシュアさんも、今、お帰りですか?」
助手席には誰もいない。
「うん、彼女を家まで送って来たところ。」
「ジョシュアさん、あの人と付き合うんですか?」
大河が尋ねた。
「まだ分からないよ。今日、初めて二人で食事しただけだし。」
「ジョシュアさんは、明のことどう思ってるんですか?」
思い詰めたような表情で大河が尋ねた。
「え?」「え?」
ジョシュアさんと私、同時に声を上げてしまった。
「明のこと?は好きだよ。でも、これとそれとは…」
そう言って、ジョシュアさんがちょっと考えて、
「ああ、明は僕の事なんて眼中にないから、ねえ、明。」
笑いながらそう答えた。
「大河、何度も言ってるけど、ジョシュアさんと私は何でもないんだよ。私が好きな人は別の人だから…」
そう言って、塀の上のギンちゃんに目をやった。
「え、本当にそうなの?」
大河が目を丸くして驚いている。驚きたいのはこっちだよ、ずっとそう言ってたでしょう。
「そう、そう、明はその人に夢中だから。」
「え、僕は絶対に二人が付き合っていると思ってたのになあ。じゃあ、ジョシュアさんは、本当に来海ちゃんと結婚するんですか?」
「うん、来海が大人になってもそのつもりでいたらの話だけど。」
「へえ、じゃあ、今はフリーなんですか?」
「来海との約束があるから、完全フリーじゃないけど、まあ、期限付きのフリーってことかな?」
「へぇ…」
まだ、大河は目を丸くしている。
「明が好きな人って誰なの?」
次の日、神社の境内で銀ちゃんに尋ねられた。
「銀ちゃんに決まってるじゃない。」
自分の心臓の音が耳の中で鳴っているくらいバクバクしてる。でも、はっきりと答えることができた。
言い終わって、そのまま銀ちゃんのヘーゼルの瞳を見つめた。見つめながら、これは夢かもしれない、でも夢でもいいや、すご~く幸せだなって思った。
きっとこのまま…
銀ちゃんは私を吸い込むようなその瞳でずっと私を見つめている。
ああ、きっとこのまま…
こんな瞬間が二人に訪れるなんて、夢でもいいから、誰も邪魔しないで、お願いだから。
そう思った瞬間。
「僕も明が好きだよ。」
そう言って、銀ちゃんがニッコリ微笑んだ。
「銀ちゃん、私も銀ちゃんが好き、大好き。」
ほほ笑む銀ちゃんの顔を見つめて、そう答えた。
「僕も明が大好き。」
そう言って、銀ちゃんは微笑み続けている。
いや、そうじゃなくて…ほら、この流れは、私も良くは分からないけど、あれよあれ…
手を繋いで、お互い見つめ合い、大好きと言い合っている。
これは立派な両想い。まあ、銀ちゃんと私にしては、この夏休みの間に随分進展あったな。と思うことにした。
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